〜第5章〜 アルバム全曲解説 (8)B面-2 Hairless Heart
この曲は、アルバムで最初に登場するインストゥルメンタルです。B面1曲目からはじまる、追憶三部作の2曲目です。
【テキスト】【歌詞】とその内容
インストゥルメンタルですから、【歌詞】はないのですが、もともとこの曲は、前曲Back in N.Y.Cの【歌詞】最後の方で、
と歌われて、それを受けて展開されるシーンです。【テキスト】の方では、このように解説されます。
つまり、これは精神の世界を旅しているレエルが、その中でさらに見た夢だという建て付けになっているわけです。結局レエルは、ドリームドールの工場の建物の中で、孤独に一夜を明かしたということみたいですね。そして、レエルの夢の中で奏でられていたロマンチックな曲がこの曲だということです。しかし、ロマンティックな曲に対して、夢の内容は「毛が生えた心臓」を、ステンレス製のカミソリがつるつるにそり上げていくという、なんともいえずグロテスクなシーンなのです。
このシーンの意味合いですが、これがまたキリスト教からの引用だという説があります。旧約聖書の申命記第30章第6節に、「心の割礼」という話題が出てくるそうです。これは、「人間の努力だけでは不可能な心の変化が神の御業によってもたらされる」という話のようです。前曲で、ワルではあるが、実際は弱さを隠し持っている青年だと表現されたレエルの、心境が変化していく様子を描いているのではないかというのです。
一方、shave(剃り落とす)という言葉は、西洋では、ちょっとエロティックなニュアンスがあるみたいです。西洋では、セックスの感度を高めるために体毛を剃ることが割とあるようで、レエルが「ロマンチック(性的な)な」感情を呼び覚ます様子を描いているという解釈もあります。これが、次の回想の曲 Counting Out Time(レエルの初体験の失敗の歌)につながる前フリであるというのです。
いずれにしても、美しく、ロマンティックなインストゥルメンタルですが、その描いているシーンは、「夢のシーン」とはいえ、なかなか奇怪なものなのです。
【音楽解説】
スティーブ・ハケットのアコースティックギターのフレーズで始まり、さらにスティーブのレス・ポールとボリュームペダルを使った奏法で奏でられる旋律に、トニー・バンクスのメロトロンとリードシンセサイザー(Arp PRO Soloist)が被ってくるこの曲は、このふたりの共作のようですが、どちらかというと、スティーブがイニシアチブを取った曲のように聞こえますね。ストーリーをつなぐ小曲ではありますが、やはりこのロマンチックな旋律は非常に人気があるようで、「The Lambのトップ5曲」のようなアンケートをとると、この曲はよく選ばれるようです。
冒頭のアコースティックギターは、当時スティーブが入手したばかりの、日本のヤイリギターで奏でられているそうです。
ちなみに、このスティーブとトニーによる美しい旋律のインストゥルメンタルが、このようなイメージのバックに使われたことについては、トニー・バンクスは非常に不満を持っており、「心臓の毛を剃り落とす」というコンセプトが大嫌いだったと後に語っています。同時に彼は、この曲のタイトルのことを、What a horrible title!(なんてひでえタイトルだ!)とまで言ったことがあったそうです。
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