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80才の童話作家 ②

ぬいぐるみのバニーちゃん (第2話)

 クレちゃんのおバアちゃんは、いくつ
か町(まち)をこえた山(やま)の中(なか)に
あります。

 そこは木(き)や花(はな)がいっぱいあっ
て、空気(くうき)や水(みず)がとっても
おいしいところです。

 パパは、一(いっ)週間(しゅうかん)の休
(やす)みが取(と)れたので、きょうから
ママと三人(さんにん)でおバアちゃんの
家(うち)に行(い)くことになりました。

 町から車(くるま)で3時間(じかん)も
かかるけれど、クレちゃんは平気 (へい
き)です。とはいっても、クレちゃんは
車にのるとすぐねてしまうので、あまり
かんけいないみたいです。

 ところが、きょうはぜんぜんねむく
ならずに、ずっとおしゃべりにむちゅう
になっていました。

 「ねえ、パパ」
 「はーい、クレはちゃん」
 「バーバはどうして山(やま)の中
  (なか)にいるの?」
 「そうね、バーバが生(う)まれた
  ところだからかな?」
 「じゃ、クレちゃんは病院(びょう
  いん)で生まれたから、病院も
  お家(うち)なの?」
 「そうだよ、クレちゃんはびょう
 いんと、バーバの家と、ヨコハマ
 の家があるんだよ」
 「わーい、お家が3(みっ)つもある
  んだ」
 「じゃクレちゃんはどれが好きか
  しら?」
 「みんな、好(す)き。でもバーバの
  お家がいっちばん好き!」
 「まあ、クレちゃんったらおバア
  ちゃんん子(こ)なんだから」
 「うん、バーバね、大好(だいず)き
  だもん。ワンちゃん、ネコちゃん、
  おサルさん、ハトさん、クマさん、
  たくさんいるから。クレちゃん、
  動物(どうぶつ)園(えん)の園長(えん
  ちょう)さんなんだよ」
 「そう、すごいわね」

 車(くるま)は坂(さか)をいくつも上(のぼ)
り下(お)りしながら、さいごの坂道(さか
みち)を上(あ)がって行(い)くところだった
のです。道(みち)のりょうがわは、高(たか)
い木(き)がおおいかぶさるようにおくまで
続(つづ)いていていました。しばらく行く
と白(しろ)いかべで、赤(あか)いやねの家
(うち)が見(み)えてきました。げんかん先
には、バーバがえがおで手をふっている
のが見えました。イヌのポチもしっぽを
ふりながら、大(おお)きな声(こえ)で「ワン
ワン」と出(で)むかえてくれました。クレ
ちゃんはポチの首(くび)にとびついて思(
おも)いきりだきしめました。ポチはフサ
フサした毛(け)でおおわれていて、とても
気(き)もちがいいです。

 「ハーイ、クレちゃんいらっしゃい」
 「バーバ、こんにちは」
 「はい、こんにちは。つかれたで
  しょう」
 「ううん、ぜーんぜん」
 「あら、そう、えらいわね」

 クレちゃんは元気(げんき)よくげんかん
のドアをあけて入(はい)っていきました。
するとネコのチビがすましがおで、いつ
ものように足(あし)のほうにすり寄(よ)って
きました。両足(りょうあし)をつかんで
高(たか)くもちあげてからむねにからだっ
こしました。チビは目(め)をほそめて
「ゴロゴロ」とまんぞくそうにのどを
ならしています。

 山(やま)は日(ひ)がくれるのが早(はや)
いです。もうすぐ、夕食(ゆうしょく)の
時間(じかん)になりました。クレちゃん
はおなかがペコペコだったので、2回
(にかい)もおかわりをしました。ところ
が、みんながお話(はなし)をしている
うちに、クレちゃんはハシを持(も)った
ままウトウトしはじめました。そして、
とうとうテーブルにひじをついて頭
あたま)をのせ、クークーとねむって
しまいました。

 「あらあら、ねっちゃったわよ」
 「けさ早かったし、車(くるま)で
 もねなかったからな。じゃ、ボク
 が二(に)かいのベットにねかせて
 くるから」
 「おねがいね、かいだんに気(き)
  をつけてよ」
 「わかった」

 クレちゃんはスースーねいきを立てて、
もうユメの中(なか)でした。ベットに入
(い)れても目(め)をさましませんでした。
パパは三(み)つあみの髪(かみ)をきちんと
そろえ、毛布(もうふ)とふとんをあごの
下(した)まで持(も)ってきてかけてやり
ました。

