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ほっといてくれ! 第6話

 久しぶりに近藤刑事が来た。いつもは一人だったのだが、今回は2人だ。

(上司よ。)
(なんか、警察にこき使われるのかな?)

「こちらは木田巡査部長です。」
「はじめまして、竹内です。こちらは栗原です。」
「近藤クンから聞いたんだけど、なかなかいい調査をしてくれるとか・・・」
「一応、調査会社ですからね。」
「そこで相談なんだが、御社と警察で契約してほしいんだ。」

(やっぱり、そういうことだね。)
(どうしようか?)
(月に10件で30万円程度でいいんじゃない。)
(だね、それ以上になったときは追加してもらおうか。)

「以前、近藤さんにもお伝えしましたが、1か月30万円です。で、調査件数は10件までとさせていただきます。それを超えるときは、1件当たり5万円とさせていただきます。」
「わかりました。では、それでお願いします。」
「後日、契約書を作成して、お持ちします。近藤さん宛でよろしいですか?」
「それで結構です。」

(企業とか団体と契約すると、食いっぱぐれがないよね。)
(そうね、安定して収入が入ってくるしね。)

 なかなか業績も順調になってきた。でも、そうなると、やっぱり忙しい。サラリーマンのように、時間管理することはないから、結構時間は適当だ。9時~17時を基本としているけど、終わり時間は調査の内容によるかな。その日の作業が終われば、昼からだって終わりにすることもあるし、手こずれば、19時くらいにもなる。

(あ、またマスコミの人が来た。)
(ほんとに性懲りもないね。)

「こんちわ。」
「また、あなたですか?」
「まあ、そう言うなよ。今日は依頼だぜ。」

(ほんとうに依頼をもってきたわ。)
(一回くらいやってやるか。)

「そうですか。で、どんな調査依頼でしょうか?」
「芸能人のAさんが誰と付き合っているのかを調べてほしいんだ。」
「それって、自分で追っていたんでしょ?」
「オレだって、忙しいんだよ、この案件だけ、お願いするよ。」

(簡単、誰とも付き合っていないわ。)
(でも、この人、疑ってるよね。)
(Aさんが片思いしている人はいるけどね。)

「わかりました。明日、いらして下さい。」
「ほんとうに、それくらいでわかるの?」
「ですから、企業秘密です。」
「ふっ、わかった。明日またくるぜ。よろしく。」

(片思いしている人まで、言わなくていいよね。)
(それは内面で思っているだけだろうからね。)
(あっ、ちょっと待って。)
(どうしたの?)
(一度、無理やり男女の関係になった人がいる。)
(でも、Aさんは嫌がってる。)
(相手は有名なBさん。)
(ほんと?)
(どのように報告書に書く?)
(こんなことに、触れてほしくないだろうな。)
(一般人ならね。)
(でも、証拠を取ってこないとね。)

 BさんのスマホにAさんとの証拠写真があったので、それをそのまま頂いた。日付、場所も特定できている。つくづくこの能力があってよかったと思う。これがないと、証拠なんてつかめないもんね。

 翌日、例のマスコミの人がやってきた。

「どうだった?」
「何もないですよ。」
「そんなことないだろ?」
「Aさんはどなたとも付き合っていませんでした。」
「おかしいな、オレの聞き込みだと、Bさんだと思うんだけどな。」
「AさんとBさんがお付き合いをしていることはありませんでしたよ。」
「じゃ、なんでそんなうわさが出回っているんだろ?」

(どうしよう、ほんとのこと言おうか?)
(事実だもんね。)

「ただ、BさんがAさんを力づくで男女の関係を持ったみたいなんです。」
「えっ、そうなのか?」
「だから、Aさんは付き合ってはいないんです。」
「Bさんがそうした証拠はあるんか?」
「写真を入手しました。」
「おっ、さすがやね。」
「会社としては事実関係をお伝えしますが、個人的には悪用しないで下さい。」
「それは依頼者のオレ次第ってことだな。」

今回は、そういう関係になった日時、場所、写真を提出した。

「これはすごいネタだ。」
「料金が30万円です。」
「それくらい払っても価値はある。」

 なんか、ちょっと気分は悪かった。あいつは絶対、公表するんだろうな。

(ねえ、もうこういう芸能人ネタの調査は止めない?)
(そうだね、やめよう。)
(いくら公人といっても、言ってほしくないことだもんね。)
(これからは悪意のある調査はやめよう。)
(了解。)

 相変わらず多いのは、浮気調査、人探し。たまに犬や猫などの動物探しもある。警察からは証人探しもある。でも、最近は防犯カメラの存在が多く、たいがいのことは防犯カメラでことは足りるみたいだ。でも、証人や証拠を探すっていうことも多く、難航するとボクらのところに依頼がくることが増えた。

