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過去の失敗も、5Gの時代なら成功するかもしれない(5G準備委員会1/16 vol.3 「5G x メディア・コンテンツ」についてクロサカタツヤさんに聞く)

「メディア&コンテンツ業界のための『5G準備委員会』」という本イベントは、『5Gでビジネスはどう変わるのか』の著者であるクロサカタツヤ氏をお招きして行われました。

vol.3では、いよいよ主題である5Gが普及していく世界におけるメディアやコンテンツのあり方、そして今後、サービスを提供すべき側が考えるべきこと、やるべきことについてLivePark代表取締役・安藤聖泰とエグゼクティブ・プロデューサー・清田いちるがクロサカ氏にお話を伺いました。

vol.1「トレンドはすでに5Gの「次」へ」はこちら
vol.2「5Gの普及で何ができる? 何ができない?」はこちら


●まずはゲーム、5G時代に備えるGoogleとApple 

安藤聖泰(以下、安藤)

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 5Gが始まることで、メディア、コンテンツ業界的には、“ゲーム““動画配信“”ライブ配信““同時配信“さらに、“VR/AR“といったものに、注目が集まっていますよね。特に、GoogleのStadiaや、Apple Arcadeなどゲームは、5Gによって、どう変わっていくのでしょうか?

クロサカタツヤ(以下、クロサカ)

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 いずれも、2019年からサービスインしていて、日本ではApple Arcadeのみが利用可能。GoogleのStadiaも早々にやってくるだろうという状況です。GoogleとAppleなど、GAFAと呼ばれる企業は、4G時代に、最もおいしい思いをしました。そんな彼らが5G時代を迎えるにあたり、まず取り組んだのはゲームでした。

現在、クラウドゲームは「従来のようにゲームコンソールを買わなくても、クラウド経由でハイスペックなゲームがプレイできる」といったことしか謳っていません。

私たちは10年近くスマホゲームをプレイしていますが、その中で、ゲーム体験を高める(=どうして勝ちたい、次のステージに行きたいとなった)時に、お金を払うという経験が広まりました。支払うユーザーは全体の1割いかないくらいかもしれませんが、企業にとっては、とても大きい。しかも、企業にボーナス的に入ってくる収入でもある。

企業側は、この方法は、5G時代のマネタイズにとてもフィットしている、と考えています。「この瞬間のエクスペリエンスのためにお金を払う」というユーザーがいれば、その人に最適化されたエクスペリエンスの為の環境を5Gであれば有限で提供できるようになります。これを受け入れてくれるユーザーがすでに存在しているのが、ゲームなんです。

また、5Gは固定回線の光ファイバー以上のスペックがあるので、部屋でプレイしていたゲームの続きをスマホでやる事も当然できるようになります。いつでも同じエクスペリエンスが欲しいという要望を、5Gは実現しやすいですしね。

安藤

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 なるほど。GoogleのStadiaは日本ではプレイできないので、ネットでその評判をチェックすることがあります。今までは、プレイステーションなどのゲーム機を購入し、そこにゲームのデータをダウンロードもしくはディスクを購入して遊んでいました。

しかしStadiaの場合は、ユーザーの手元にあるディスプレイは、テレビでもスマホでもなんでも良い。実質的にサーバーに存在するハードウェアからディスプレイに絵が送られてプレイをしている。それは、もう自分専用のライブ配信ですよね。

クロサカ

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 目指しているのは、確実に、そこだろうと思っています。しかも、サーバーはカリフォルニアにあるものではなく、ユーザーの近くにあるエッジコンピュータ。そこでプレイすることを彼らは目指しています。

ネットワークを介したサービス提供は、従来のものと圧倒的に異なるエクスペリエンスになるんですね。おそらく、この体験の提供こそが、5G時代のゲームなのでしょう。

安藤

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 GoogleやAppleは、5G時代にもたらされるであろう最高のエクスペリエンスが提供できる環境を、ひとまず現在の技術で作り上げているんですね。

クロサカ

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 そうなんです。それがCESで5Gについてあまり触れられていなかった原因のひとつだと思っています。

「5G、5G」と口にして、産業側とサプライヤーが5Gで何ができるか関心を持っている一方で、エンドユーザーにとっては、それが4Gだろうが5G、光ファイバー、Wi-Fiだろうが関係ない。とにかく、楽しくて素晴らしいことを提供してくれれば、それでいい。

私たちユーザーが慣れ親しんでいくのは、4Gや5Gのインフラではなく、アプリでもサービスでもインタラクションすることです。この「慣れ」は、やればやっただけ習熟していくわけですから、5Gが始まる前から5G時代のサービスを予感させるようなアプリをいち早く提供していく。

後は、ユーザーとしてのエクスペリエンスは同一なまま、インフラを5Gへとスムーズに移行させていくことが必要になります。

安藤

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 GoogleやAppleが提供しようとしていることは、それなんですか?