そのとき、バーバがそっと近(ちか)よって
来(き)ました。手(て)にはぬいぐるみの
ウサちゃんをもっています。クレちゃん
は、夜中(よなか)に目(め)がさめたとき、
ウサちゃんのバニーがまくらもといない
と、それは大変(たいへん)なさわぎになり
ます。バーバはクレちゃんの右(みぎ)うで
にそっとバニーをだかせました。

「よかった、これでだいじょうぶだわ」
「お母(かあ)さん、すみません」
「ううん、この子(こ)はバニーちゃんが
 大好(だいず)きだからね」
「うっかり忘(わす)れるとこだったよ」

 バニーは、クレちゃんが生(う)まれた
ときからの友(とも)だちで、もう大(だい)
のなかよしです。まいばんクレちゃんが
あんまり強(つよ)くだきしめたり、なで
たりするものだから、もうあちこちすり
切れて、中身(なかみ)がはみだしそうに
なっています。とくに耳(みみ)と足(あし)
はもうやぶれそうです。いまもクレちゃ
んが体(からだ)をしっかりだきしめている
ので、バニーのせなかのほねがボキボキ
とおれそうです。

 でも、バニーはぬいぐるみなので、
自分(じぶん)ではどうすることできませ
ん。じっと朝(あさ)まで待(ま)っている
だけなのです。バニーは悲(かな)しくて、
なみだがポロポロと出(で)てきました。
クレちゃんの顔(かお)に落(お)ちました。

 (んん?なんだろう)

クレちゃんは冷(つめ)たい涙(なみだ)が
まぶたからほほを伝(つた)ったので、フッ
と目(め)がさめました。バニーちゃんは
ユメの中(なか)だけで、クレちゃんと
お話(はなし)ができたのです。

 「あっ、ごめんなさい、クレちゃん」
 「うーん、バニーちゃんどうしたの」
 「ううん、なんでもない」
 「泣(な)いてたの、おなか痛(いた)い
  の?」

 「ううん、ちがうの、耳(みみ)と足(あし)
  がいたいの」

 そういわれてクレちゃんがバニーの耳と
足を見ました。フサフサだった耳はや破
(やぶ)れ、血(ち)がにじんで赤(あか)くなっ
ています。足の先(さき)は綿(わた)がいま
にもとび出(だ)しそうに、まっ赤にむくん
でいました。

 耳(みみ)は、バニーちゃんとって、命
(いのち)と同(おな)じぐらい大切(たいせつ)
なところです。それはきけんなとき、ピン
と立(た)って音(おと)を聞(き)きわけること
ができます。そして、後(うし)ろ足(あし)は
ピョンピョンとはねて、どこへでも走(
はし)って行(い)くことができます。

でも、バニーは耳も足もとても痛(いた)
くて、それができないほどボロボロに
なっています。よく見(み)ると、まっ赤
(か)ににじんでいたところから血(ち)が
流(なが)れはじめています。

 「あっ、たいへんだ、ちょっと
  まって」

 クレちゃんは首(くび)にかけたポッシェ
の中(なか)から、バンドエイドを何枚(なん
まい)もとり出(だ)して、はりつけようと
しました。でも血(ち)があとから出(で)て
きて、すぐはがれてしまうのです。クレ
ちゃんはどうしたらいいのか、こまって
しまいました。

 そのとき、ちょうどネコのチビがへや
に入(はい)って来(き)ました。先(さき)ほど
からじっとようすを見(み)ていたぬいぐる
みたちは、ネコのチビにオモチャばこから
はこび出(だ)してでくれるようにたのみま
した。

 「チビさん、おねがいですから、わたし
  たちをベットにはこんでください」
 「ん?どうしてかな?」
 「バニーちゃんがケガで大変(たいへん)
  なんです」
 「ケガ?どれどれ」

 そういったチビはベットにピョンと飛
(と)び乗(の)りました。するとクレちゃんに
だかれたバニーちゃんが、足(あし)を血(ち)
だらけにして泣(な)いているのが見(み)え
ました。

 (こりゃたいへんだ、よし、わかった)

 いつもいたずらしてかみついたりする
チビは、いそいで山(やま)づみになって
いるオモチャばこにもどってきました。
そして、一人(ひとり)ずつ口(くち)にくわ
えては、ベットまでなんども行(い)ったり
来(き)たりしました。

 クマさん、おサルさん、ブタさん、シカ
さん、カンガルーさん、ペンギンさん、
コアラさんなど、みんながとってもしん
ぱいして、ゾロゾロとクレちゃんのまくら
もとにあつまってきました。