 ある時、女の子がやってきた。

「ここ、松の木調査会社でしょ?」
「そうですけど、依頼ですか?」
今日はたまたま、栗原さんはお休みだ。

「いいえ、私、栗原聡子といいます。」
「もしかして、妹さん?」
「いつも姉がお世話になっています。」
「そうなんだ、妹さん、いたんだ?」
「えっ、聞いてなかったんですか?」
「特にそこまでは・・・」
「あなたは姉の彼氏さんですよね?」
「いやいや、共同経営者ですよ。」
「うっそ~、彼氏と一緒に会社経営してるって・・・」
おいおい、そんな話になっとんのか?

「姉は、今日はいないんですか?」
「今日はお休みなんだ。」

(今、妹さん来てるよ。)
(えっ、ほんと?)
(うん、どうしようか?)
(今から、行くわ。)
(じゃ、引き留めとくわ。)
(お願い。)

「な~んだ、そうっか。じゃ、出直そうかな。」
「せっかく来たんだから、コーヒーでもどう?」
「あ、じゃあ、頂きます。」

 ボクはゆっくりコーヒーを淹れることにした。よく見ると、やっぱり姉妹だね、似てる。でも、性格は全然違うみたい。結構おしゃべりだし、すぐタメで話してくる。

「あの、姉とはどういう関係なん?」
「だから、共同経営者ですよ。」
「会社だけの関係ということ?」
「そうだね。」

この子は母親に、姉が会社勤めもしないで会社を興したって、いったいどういうことなのか聞いてこいって言われてるんだ。

「この会社は姉とふたりでやってるんですよね?」
「そうだよ。なんとか赤字にならないでちゃんとやってるよ。」
「順調ってこと?」
「そうだね、今のところはね。」
「あの~、姉のしゃべり方、問題ないすか?」
「全然、問題ないよ。」

(ねえ、この子、ボクらの能力のこと、知ってるの?)
(知らないし、言ってないわ。)
(わかった。)

「へぇ~、そんな人いるんだ。」
「そうかな、珍しいのかな?」
「今まで、そんな人に会ったことない。」

(もう着くわ。)
(この子、よくしゃべるね。)
(でしょ、私と違って、人見知りしないから。)

「お待たせ。」
「あれ、お姉ちゃん、なんで?」
「さっき、連絡したから。」
「うそ、そんなことしてないじゃん。」
「コーヒー淹れてたときに、メールしたよ。」
「ほんと?」
「まあ、いいや。でも、お姉ちゃんすごいね。ほんとに会社、やってるんだ。」
「でしょ。」
「で、この人、彼氏じゃないん?」

栗原さんは顔を赤らめて、言った。
「違うわよ。」
「でも、前にそんなこと言ってたやん。」

(どうなってるの?)
(この子が勝手に勘違いしてるのよ。)
(そっか。)

「ねえ、会社がうまくいっているんなら、私も入れてもらえない?」
「え~、無理よ。」
「だって、私ももう卒業だし、就活、めんどくさいし。」
「何言ってるの?ちゃんと、一度は会社勤めを経験しなさい。」
「お母さんみたい。」

(ごめんね、こんな妹で。)
(まあ、いいさ。)

「ねえ、竹内さんは私が入るのっていいと思う?」

(絶対断って。)
(わかった。)

「そうだな、もう5、6年くらいは、二人でやってみて、うまくいくのかを確認しようと思ってるんだ。たまたま赤字になっていないだけで、まだ軌道に乗っているわけじゃないんでね。」
「そうなんだ。」
「だから、君は就活、がんばってね。」
「仕方ないわね。ちゃんと、お母さんに報告しとくわ。」
「よけいなこと言わないでね。」
「よけいなことって?」
「・・・竹内君のこととか・・・」
また、真っ赤になってる。

「共同経営者・・・なのよね。」
「その通り。」
「でも、彼氏って言っとくわ。」
「聡子~、やめて、竹内君に迷惑かかるから。」

たまにはケンカもするんだろうけど、兄弟がいるのはいいもんだ。

(妹さんはあなたの能力は知らないんだよね。)
(そうよ、誰にも言ってないわ。何か問題ある?)
(いや、特にはないけど。まあ、あまり知られていない方が仕事がやりやすいからね。)
(うん。)

ボクは多分、何度もこの件については、確認している。ボクらの能力は、一般の人にとって脅威になると思うし、下手をすれば、邪魔な存在かもしれない。悪意を持った人から狙われる可能性もある。十分、注意しなければ。

(つづく)

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