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2004年5月12日(水)

【罠解除士試験場:中津 明日菜】
「はー、まじこれ出来る気がせん」
「諦めたらそこで試合終了ですよ」
 大きなため息の後で投げやりなセリフを吐いてしまった宗 拓巳に向かって中津 明日菜がどこかで聞いたようなセリフで声をかけた。ここは罠解除士試験場。本日は2次試験5日目である。現時点で罠解除士で課題クリアしているのは木島 利夫と中村 茂美の2名であり、残り8名が3人目の課題クリアを目指して自分の指先の集中している。指先に光を灯そうと集中し始めてから実質4日目であり、いい加減に本当に出来るのかどうか不安に感じる頃である。実際2名がクリアしているので、物理的には出来ることが証明されてはいるが、では自分が出来るのかというと何の保証もなく、このまま出来ないままで試験を終えることも十分あり得るのである。もし、そうであれば今頑張って集中していることがすべて無駄になってしまうので、結果出来ないという不安を持っていると、気持ちが前に向かないのも確かである。
「諦めてはいないですけど、出来る気がしないのは確かなんですよね」
 再度大きくため息をつきながら宗が言葉を漏らす。基本的にこの課題はそもそも現実空間では出来ないことであり、今までに行われた2次試験でもだいたい半数の受験者がクリアすることなく試験を終えている。ここでクリアできなかった受験者はこの後これを試す機会がないので、出来なかった理由として期間が足りなくて出来なかったのかそもそも素質がなくて出来なかったのかは判断が出来ない。もし素質がないのであればもうはっきり言って欲しいと思わなくもないのである。
「まあ、出来るまで出来る気がしないのはみんな一緒なんだよ。でもどうせ後3日で終わるんだから頑張ってみなよ」
 明るい笑顔で声をかけてくれた中津の言葉に、少しやる気を取り戻した宗は少しだけ前向きにこの後、鍛錬を行うことができた。ただ、本日も罠解除士での3人目の課題クリア者は出なかったのである。

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