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第96話 『#寧々密会』写真展①〜会場の一番奥(右側)に飾られた覚悟の言葉〜

 2024年5月11日、吉高寧々さんと写真家の笠井爾示による写真展『#寧々密会』が始まった。会場は東京の恵比寿。開催期間は19日までの9日間。私は受付スタッフとして、この大切な写真展を思い出に刻むことにした。


会場の奥に隠すように展示された1枚

 開場1時間前の11時、写真展会場の入り口に、『#寧々密会』のメイン写真が大きく貼られていた。

『#寧々密会』写真展会場

 寧々ちゃんの遺影や・・・・・・。この写真を見ると、いつもそう思う。
 写真展の1ヶ月ほど前、私は寧々さんにインタビューをした。そこで『#寧々密会』への想いや、これまで過去を語ってもらった。
「今回の『#寧々密会』は、【終活】の1つだと思ってる。AV女優でずっとあり続けたいと思ってたし、そうあることはめっちゃ素敵なこと。でも何事にも終わりはあるって、感じ始めた———」

 彼女のその言葉がとても印象に残っている。『#寧々密会』は覚悟の込められた特別なものなのだろうと感じた。その時のことを思い出して、少ししんみりと会場に入った。
 ドアを開けるとまず、床から天井まで届く、1枚の特大写真が飛び込んできた。私はひとまず会場の奥まで進み、その特大写真をまじまじと見た。
「笠井さんの写真は生きてるって思うねん」
 以前、寧々さんがそう言っていた。確かに、吐息が聞こえそうなほど生々しく、でも品があって、2人だけの秘密を共有しているような、まさに『#寧々密会』だった。

寧々さんの素敵な部分も特大に

 特大写真を左下から右上まで堪能し、そのまま視線を右に向けた。また大きな写真が1枚貼られている。真っ黒な背景に浮かび上がる、寧々さんの顔・・・・・・。そこに写る彼女の表情を見て、はっと息を呑んだ。

右に視線を抜けると・・・・・・

 この気持ちは何だろう・・・・・・。
 写真の横には数行の文章が添えられていた。

写真のそばに、数行の文章が

 それは寧々さんの書いた、彼女自身の言葉だった。 

彼女の覚悟の言葉だった

 後半の数行で一瞬、思考や感情が止まった。 そして2、3秒後にひどく心が揺れ動いた。
 こ、これは、爆弾や・・・・・・。
 彼女が言った「今回の『#寧々密会』は、【終活】の1つ」の言葉の強さを、突きつけられた瞬間だった。

 この日、寧々さんの在廊中に、あの文章はどんな気持ちで書いたのかを聞こうかと思った。でも聞けなかった。爆弾を受けた衝撃を、まだ自分の中で整理できていなかったからだと思う。そのくらい動揺させられるものだった。
 寧々さんの言葉を、多くの人に読んでほしい。そして写真の中の彼女が、どんな気持ちでこの表情をしていたのか、思いを馳せてほしい。この写真と文章は、会場の一番奥まった場所に、ひっそりと、隠すように展示されている。これを見た人は、みんな何を感じるのだろう。こっそり教えてくれはしないだろうか。『#寧々密会』だけに。

「#寧々密会、しよ?」

エイトウーマンを創り上げた2人が来場

「西田さん、写真展、見に来てくれないですかね」
 私はマネージャーの山中さんに話しかけた。西田さんこと、西田幸樹さんは、昨年までの3年間、エイトマン女優8名の集合「エイトウーマン」を撮影し、写真展も開催した写真家だ。
『#寧々密会』写真展にはファンの方をはじめ、笠井さんの知人など、たくさんの関係者が来てくれていた。その様子を受付で見ていると、エイトウーマン写真展のことを思い出したのだ。
「さあ、どうでしょうね」
 山中さんはニヤニヤしている。そんな矢先、白いシャツを爽やかに着こなした2人が、会場に入って来た。噂をすれば何とやら。その2人は西田さんと、西田さんの奥様だった。私は飛び上がった。犬が尻尾をぶんぶん振る気持ちが分かった気がした。

写真家、西田幸樹さん

 その後には、スタイリストの菅原さんも来てくれた。菅原さんとはエイトウーマンの撮影で衣装を担当してくれ、今回の『#寧々密会』の撮影でも衣装を世話してくれたらしい。
 菅原さんは写真をじっくり見た後、泣いていた。寧々さんや笠井さんと記念撮影をしている時は、さらに泣いていた。
 私は菅原さんに「何で泣いてるんですか?」と聞いた。いや、分かってるよ。私だって「これは吉高寧々の爆弾や!」と思ったもん。でもあえて他の人はどんな気持ちになったのかを、聞いてみたかった。
「何で泣いてるんだろうね(笑)。写真の中にさ、『私は集団行動が苦手だったから、エイトウーマンの企画をしんどく感じる時もあった』って文章があるじゃん。あれ読んだ時、確かにエイトウーマン1年目の寧々ちゃんはしんどそうだったなって思い出したのね」
 展示写真の間に、寧々さんにインタビューで語ってもらった言葉が、所々に飾られている。