クロサカ

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 これは「投資」の考え方ですが、最初に大量の投資を行って大成功するケースもまれにありますが、新しいものに対して投資をして、できるだけサービスを提供する側にも、ユーザー側にも慣れてもらう。

その際、問題を見つけたり、その解決をしたり、ある意味で歯を食いしばって乗り切らなきゃいけないのですが、この幻滅期を経験できることが極めて大きい。

GoogleやAppleは、お金を持っているので、自分たちで自分たちに投資できているのです。だから、みなさん、ここががんばり時です。

●支払いにおけるエクスペリエンスの変化はすでに始まっている


安藤

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 そうですね。次に、私たちLiveParkも行っている“ライブ配信”に関してお話していただけますか。

クロサカ

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 5Gのライブ配信は、これまでのようなブロードキャスティングの代替としてのライブ配信ではなく、おそらく、ゲームやアプリで提供されているように、インタラクティブ性がすごく強くなると思います。

昔からスタジアムにいるスポーツ選手に「ガンバレ」といった声援が文字になって表示されるといった仕組みがありましたが、私たち自身ようやくインタラクションに慣れてきました。私は古い世代なので、テレビを見る際、その前にじっと座ってゲラゲラ笑っているだけですが、今の子どもたちはテレビにベタベタ触ります。生まれた時からタッチパネルがあったので。

安藤

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 触ったものが動くといったことに慣れてしまっているんですね。

クロサカ

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 子供たちは、「触っても何も反応がない」「ずっと見せられているだけで、コミュニケーションできなくてつまらない」と、なるわけです。おそらく、この延長線に近いところで、スポーツでいいプレイをした、いい歌だった、だからおひねりを渡そうといったことが出てくると思います。

インタラクションにはさまざまな可能性があります。コミュニケーションやおひねりなど、それが本当に最適なものなのか? レピュテーション(評価)から考える必要がありますが、いずれにしても、エンターテインメントビジネスの在り方が変わります。

安藤

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 まだ小額ですが、アプリでお金を払うことが当たり前になりつつありますよね。

クロサカ

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 お金を払う感覚が、今まさに変わってきています。QRコード決済もそうですが、私が最もそれを感じたのがアメリカのAmazonが運営するレジなしコンビニであるAmazon Goです。ぜひ、実際に足を運んでいただきたいのですが、日本で言われているものとまったく違う世界なんですよ。

日本では人手不足を解消するための無人店舗と紹介していますが、Amazon Goには品出ししている人などたくさんの従業員がいます。では何が違うのか、それはお財布もスマホも出さないということです。

安藤

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 日本だと無人店舗でも、お財布もスマホも出しますね。

クロサカ

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 まだ支払うという行為があり、その感覚があるんです。これまでは、お財布にいくら入っているかが、なんとなくわかっていたので「無駄遣いしちゃいけない」「ビールじゃなくて発泡酒にしよう」なんて考えていました。

しかし、支払う感覚がなくなると、財布の状況がわからなくなるから「気になるビールを買おう」という気持ちになるんです。これってエクスペリエンスの変化なんですよ。

Amazon Goの店舗は、センサーのお化けです。強烈で正確なセンサーネットワークを、現在の技術で作り上げています。

5Gがあると、より詳細に店舗のことを把握できるようになります。今、スーパーやコンビニのマーチャンダイザーは、“何を買ったか”ではなく、“その人が何を買わなかった”ということを知りたがっています。センサーで、これを把握できるようなれば、店のオペレーションの効率は劇的に向上して、おそらく概念が変わるまであると思います。


●一度、失敗したからといって、今後成功しないとは限らない


安藤

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 VR/ARに関してはどうでしょうか?

クロサカ

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 VR/ARも、5Gで期待されている分野ですね。特に、VRはかなり先行しており、CESでも2019年のほうが盛り上がっていました。

今年は、もうコモディティ化され「もういいや」といった感じになっています。4Kテレビと同じく、街で既に売っているものになっています。実際、そこまで普及しているのかという話は置いておいて、VRはハイプ・サイクルでいうと、幻滅期を越えて、普及し始めるタイミングに差し掛かっていると感じています。

昨年、FacebookがOculus Goを発売しました。このVRゴーグルはワイヤレスで、かなり自由に使えてびっくりしました。ここに5Gネットワークの特性である“低遅延““ブロードバンド”といった要素が加わると、ものすごくリアルな世界を作ることができるんだろうなと思っています。

健全なものからそうでないものまでさまざまな取り組みが期待されたり、始まったりしていますが、コンテンツ業界でもVRは“普通“のものになっていくと思います。そして、それ以上に日常生活の中でVRが普通に使われていくようになると思います。

働き方改革で、リモートワークが少しずつ増えています。家で仕事をしていて緊急で会議をする際、PCのカメラを使って、リモート会議を行うわけですが、これからは、VRを使った会議のほうが自然だなと思います。

