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EV7台の比較試乗 ~EV、そして新興メーカーの実力は如何に~


はじめに

昨年の11月24日、私は福岡モビリティショーに訪れた。ジャパンモビリティショーで登場したコンセプトカーが再び展示されただけでなく、ジャパンモビリティティーショーと比較しても現行車種の展示の割合が高く、従来型モーターショーという風情が未だに残っていた中で、特に私の興味を引いたのは、新興ブランドやEVのみを引っ提げて国内に復活した自動車メーカーだった。そこで私は、この一か月ほど各社のEVを比較試乗してみることにした。

早速、試乗したメーカーと車種・グレード、価格、航続距離と出力に加え、実際に乗って分かった乗り味などに関する簡単なコメントをまとめたいと思う。


比較車種

ヒョンデ

一度は日本に進出するも、2010年に撤退してしまった韓国のブランド、ヒョンデ。昨年、電気自動車のみを引っ提げて日本再上陸を果たした。今回は現在販売中の2車種に試乗した。

・IONIQ 5 Voyage AWD

(価格:5,490,000円、航続距離:577km、出力:225kw)

第一印象から、先鋭的なデザインが目を惹く一台。そのアヴァンギャルドなデザインとは裏腹に、高い居住性や実用性も併せ持つ。乗り味でも4WDとEVであることによる迫力の加速と、拍子抜けするほど自然で快適な乗り味を両立させた1台。日本ではマイナーではあったものの、ヒョンデが世界各国で自動車を売ってきた実力を感じさせる完成度であった。


出典:https://www.hyundai.com/jp/ioniq5


・KONA Voyage

(価格:4,521,000円、航続距離:625km、出力 :150kw)

本国においてはガソリンモデルの設定があり、IONIQよりも保守的な印象のKONA。内外装の造形もより控えめな一台。とはいえ、十分に個性的なデザインではあるので、好みは分かれそう。また、シートのレザーの質感もIONIQから大幅に低下していた。とはいえ、IONIQの最長距離グレードよりも長い航続距離と、十分な実用性と走行性能があり、こちらも自動車としても完成度は非常に高い。EVに乗ることに特別感を見出したい人向けのIONIQと、実用性のみで購入する人向けのKONAという棲み分けが見られる。


テスラ

言わずと知れた新興EVメーカー、テスラ。EVと自動運転というのを両輪として、革新的な自動車を製造している。また、販売面でも、製造元が直接顧客に販売するという形態を採っており、無駄の少ない経営形態を採る自動車業界の革命児。その、車としての完成度が気になるブランドである。

・Model 3 RWD

(価格:5,613,000円、航続距離:573km、出力:未発表)

マイナーチェンジが行われたばかりの車種。マイナーチェンジではデザインとスペック・グレード形態の変更と、静粛性と快適性の改良が主に行われた。改良が行われたという静粛性は見事であった。その一方、乗り心地やハンドリングには課題が多く残されているように思われた。また、シートの形状や運転環境の構えやスペース効率も、平均的な水準に及んでいないように思われる。また、シフト操作やミラーの調整などの、物理ボタンで行いたい操作までモニター操作にしてしまったことは、さすがに度が過ぎていると筆者には感じられた。
とはいえ、独自規格の急速充電環境網(日本型の急速充電機よりも早い!)の整備や、ロングレンジグレードの航続距離と加速性能。そして、法整備さえ整えばいつでも、ほぼ自動運転で移動できるという点は、大きな魅力であることは間違いない。


日産

筆者の知る限り、日本において最初に電気自動車を広めた自動車メーカーである日産。ここまで、海外メーカーや新興メーカーの車種を見てきたが、そんな中で、自動車自体の製造と、EVの製造のどちらも早かった国内メーカーはどのような車両を販売しているのか。気になるところである。

・リーフ  X Vセレクション

(価格:4,318,000円、航続距離:322km、出力:110kw)

これまで見てきた3台と比べると、拍子抜けするほど保守的なスタイリングを持つ一台。座ってインパネを眺めても、マウスのような形状のシフトレバー以外に取り立てて変わったものはない。奇妙なものといえば、フロア下にバッテリーを積むが故のフロアの高さぐらいだ。
その走りに特筆すべき点はなかった。動力性能もシャーシ性能も問題はない。だが、決して優れたシャーシ性能でもなければ、とても快適なわけでもない。ヒョンデの2車種や他のガソリン車と比較すれば、それは低いレベルにあると言えるだろう。また、価格も他と比較して安いとも言い難く、60kwhバッテリーを積むe+グレードでも航続距離は450kmと、寂しい結果となっている。
この状況で積極的にリーフを選ぶ理由があるとすれば、ブランドに対する信頼性とディーラー網の豊富さによる信頼感であろう。余談ではあるが、この車種は中古市場での相場が他と比較して相当安い。低コストでBEVを所有してみたい人には、中古のリーフという選択肢はいいかもしれない。