写真の中に、吉高寧々の言葉も展示

「それで、右奥の大きな写真を見た時、うわあと思ったの。それに横の文章を読んで、彼女の心の内の葛藤とか、すごく内面の繊細な部分を見てしまった気がした。笠井さんも実はとても繊細な人。そんな彼だから、きっとこんな彼女を引き出せたと思うのよ」
 私が「これは爆弾や」と感じた写真と文章のことである。
「でもそこから右隣の笑っている写真を見て、なんだか救われた。救われたってのも変だけど、幸せな気分になれた。だから泣いちゃったのかな」
 菅原さんはそう話してくれた。彼女の言葉で、私のざわつく気持ちを言語化してもらえた気がした。

スタイリスト菅原さんにつられて、泣く吉高寧々

つばさ舞とも密会タイム!

 大きなおっぱいと、長い手脚、赤いトップスにスキニージーンズ姿の超目立つ女性が来た。つばさ舞ちゃんだ。彼女はこの日、はるばる大阪からやって来て、YouTube『つばさ舞チャンネル』のために、写真展の様子を撮影しに来てくれたのだ。
「絶対『#寧々密会写真大賞』でグランプリ獲るねん。10万円、獲ったるでえ!」
 彼女はそう意気込んでいた。

つばさ舞、参上!

『#寧々密会写真大賞』とは、写真購入特典である「密会タイム」で、購入者が吉高寧々さんを撮影、その中で最も素晴らしい写真に賞金10万円を贈呈するという、スペシャルイベントだ。
 舞ちゃんは寧々さんの写真を購入し、6分間の「密会タイム」をゲット。写真展会場から少し離れた公園に行って、寧々さんを撮影し始めた。
「今日は必殺アイテムを持って来た。じゃーん、シャボン玉」
 おお、そう来たか。美容室専売シャンプーの広告写真が撮れるで賞。
「まだあるで。ででーん、縄跳び! 寧々ちゃん、縄跳び飛んで!」
「え、嫌や!」
 寧々ちゃんは本気の即答をしていた。しかしそう言いながらも、彼女はやっぱり跳んでくれちゃう。舞ちゃんは苦笑いをしながら縄跳びをする寧々さんに構いもせず、うさぎを狙う鷹の目で写真を撮っていた。公園中に子供のようなはしゃぎ声が響き、私たちの影が地面に長く伸びていた。とても愛おしい時間だった。

密会タイムで縄跳びさせられる吉高寧々

締めの言葉「いや、まだ初日やで」

 20時、閉場間際、笠井爾示さんと吉高寧々さんが、初日の締めの言葉を述べた。
「これまで色々な写真展をして来たんですけど、これまでと違った雰囲気の写真展ができて、感激で———」
 笠井さんが話し始めた。隣に立っていた寧々さんが「泣きそうや」と小声で呟いた。
「俺も泣きそうだよ」
「いや、まだ初日やで、まだ」
 会場が優しい笑いに包まれる。笠井さんが続ける。
「最終日にしんみりしたくないので、先に言っておきます。これで終わりだとは思っていません。もちろん人生には変化や節目があるので、いつか終わりは来るのかもしれないけれど、僕の中では今回で終わるつもりはありません」
 どっしり重みのある拍手が会場に響いた。次に寧々さんが話し始める。
「さっきまでみんなと密会タイムとかしてたので、ああ、終わりたくないなって気持ちになってます。でもまだ初日だよね・・・・・・」
 小さく笑いながら鼻を啜る。
「エイトウーマンはとても創り込んでいったけど、『#寧々密会』は素の私にフォーカスしてます。これは笠井さんでないとできなかったと思う。笠井さんに撮ってもらうから、写真集はワンチャンできると思ってたの。正直ね。でも写真展までできるとは思ってなかった。だからこうしてみんなが来てくれて・・・・・・嬉しくて・・・・・・」
 少し言葉に詰まる。
「でもまだ初日だから。『#寧々密会』写真展の期間に、みんなといっぱい思い出を作りたいと思ってます。是非、1回とは言わず、何回でも会場に来て、私と密会タイムしてください。毎日15時から20時まで在廊してます。ありがとうございました」
 両拳を上げて笑う寧々さんに、大きな拍手が送られた。盛大にスタートを切った写真展の1日目が終わった。

「いやあ、良い写真展だったね」
「まだ終わってへんって。初日やで」
 帰り際、笠井さんは呟き、寧々さんは笑ってつっこんでいた。9日間の思い出はまだ始まったばかり。

#寧々密会

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