安藤

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 全員がバラバラの場所だったら、いいんですが、10人のうち8人が同じ会議室にいるようなケースだと、VRゴーグルを付けた人たちが集まっているという、ちょっと異様な風景になりますよね。

クロサカ

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 そこは、サイバーな空間にアバターを登場させるなど、自由に表現することができます。ゲームの外にある私たちの日常生活に近いところ、5Gになったら、仕事や趣味といった場所にVR/ARは入ってくると思います。

安藤

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 5Gになり、コモディティ化してくるのが、楽しみですね。

クロサカ

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 旅行番組などは、すべてVRコンテンツになるんじゃないかなと思いますね。

安藤

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 会場にいらしているメディア・コンテンツ業界の方たちは、これまでVR/ARを何度も模索を繰り返してきたと思うのですが、今度こそ、という感じなんですね。

クロサカ

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 この模索の繰り返しは非常に重要なことだと思います。一度失敗したからといって、二度と来ないということはありません。くやしいのですが。少々、厳しい表現になるのですが、それはあなたが失敗しただけであり、他の人がうまくやるかもしれません。

また、CESの話になりますが、2019年にLGはAmazon Dash対応の冷蔵庫を展示していました。冷蔵庫のドアに液晶ディスプレイがあり、例えば、牛乳がなくなったのでボタンを押してくださいという提案をしてくれます。いわばインターネット冷蔵庫です。2000年前後に私はこのインターネット冷蔵庫に関わっていました。

安藤

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 何度か見たことがありますね。

クロサカ

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 当時、まだ独身だったので親に話したら「あんた大きな会社に入ってそんなことやっているの?」と言われたんです。冷蔵庫がインターネットにつながって、画面やカメラがついたとしても結露して見ることができない。「そんなこともわからないの?あなたは?」と母に言われたんですね。

それがトラウマになって、冷蔵庫は、絶対にネット対応することはないなという気持ちになっていたんですけど、やっぱりAmazonやLGが手がけると、かっこいいし、欲しくなっちゃうんですよ。そして悔しいな、負けちゃったなとなってしまう。今後、こういうことが山ほど出てくるんだと思います。

安藤

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 VR/ARの分野では、まさにそういうことが多そうですね。

クロサカ

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 4G環境やスマホの初期に失敗して、もうチャレンジしないというモノも、もしかしたら今後、バケるかもしれません。みなさん経験豊富だと思いますので、ぜひ一度、改めて考えていただきたいですね。


●データプライバシーを守れない企業が去る時代に


清田いちる(以下、清田)

いちるさん150

 アイデアをお聞かせいただきたいのですが、今はまだ存在しない、でも5Gだからこそ出てくるコンテンツにはどのようなものがあるでしょうか?

クロサカ

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 これは、いちるさんが期待されている正解じゃないんだろうな、という気もするのですが・・・。

コンテンツそのものの新しさではなくて、我々がそのコンテンツを体験する方法や体験そのものが変わるんじゃないかなと思います。具体的に話すと、急につまらなくなるかもしれませんが、例えば場所が違う、楽しみ方が違う、インタラクションの方法が違うなど、言葉で抽象的に表現すると、その程度の違いなのですが。

先ほどの“私と子どもの話“のとおり、同じコンテンツでも人によって異なる体験をしているはずです。そうだとすると、これから作られていくコンテンツはより“インタラクティブフレンドリー“、“インタラクティブネイティブ“なものになっていくと思います。

清田

いちるさん150

 『攻殻機動隊』のような?

クロサカ

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 そうですね、『攻殻機動隊』のような『マトリックス』のような『マイノリティレポート』のような。今年(2020年)のCESで発表されたデルタ航空のサービスは、いよいよ『マイノリティーレポート』の世界が近づいたなと感じさせるものでした。

清田

いちるさん150

 なるほど、5Gは『マイノリティレポート』だ、と。

クロサカ

企_クロサカ_正面150

 ただ、『マイノリティレポート』で描かれているネガティブなものではありません。

エクスペリエンスを追求して、最高の価値を提供することはすばらしいことです。しかし、少しでもユーザーの気持ちとズレると、気持ち悪くなってしまいます。

そのため「本当にあなたのためにやっている」「ちょっとでも意向からズレてしまったらすいません。データは消します」といったデータプライバシーに対する配慮は、法律対応ではなく、ユーザーに選ばれ続ける為に、サービス企業自らが行わなければならないと思います。

データプライバシーに対する配慮はとても重要です。アメリカ企業には、やんちゃしてしまう人もいるのですが、これを踏まえ、かなり変わってきているように思います。

「ソーシャルグッド」とも表現しますが、そこに大きく良い価値があり、ステイクホルダー全体で自分たちは良いことをしているというコンセンサスができ始めています。これができないところは去っていく、という状況に近づきつつある中、非常に文系的な話なのですが、これを片隅ではなく頭の真ん中に置いておかないと、5G時代のサービスは作れないのではないか、と思っています。

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