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『雌蛇の罠&女豹の恩讐を振り返る』 (22)ムエタイ少女、男子キックボクサー沈める。

佐知子は娘の麻美が、友達の父親と格闘の末ケガを負わせてしまったことに頭を悩ませていた。小学生女子なのに、、大人の男性に馬乗りになって殴り泣かせてしまうなんて将来が思いやられる…。

麻美は年頃でもあり、自分と今井との関係を知ると反抗的になってきた。素行の面も気になり今井や息子の龍太と相談の結果、彼女が以前から希望するNOZOMIが立ち上げたNLFSへの入校テストを受けることを許した。あそこは全国から格闘技で実績ある少女が多く集まるが、大抵の少女は面接の段階で逃げるように帰ってしまう。

佐知子は麻美が受かるなんて思ってもいない。あそこは特別な女の子しかついて行けないということを噂で知っていた。
それもそうだろう、、代表のNOZOMIは自分の夫を倒した女、他に元柔道五輪メダリストの鎌田桃子、力士の顔面を破壊したシルヴィア滝田、柔術マジシャン奥村美沙子等天才や怪物ばかりが揃っているのだ。

“麻美も自分の力を思い知ればいい。そうなれば少しは大人しくなるだろう…”

麻美は小学校の卒業式を10日後?に控えたある日、NLFSの入校テストを受けに行く。
面接官はスクールで選手兼鬼教官の鎌田桃子。全国から集まる様々な格闘技で実績ある少女たちも、この鎌田桃子に睨みつけられるとスゴスゴと退散するものが多い。その日も6人の少女が受けに来たが、5人の少女は鎌田の眼光と強靭な肉体を見ると恐れをなして帰ってしまった。

「アナタの名前と志望動機は?」

「はい! 堂島麻美です。志望動機は将来NOZOMIさんを倒す目的のためです」

「NOZOMIさんを倒す???」

鎌田が書類から目を上げると、ネコ科の猛獣を思わせる鋭い眼光の少女がジッとこちらを睨んでいる。ゾッとした。
そこへ麻美とはKG会道場で面識のあるシルヴィア滝田が入ってきた。鎌田は目の前にいる少女が、かつてNOZOMIと死闘を演じた故堂島源太郎の娘であることを知る。

鎌田とシルヴィアが驚いたのは実戦テスト(スパーリング)をさせた時。
対したのはNLFSが雇ったスパーリングパートナー。彼はアマチュアではあるが総合格闘家の25才男子である。
そんな男を相手に小学校卒業前の女の子だというのに、麻美はいきなりタックルからテイクダウンを奪うとマウントになった。そして男子格闘家の顔面を殴打。男は血の混じった唾を吐いた。NLFSがわざわざ雇ったスパーリングパートナーであり、アマチュア総合格闘技大会ではそこそこ活躍する男なのだ。それを12才の女の子が、、、勿論麻美の攻勢はそこまでで最後はアームロックでやられてしまったが、鎌田とシルヴィアは驚きのあまり目を見合わせた。

「あの娘の目はヒョウ。女豹よ!」

鎌田桃子はそう呟いた。
こうして、麻美は晴れてNLFSに入校。当分は練習生としてプロのリングを目指す。


春になると、龍太は高校生になりそこでも柔道部に入った。それに、KG会道場での空手、父のトレーナーだった今井や岩崎からも色々指導を受けていた。
麻美はNLFSの寮に入ると、そこから中学に通う。彼女はNOZOMI等の指導のもとその素質を開花させようとしていた。
龍太がプロデビューするのはその2年半後で18才の時、麻美は3年半後の16才。

その前に、この物語でのもう一人の重要人物のことにも触れておく必要があります。

天才ムエタイ少女、天海瞳。

奧村美沙子がNOZOMI柔術の遺伝子ならば天海瞳はムエタイ遺伝子。瞳の素質を見抜いていたNOZOMIは、わざわざタイからムエタイの名トレーナーを招いてまで育てようと惚れ込んでいた。

彼女の名前が格闘技ファンの間に知れ渡ったのは14才中学2年生の時。まだ義務教育も終えていないというのに、プロのキックボクサーとエキシビションながらNLFSの練習生としてリングに立ち相対した。
相手はそれまで16勝18敗(32才)とパッとしない戦績の丸岡聡というキックボクサーだったが、いくら何でも中2少女と真剣にやるはずはないと思われていた。
試合はヘッドギア、12オンスグローブ、3分2Rで行われた。14才少女を相手に丸岡は照れ笑いを浮かべながら、しかもエキシビションということもあり、適当にあしらうつもりであったと思われる。

『14才少女が男子キックボクサー沈める
天海瞳、戦慄のKO勝ち!』

瞳は茶番(エキシビション)だなんて思っていない。ガチで挑み、最後は首相撲から槍のような鋭角な膝が内蔵を抉った。リング上でのたうち回る丸岡聡。
 哀れ、、、プロのキックボクサーが、2年前まで小学生だった女の子にガチで倒されてしまったのだ。

麻美がNLFSの寮に入った時の最初のルームメイトがこの天海瞳である。
麻美はこの自分より2つ年上の天海瞳のことは既に知っていた。それは、兄である龍太と瞳がキックボクシングジムでスパーリングしているのを見たことがあったからだ。瞳は龍太より1つ年下だが、この天才ムエタイ少女の気迫とスピードに龍太は圧倒されていた。しかし、ジワジワと男女の力量差が出てくる。それにウェートの差もあり形成逆転すると瞳はダウンを奪われた。
それでも倒されても倒されても向かって来る。泣き叫びながら必死に向かってくる瞳に龍太は感動する。あれが、龍太と瞳の出会いだったんですね。後にこの2人は結ばれ一子を設けることになるのです。

天海瞳と丸岡聡のエキシビションマットの模様は、本編『女豹の恩讐』(29)NOZOMIの遺伝子、美沙子と瞳。にあります。

堂島龍太と天海瞳のスパーリングの模様は
本編『女豹の恩讐』(31)思春期 〜 (32)龍太の初恋? にあります。


後に堂島龍太の妻になる天海瞳がエキシビションではなく正式にデビューするのは彼女が16才の時。
そして、龍太も麻美もプロのリングに上がっていくことになります。いよいよ、この物語も佳境に入っていきます。
(時系列が前後するのはご容赦を)


次回更新は来週かな?






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