 「ウエーン、いたいよー」
 「うーん、こまったな、どうしょう」

 すると、ボスのおサルさんがいいました。

 「病院(びょういん)へつれてったら」
 「病院?どこにあるの?」

 すると、みんがいっせいにいいました。

 「そうそう、森(もり)の病院がいい。庭
  (にわ)の川(かわ)をこえた向(む)こうに
  あるから」

 「そう、でもどうやって行(い)くの」
 「ウサギごやのおじさんがしって
  いるよ」

 と、おサルさんが言(い)ったので、
クレちゃんはベットから立(た)ち上(あ)が
り、まどから下を見(み)ました。そこから
はとても高(たか)くて、おりられそうも
ありません。クレちゃんはがっかりして、
バニーちゃんをだきしめました。

 すると、まどの外(ほか)が急に明(あか)
るくなりました。見ると星(ほし)のつえを
もった白いひげのおじいさんが雲(くも)に
乗(の)って浮(う)かんでいました。

「これこれ、悲(かな)しむことはないぞ、
 しっかり、みんなでたすけあうのじゃ」

「ええ?でもどうすればいいの?」

「わしが、みんなに力(ちから)をかそうと
 思(おも)う。目(め)をつぶって手(て)を
 合(あ)わせなさい」

 そういってから、おじいさんは杖(つえ)
をみんなの頭(あたま)の上(うえ)にかざし、
ふしぎな呪文(じゅもん)をとなえはじめ
ました。

「神(かみ)さま、どうかこの子(こ)たちに
命(いのち)をお与(あた)えください。アブ
フラメン、アブフラメン、アブフラ
メン!」

すると、つえの星(ほし)から光(ひかり)が
とび出(だ)し、みんなの体(からだ)にスーッ
と流(なが)れこみました。そして全身(ぜん
しん)が黄金色(こがねいろ)にキラキラと
かがやき出しました。

 「さあ、もう目をあけていいぞ」

みんながゆっくりまぶたを開(ひら)くと、
なんと自分(じぶん)たちの体(からだ)が
自由(じゆう)に動(うご)くではありません
か。

 「動く、動いた。ワーイ、やった」

 「これこれ、よく聞(き)くんじゃ、
  じゆうに動(うご)けるのは明(あ)け
  がたまでじゃぞ、けっして忘(わす)
  れないように」
 「ハーイ、さあ、みんながんばろう」

 おサルさんはまっさきにまどに飛(と)
び乗(の)っていいました。

「だいじょうぶ、ボクにまかせて」といっ
て、スルスルと木(き)の枝(えだ)をつたっ
て下におりていきました。

 小屋(こや)でねていたおじさんは、おサル
さんからバニーのようすを聞いて、おどろ
いて飛(と)び起(お)きました。

 「おサルさん、すまないがここで
  ジャンプしたら自分(じぶん)の耳
  (みみ)をつかんで、力(ちから)
  いっぱいひっぱり上(あ)げてくれ
  ないか」
 「いいよ、まかしといて」

 おサルさんは枝(えだ)に足(あし)をから
ませ、おちそうになりながら、小屋
(こや)からおじさんをひき上げました。

 バニーちゃんはちょうどコアラの背中
(せなか)にしばられて、ゆっくり下(した)
におりてきました。いたいたしいバニー
のすがたを見(み)て、おじさんは涙(なみ
だ)が出(で)そうになりました。

 「ウエーン、いたいよー」
 「よしよし、すぐよくなるから、
  じゃ、わしの背中(せなか)に
  またがり、しっかり耳(みみ)
  につかまるんだぞ」
 「うん、わかった」

 バニーはありたっけの力(ちから)で
つかまると、おじさんはピョンピョンと
飛(と)び出(だ)していきました。おじさん
はもうスピードで庭(にわ)をぬけ、畑
(はたけ)をよこぎり、川(かわ)をわたって、
森(もり)の病院(びょういん)へと急(いそ
ぎました。

 病院はまっくらでしたが、入り口の呼
(よ)びリンをおすと、ヤギのかんごふさん
がドアから顔(かお)を半分(はんぶん)出
(だ)しました。

 「はい、どなた?どうしましたか?」
 「すみません、きゅうかんです。
  ぬいぐるみのバニーちゃんが血(ち)
  を出(だ)してとまらないのです。
  どうか見(み)てやってください」
 「まあ、それはいけませんね、さあ
  どうぞ」

