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1995年のプログレ的風景:まさかのキング・クリムゾン再復活に、フィル・コリンズの変調、マイク・ラザフォードの貫禄、そしてトニー・バンクスの悲哀

 この年のトップバッターは、何と!キング・クリムゾンなんですね。84年のアルバム Three of a Perfect Pair を最後に、長らく解散状態だった彼らは、実は94年にVroomというミニアルバムをリリースして再始動していたのですが、わたしはこのミニアルバムを聴いた覚えがないのですね。ちょうどイエスの Talk が出たのと同じ頃のリリースらしいのですが、当時イエスのアルバムは聴かないまでもリリースは知っていて、アルバム評を読んだ記憶はあるのですが、94年のクリムゾンについては、何故か全く記憶がないのです。

 それでも、95年にこうしてフルアルバムがリリースされ、キング・クリムゾン2度目の復活というニュースにはびっくりして、やっぱりこのアルバムはすぐに聴いた覚えがあるのですね。

THRAK / King Crimson

 このアルバム、冒頭曲のVROOMから2曲目Coda:Marine 475の流れなんか、Red や Lark's Tongues In Aspic の頃を彷彿とするイメージでして、90年代になっても、オールドファンをうならせる、「これぞクリムゾン!」だったと思うのです。3曲目の、歌もの Dinosaur の、I'm a dinosaur, somebody is digging my bones なんて歌詞も、なんか自虐というか、開き直った感じで、いよいよクリムゾン復活かと思ったのですが、その先がどうにもわたしにはしんどくて、やっぱりなんかのめり込めないクリムゾンだったのです。この年10月にクリムゾンは来日公演も行うのですが、わたしはそれにも行かずじまいとなってしまったのでした。

A Beggar On A Beach Of Gold / Mike & The Mechanics

 続いてやってきたのは、ジェネシスのマイク・ラザフォードのサイドプロジェクトバンド、メカニクスの4thとなるアルバムでした。前作については「バンドとして油が乗った」と書きましたが、このアルバムも、以前のような大ヒットは生まれませんでしたが、もはや安定というか、貫禄すら感じさせる大御所バンドみたいな感じになってきているのです。AORという言い方は、もうこの頃あまりされてなかったと思いますが、まさに90年代の大人のためのロックとして仕上がったバンドになったわけなんです。ジェネシスの活動を続けながらも、サイドプロジェクトのバンドをここまでもってきたマイク・ラザフォードというミュージシャン、やっぱり半端なく凄い人だと思うんですよね。日本じゃまるで評価されてないですけどね(^^;)

 そしてこの年5月には、フィル・コリンズが3度目の来日を果たします。Both Sidesのワールドツアーの一環だったわけです。ただ、このときのステージは、なかなか微妙なものだったのですね。以前も書いたように、Both Sidesについては、フィル・コリンズの個人的な女性問題が背景にあったわけです。

 これを引きずりつつも、いつものようにとてつもない回数のワールドツアーを行っていたのですが、やはり以前とは、どこか心境が違っていたのだと思うのです。わたしはこのとき横浜アリーナでライブを見ましたが、何よりも驚いたのは、2部構成になっていて、間に休憩を挟んだことなんです。それまで、なんか体力を見せつけるようなライブをジェネシスでもソロでもやり続けていたフィル・コリンズが、はじめて休憩のあるライブをやったのですよね。単に加齢ということかもしれませんが、彼は2007年のジェネシス再結成コンサートでは休憩なんか入れずに頑張ってましたので、このときそれができないはずもなかったんじゃないかと思うんです。それに、日本では明らかに Both Sides は売れてなかったのだと思うのです。このときの横浜アリーナは、ずいぶん空席が目立つ、かなり寒い雰囲気だったのですね。あの雰囲気の会場でのライブを体験して、「これじゃもうフィル・コリンズは来日しないんじゃないか…」と思ったのをよく覚えてます。(そして、実際その通りになるんですね。彼はこの後ターザンのプロモーションで来日しますが、そのときはコンサートやらなかったですからね)

福岡ドームでの来日公演。上手く編集されていてほとんど客席が映らないのですが、このとき本当はかなり空席が目立っていたのではなかったのかと…

 さて、6月には、ディープ・フォレストのアルバムがやって来ます。フランスのシンセユニットだった彼らは、1992年にデビューアルバムを出しているのですが、そのときはわたしはまだ認識してなかったと思います。エニグマのようにシングルヒットを出したわけでもなかったと思います。

Boheme / Deep Forest

 ところが、このアルバムにはピーター・ガブリエルが参加してたのですね。まあ映画のサントラとなった While the Earth Sleeps  1曲だけなのですが、これがなかなか良い曲でして、わたしもアルバムを買ったのでした。そして、エニグマに続いて、このディープ・フォレストも、案外リピートしたのでした。

While the Earth Sleeps / Deep Forest feat. Peter Gabriel


 そして9月、メカニクスがアルバムを出すと、必ずトニー・バンクスのニューアルバムもやって来るのです。以前、ちょっと茶化すように、トニー・バンクスが売れたメカニクスに対抗した… みたいなことも書きましたが、本当のところは、ジェネシスのレコーディング、リリース、ワールドツアーというルーチンが終わって、ジェネシスがオフに入ったときに、それぞれがソロの制作をするというのが、ジェネシスの通常のサイクルとなっていたわけで、ラザフォードとバンクスのソロアルバムの時期がかぶるのは、まあ当然といえば当然なのです。

Strictry Inc. / Strictry Inc.(Tony Banks)

 ただ、このときのトニー・バンクスは、またしてもバンドスタイルのアルバムを作ったのです。バンド名は Strictly Inc.