BYD

二次電池メーカーに端を発する中国の電子機器メーカー、BYD。自社製のバッテリーとパワートレインを内蔵して、その効率の良さを謳う。今年の春にはSEALという高級セダンも販売を開始しする予定だ。テスラに試乗し、新興自動車ブランドの難関はシャーシ設計なのではないかと感じた後なだけ、不安が残る。

・ATTO 3

(価格:4,400,000円、航続距離:470km、出力:204kw)

クロスオーバー型のボディを身にまとったのがこのATTO3だ。座ってみると、内装のデザインが非常に目を惹く。「フィットネス」をテーマにデザインされたらしいこの内装は、造形は非常に凝っているものの、建て付けや表面の質感は改善の余地がある。そして、奇抜なコクピットデザインとは裏腹に、その操作法は標準的で非常に好感が持てた。

出典:https://byd.co.jp/e-life/cars/atto3/

そして、その走り心地も非常に標準的で、いい意味で表紙抜けするものであった。ブレーキの極初期のタッチや、リリース時に多少引きずるような音が鳴るところに詰めの甘さは感じられるが、操作感や効き具合には問題はない。総じて、ガソリン車と同じように操作ができるような設計がなされており、その点では新興EVメーカーでも、テスラとは対照的であった。
ただ、2,30分程度の試乗ではあったものの、私の腰は腰痛の兆しを見せ始めていた。もしかすると、中距離以上の使用では腰痛との攻防を繰り広げることとなるかもしれない。


・DOLPHIN Long Range

(価格:4,070,000円、航続距離:476km、出力:204kw)

ATTO 3よりも小柄で少々控えめなルックスのボディを持つドルフィン、そのロングレンジモデルに試乗した。ATTOとほぼ同様のパワートレインを持ち、出力は変わらず航続距離は多少伸びる。
こちらは同乗での試乗だったため、操作感の詳細は分からないが、おそらくATTO3とほぼ変わらない様子。ロードノイズのみ多少うるさいか。とはいえ、ATTO3より下がった重心により、コーナリングも乗り心地もこちらの方が良く感じられた。
また、後席居住性や積載性などのユーティリティについても、過不足ない仕上がりであった。

スバル

BYDの試乗を終え、帰宅途中に急遽寄ることになったスバルディーラーで試乗をさせていただいた。これまで見てきた多くの新興メーカーに対し、国産メーカーの意地を見せることはできるのか。

・ソルテラ ET-HS

(価格:7,150,000円、航続距離:487km、出力:160kw)

トヨタ BZ4Xと兄弟車となる一台。クーペ系SUVのボディを持つ。フロアの高さに多少の違和感は覚えるものの、居住性や積載性の高さは流石である。特に、トランク周りの使い勝手は、他のスバル車と同様に非常に高い。
価格と航続距離、出力を考えると、他車種より分が悪く感じられる。出力は実用上必要なぶんに絞っていると考えても、ET-HSのこの航続距離、ソルテラで最長の航続距離を持つET-SSのFWDグレードの、567km、6,270,000円という価格も、やはり分が悪く思える。果たして、それを上回る魅力を、ソルテラは備えているのだろうか。
結論からすると、そのシャーシ性能は今回試乗した中で圧倒的であった。
こちらも同乗での試乗であったのだが、静粛性はさることながら、そのフラットな乗り心地や、不快な姿勢変化の少なさは他のEVでは得られないものであった。運転をしていた友人も、その乗り味の洗練さに感嘆していた。

しかし、私は同時に一つの大きな疑問も感じてしまった。果たして、この乗り味を得るにあたって、EVである必要性はあるのだろうか…?


乗って感じたBEV総論―ベストバイはどれか。


今回、実際に電気自動車を試乗してみて、私は電気自動車そのものを非常に楽しめたし、今後のEVがどうなるか非常に楽しみだと思った。
よく、EVには走りの楽しさがない!というような言説を目にするが、その加速感の滑らかでダイレクトでシームレスなさまは、あらゆるガソリン車よりも、いや。ガソリン車とは違った面白みがあると私には感じられた。ネガとなる重量の重さを解決したEVのスポーツカーが生まれるとしたら、私はぜひ見てみたいと思う。


締めとして、今回試乗した中から、おススメを選んで終わろうと思う。

この中で最もコストパフォーマンスが高かったのはヒョンデ・コナだ。これであれば中距離のドライブも可能で、ガソリン車と同等のクオリティの走りと実用性を享受できる。

もし、電気自動車の先進性をしながら感じながら乗るのであれば、IONIQがおススメだ。内外装の質感が高く、十分に高級車として標榜でき、スタイリングも個性的でありながらセンスがいい。また、4WDのモデルであれば、0-100km/h加速が4秒台の強烈な加速も味わうことが出来る。

より長距離ドライブにも出かけたいなら、今回試乗はできなかったもののモデル3ロングレンジだろうし、近距離メインでの使用ならBYDドルフィンだろう。


蛇足ではあるが、最後に私が欲しくなった電気自動車を挙げたい。それはテスラだ。なぜなら、ほかのEVが電気とバッテリーをガソリンの代替として捉えているのに対し、テスラはEVと自動運転によって自動車というものを再定義しようとしている、そう感じられたからだ。

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