 いっぽう、シカさんは足(あし)が速
(はや)いので、クレちゃんは大(おお)き
な背中(せなか)にまたがり、首(くび)に
しっかりつまっていました。ほかのみん
なも後(うし)ろに乗(の)せてもらいました。
シカさんはジャンプもすごいけれど、
スピードがとても速(はや)いので、おと
されないようにみんなにひっしにつか
まっていました。病院にかけつけたとき、
バニーちゃんはもうしんさつしつに入
(はい)っていました。

 院長(いんちょう)さんはクマさん先生
(せんせい)です。とても体(からだ)が大
(おお)きくてどうどうとしています。
ちりょうするとき、ゆっくり説明(せつ
めい)してくれるので、みんな病気(びょう
き)やケガのことがよくわかります。
気(き)もちがやさしいので、森(もり)の
動物(どうぶつ)たちはみんな先生(せん
せい)が大好(だいす)きです。

クマさん先生は、血(ち)だらけのバニー
ちゃんを見ても、けっしてあわてたり
しませんでした。

 「どうしましたか?」
 「いたいよー、血が、血が…」
 「そうか、そうか、止(と)まら
  ないんだね。ちょっと見(み)せて
  ね。すぐなおしてあげるから」
 「じゃベットに横(よこ)になってね」
 「はい、…」

 クマさん先生(せんせい)はバンドエイド
をはがしながら、一(ひと)つ気(き)づいた
ことがありました。

 「はて?このバンドエイドはだれに
  つけてもらったのかな?」
 「クレちゃん、5才(ごさい)の女
  (おんな)の子(こ)です」
 「ふーん、たいしたもんだ」

 そうかんしんしながら、院長(いん
ちょう)先生(せんせい)はすばやくバンド
エイドをはがし、流(なが)れる血(ち)を
ふきとってしょうどくをしました。そし
て、やぶれているところをていねいに
糸(いと)でぬい合(あ)わせました。ますい
は打(う)ってあるので、そんなに痛(いた)
くないはずです。でも、バニーちゃんは
さも痛(いた)そうにしかめっつらをして
います。

 さいごに耳(みみ)も足(あし)もほうたい
でグルグルまきにして、ちりょうはぶじ
に終(お)わりました。バニーちゃんはまる
でミイラみたいに、診察(しんさつ)台(だい
)にすわっていました。

 クレちゃんたちが診察室(しんさつしつ)
に飛(と)び込(こ)んだときは、ほうたい
だらけのバニーちゃんになっていたので、
みんなびっくりしました。

 クレちゃんはまっさきにそばに寄(よ)って
声(こえ)をかけました。

 「バニーちゃん、だいじょうぶ?」
 「うん、…」
 「あなたがクレちゃんですか」
 「はい、先生(せんせい)、ありが
  とうございました」
 「もうだいじょうぶですよ」
 「わあー、よかった」
 「バンドエイドが上手(じょうず)
  にはってありましたよ」
 「わーい、先生にほめられた」
 「そう、あそこまで上手にできる
  なんて、すごいことですからね」
 「クレちゃんはね、いつもお医者
  (いしゃ)さんごっこで、練習(れん
  しゅう)してるんだ。わたし、大
  きくなったらお医者さんになり
  たいの」
 「そう、それはりっぱだね。クレ
  ちゃんだったらきっといいお医者
  さんになれるよ」

 クマさん院長(いんちょう)にほめられ
て、クレちゃんは少(すこ)しとくいに
なりました。でもバニーちゃんのケガが
心配(しんぱい)でなりませんでした。

 「あのー。先生(せんせい)、バニー
  ちゃん、ケガはだいじょうぶです
  か?」
 「ケガですか、もちろんだいじょう
  ぶですよ。でもこれからもう少(
  すこ)し大切(たいせつ)にあつかっ
  てあげてね」
 「はーい、わかりました」
 「だけど、よくここまでかわいがっ
  てあげましたね」
 「ええ?どういうこと?」
 「ぬいぐるみは、かわいがってもら
  えなくなると、すぐゴミばこに
  すてられるからね。そして、ゴミ
  焼却場(しょうきゃくじょう)で焼
  (や)かれてしまうんだよ」
 「だって、焼却(しょうきゃく)くさ
  れると死(し)んじゃうんでしょ?」
 「そう、死んじゃいますよ」
 「クレちゃん、そんなことしないよ」
 「そう、クレちゃんだったら、きっ
  とだいじょうぶだろね」

 みんなはそんなあたりまえのことも気
(き)づいていませんでした。でも、先生
(せんせい)のことばに背(せ)すじが寒(さむ)
くなる思いでした。

 クレちゃんは、バーバの家(うち)に来
(く)るときは、バニーちゃんといつも遊
(あそ)びます。夜(よる)もズーッといっしょ
に寝(ね)るので、みんなもそれが普通(
ふつう)だと思(おも)っていたのです。

