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097. 雪遊びデビューはフランスでした。

bonsoir!🇫🇷 毎週金曜日更新のフランス滞在記をお届けします。
先週書いた記事を「noteの今日の注目記事」、「フードエッセイ記事まとめ」で取り上げられたことにより、たくさんの方に見ていただく機会に恵まれました。

それから1週間あけてちょっぴり緊張する今日ですが、いつも通り、当時の記憶と今のつなぎ目を感じながら一つずつ書いていきます。
「one by one」。
クレープを教えてくれたマダムもそう言っていました。今号は、フランスで迎えた娘(当時3歳)の雪遊びデビューのお話です。


2020年3月8日。
わたしが滞在していたフランスのグルノーブルはスノースポーツのメッカ。冬になるとあちこちから雪を求めてやってくる人で賑わい、1968年には冬季オリンピックの会場にもなったほど。

グルノーブルアルプ大学で出会ったスキー好きの日本人留学生から「ここの雪は最高だ」と教えてもらい、夫が職場の上司には「スノーシューがいいわよ」とおすすめされ、少し前に出かけた雪山ドライブでは、雪の中で和気あいあいと戯れる人の姿を車内から見送りながら、ちょっと楽しそうだなと思いはじめた。

寒いのもウィンタースポーツも苦手で(長野で育ったのに)、日本では雪に近づこうともしない(幼い頃はあんなにはしゃいでいたのに)。出発前、夫からグルノーブルに行ったらスキーをしようと言われても、「えーーわたしは行かない・・」と思っていたのだけれど、海外マジックも働いてか、よし行ってみようかということになった。思えば、娘にとってはこれが雪遊びデビュー。それがフランスでなんてちょっとかっこいいではないか。

先日登った雪山の道を車でたどってみるのだが、はて、エントランスはどこ?車はどこに停めたらいい?という状態でウロウロとさまよい続ける。スキー場と思しきところにちらほら人気があり、時おり林の中をスーッとスキー板で滑っていく人にも出会うのだけれど、一体彼らはどこから来ているのだろう。もしかして、自分なりの秘境スキースポット的な場所を知っているのかしら?

しばらく彷徨ったのち、駐車場を発見。入り口付近にはソリ滑りができそうな緩やかな傾斜もある。小さな娘にはピッタリだ。ここにしようということで、車を停めて受付カウンターで小さなスライダーを借りた。残念ながらスノーシューの貸し出しはなかったがその日はとても天気で、キラキラと照らし返してくる真っ白な雪景色の中に溶け込んでいるだけで気持ちがよかった。

絵本に出てきそうな背の高いモミの木。
さぁ、できるかな?
いいぞ、その調子!
スピードがつくと、くるんと回ってしまう。
ピンポン、というリフトの音が聞こえる。山の方からは前傾姿勢で滑走して来る人。ずっと登っていくと上級者コースがあるのでしょうか?
今度はパパと一緒に。
すごいスピードだ。大丈夫かな。

写真を撮りつつ、気がつくとわたしも楽しんで滑っていた。子供が生まれると食わず嫌いしていたものに自然とチャレンジする機会に恵まれるのがありがたいところ。

日本のおうちがある茨城県は、めったに雪が降らない。けれど、そういえばちょうど彼女が生まれて間もないある日、めずらしく大雪が降った。

家にいる夫から送られてきた真っ白になった庭先の写真をスマホで見ながら、温かすぎるほど暖房の効いた病室の、クリーム色のカーテンで包まれたベッドサイドの空間で、人間とも動物ともおぼつかない不思議な動きをする彼女を眺めていた。

その人が3年後、自分の目で景色をとらえ、動きながらお尻で雪の感触とスピードを感じ、怖い怖いと大騒ぎしたり、楽しいもう一回と歓喜の声をあげているのが、あの頃と違った意味で不思議だ。この時間はきっと彼女の中で永遠だ。わたしの中でも、そして夫の中でも。

はじめての雪、どうでしたか?

「雪遊びデビューはフランスだったんだよ」
「覚えてるよ!楽しかったよねぇ」

と素直に、今は返してくれる彼女も、もう少し大きくなったら「もういいよ、その話は」なんて、呆れと照れくささが入り混じった顔で笑ってくれるでしょうか。

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