 以前は Bankstatement というバンドでして、そちらにはBanksという文字が入っていて、それらしいバンド名だったのに、今度はどこにもトニー・バンクスの名前のかけらも見当たらないバンド名だったのですね。何故そんなことをしたのかは、本人の発言もあまり読んだことないのですが、もしかして、「トニー・バンクスの名前を使うと、売れない」と思ったのか、そういう外圧に晒されたのか…。もし、そうだとするとなかなかに悲しいのですね。前作で、「これぞトニー・バンクス!」をやったのに売れなかったので、今度は名前を隠して、楽曲だけで勝負するという、究極の選択みたいなことをやってるわけですから。ただ、このアルバム、例によって楽曲クオリティは高いですが、やっぱりとにもかくにも、トニー・バンクスワールドなんですよね。全体的にポップ(といっても例によってかなりの変化球)で攻めてきたかと思えば、アルバムエンディングでは、やっぱりいつものトニー・バンクス的長尺曲が出てしまうというチグハグ感もあり、結局無名バンドのアルバムが1枚残っただけとなってしまったのでした。今でこそ、このアルバムは AppleMusic のトニー・バンクスのところに並んでいますが、リリース時はTony Banksのクレジットがなかったために、Tony Banksと検索してもヒットしないという最悪のことをやってしまったということなんですね。これもデータが無いのでなんとも言えないのですが、恐らくトニー・バンクスのソロアルバムとして、一番売れなかったのがこれではないかと。そして、彼は、この後(これも恐らくなのですが)メジャーレーベルからの契約を切られてしまい、以後ロック・ポップス系のアルバムをリリースすることがなくなってしまうのでした。彼ほどのビッグネームというか、彼無しではジェネシスというバンドがあり得なかったという才人が、最後こういう状況に陥ってしまうとは…。切ないですねえ…。

Only Seventeen / Strictry Inc.(Tony Banks)

このアルバムから、シングルカットされたのはこの曲だけでしょうか。YouTubeさがしても、MVこれしか見当たらなかったので…(わたしもこのMV初めて見ましたw) これが売れずに、いよいよトニー・バンクスのソロは詰んでしまったというわけです。

Afraid Of Sunlight / Marillion

 そして、前作で新たなマリリオン風プログレスタイルを確立した彼らの次のアルバムがもうやってきます。この時期、やはりマリリオンはかなり乗っていたのだと思うのです。ただ、このアルバムあたりで、かなり作風が固定化された感じがあったんですね。そんなときに、元マリリオンのボーカリスト、フィッシュのベスト盤CDが2枚発売されるのです。

 わたしが本格的にフィッシュを聞き始めたのは、このベスト盤に負うところが大きいと思うのです。これを聞いてかなり認識を新たにして、彼の時代のマリリオンと、彼のソロをほぼ揃えることになり、そのままフィッシュ最後のソロアルバムまで追っかける事になるわけです。

Time And Word / Fish feat. Steve Howe

Yinとは陰、Yangとは陽のことで、Yin Yang Fish(陰陽魚)という、中華料理の名前に引っかけているわけですね。2枚ともマリリオン時代の楽曲とソロの楽曲からなるコンピレーションなのですが、マリリオン時代の曲は全部セルフリメイクされていて、これがなかなか良かったのですね。ちなみに、YinにはYesのカバー Time & Word が収録されています。これも元はフィッシュのソロアルバムでカバーされていたのですが、Yinのバージョンには、スティーブ・ハウが参加して再録されています。このタイトルは、現在 AppleMusic では配信されていないので、CDを買うしかないのですが、Amazonでのこの価格差は一体何なのでしょう? スティーブ・ハウのレアもの価格かな(^^;)

 そして、95年のプログレ的風景として、最後にひとつだけ採り上げておきます。それが、アディエマスのデビューアルバムです。

Songs Of Sanctuary / ADIEMUS(Karl Jenkins)

 実はわたしも、このとき彼らのデビューについては、全く知らなかったのでした。多分、多くの人がそうだと思うのですが、わたしが初めて彼らの音楽に触れたのは、あのNHKの番組「世紀を超えて」ですので、多分1999年のことなんです。

Beyond The Century / ADIEMUS(Karl Jenkins)

 99年にNHKであの印象的なテーマソングを聴いて、「なんだこれは?」と思って調べると、これが何と元ソフトマシーンのキーボード奏者、カール・ジェンキンスのプロジェクトだと分かるわけなんです。このときの彼の一連の作品はクラシックとしてカテゴライズされているようですが、カンタベリー系と言われる、コテコテのプログレバンドだったソフトマシーン出身ミュージシャンが、20年以上たってこの境地に達するというのは、なんかとんでもないことだと思ったわけです。これこそ、帰ってきたプログレというか、別の星に行って進化して帰ってきたウルトラ怪獣的プログレみたいな感じがあったのですよね(^^;) これが最初に世に現れたのは1995年だったというのも、プログレ的なひとつの記憶として残しておくべきではないかと思います。



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