 だから、みんなひまをもてあまして、
ブツブツ言(い)ったり、ただボーッとして
いるだけでした。バニーちゃんの体(から
だ)がドンドン弱(よわ)くなっているし、
耳(みみ)や足(あし)から血(ち)が出(で)そう
になっていても気(き)にかけていません
でした。

 きょうは、みんなうっかりしていた
ことがはっきりわかったのです。みんな
顔(かお)を見合(みあ)わせて、頭(あたま)
をうなだれてしまいました。それを見
(み)てバニーちゃんはいいました。

 「みんな、だいじょうぶ? わた
  し、気にしないから」
 「ごめんなさい、みんなちっとも
  気(き)づかなくて」

 とコアラさんがいうと、みんな、
バニーちゃんのまわりに集(あつ)まって、
シクシクと泣(な)き出(だ)しました。クレ
ちゃんも悲(かな)しくていっしょに泣(な)
きました。でも、しばらく泣(な)いたあと、
すこし気分(きぶん)がすっきりしました。

「さあ、もうだいじょうぶだよ。帰
 (かえ)りはゆっくりブタさんに乗せて
 もらってお帰り、とちゅう気をつけ
 るんだよ」
 「ハーイ、先生(せんせい)ありがとう
  ございました」
 「ハイハイ、またね」

 クマさん先生にはげまされ、みんな
元気(げんき)になって、病院(びょういん)
から出(で)て来(き)ました。森(もり)はすっ
かりねしずまっていました。月明(つき
あ)かりがみんなのかげを、地面(じめん)
に長(なが)くうつし出(だ)していました。
家(うち)の庭(にわ)にさしかかったとき、
さきほどのおじいさんがフェンスの上
(うえ)に立(た)って待(ま)っていました。

 クレちゃんは、近寄(ちかよ)っててい
ねいにお礼(れい)をいいました。

 「おじいさん、ありがとうござい
  ました」
 「いやいや、無事(ぶじ)にすんだ
  ようじゃな」
 「はい、でもおじいさんはだれ
  ですか」
 「そうじゃな、だれじゃろうな」
 「おねがいです。教(おし)えて
  ください」
 「そうじゃな、じゃ、仙人(せん
  にん)ということにしようかの」
 「仙人?」
 「そう、雲(くも)にのって空(そら)
  を飛(と)ぶ人のこと?」
 「うん、それだけじゃないぞ、みん
  なが長(なが)生(い)きできるように、
  いつも神(かみ)さまにお願(ねが)い
  しているんじゃよ」
 「あっ、それでさっきか神(かみ)さま
  にお願いしてくれたの」
 「そうじゃよ、だからこれからは、
  みんななかよくするんじゃよ」
 「ハーイ!」

 みんなは、シカさんやおサルさんや
コアラさんなどに助(たす)けられ、クレ
ちゃんのベットに無事(ぶじ)にもどって
来(き)ました。

 そして、みんなひとかたまりなって、
クレちゃんのベットにもぐりこみました。
クレちゃんはみんなの真(ま)ん中(なか)に
いて、一人(ひとり)ずつ顔(かお)をながめ
まわしていいました。

 「ごめんね、バニーちゃんばかり
  かわいがって。きょうからみんな
  と一緒(いっしょ)に遊(あそ)ぶから
  ね」

 「ありがとう、でもぼくたちもみん
  なでなかよくしなくちゃね」

 と、うなずきながら手(て)と手をにぎり
あいました。

そのとき、クレちゃんは眠(ねむ)くなった
のでしょう、バタンと横(よこ)になったか
と思(おも)うと、そのまま深(ふか)い眠(ねむ)
りに入(はい)っていきました。

つぎの朝(あさ)、ママが起(おこ)しにきたとき、
クレちゃんは、ぬいぐるみに囲(かこ)まれて
ねむっていました。

 「あらあら、どうしたんでしょうね」

 ママの声(こえ)で目ざめたクレちゃんは、
ママにわからないように、そっとみんなに
ふれました。話(はな)しかけても、どれ一
(ひと)つピクリとも動(うご)きませんでした。
でもクレちゃんはぬいぐるみにもどった
みんなを、やさしくなでてあげました。

                おしまい

このお話(はなし)は少(すこ)しか長かっ
たですが、おもしろかったですか。それでは、
次回も楽(たの)しみにしにてくださいね。

アナミズ (2024.02.01)

 

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