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第58回『金田一さん、事件ですよ』



◆「犬神家の一族」(76) キャスト、スタッフ

◎キャスト
金田一耕助:石坂浩二
野々宮珠世:島田陽子(松竹)
犬神佐清:あおい輝彦
犬神松子:高峰三枝子
犬神梅子:草笛光子
犬神竹子:三条美紀
犬神佐武:地井武男
犬神佐智:川口恒
犬神幸吉:小林昭二

犬神小夜子:川口晶
はる(那須ホテルの女中):坂口良子
猿蔵:寺田稔
大山神官:大滝秀治
橘警察署長:加藤武


◇スタッフ
監督: 市川崑
脚本: 長田紀生、日高真也、市川崑
原作: 横溝正史『犬神家の一族』
製作: 市川喜一(東宝)
製作総指揮:角川春樹(角川春樹事務所)
音楽: 大野雄二
撮影: 長谷川清
編集: 長田千鶴子(おさだちづこ)


◆「犬神家の一族」の影響下、オマージュが捧げられた作品

・「鬼太郎誕生 ゲゲゲの謎」(23)

・新世紀エヴァンゲリオン 第九話 『瞬間、心、重ねて』 (95)

・クレしんTVスペシャル『トレジャーハンターみさえ 酢乙女家の一族』(02)


・【俗・】さよなら絶望先生 第十一話『黒い十二人の絶望少女』(08)

・『TRICK 新作スペシャル3』(14) 


・『ゴールデンカムイ』10巻(17)


◆小西康陽への影響

ピチカート・ファイヴ『ベリッシマ』(88)
『黒い十人の女』(61)を97年にピチカート・ファイヴPRESENTSにて上映。


▶︎市川崑作品の特徴


・とにかくクール。モダニスト。静的。「作品で叫ばない」
・「ありものを撮る、映す」という感覚でなく「一枚一枚の画を描いて、それを繋ぎ合わせていく」 《市川崑と『犬神家の一族』春日太一より》
・全てがデザインされた画、遠視で対象を捉える。…絵コンテ(色まで塗ってある)を作り、遵守。

▶︎市川崑監督、来歴

・1915年(大正5年)、三重県(今の伊勢市)にて生まれる。
・92歳まで生涯現役。長編映画だけで70数本。他にもドラマ、短編、CM等。
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小津安二郎(03年生)、成瀬巳喜男(05年生)、マキノ雅弘(08年生)
黒澤明(10年生)、本多猪四郎(11年生)、木下惠介(12年生)
鈴木清順(23年生)、増村保造(24年生)、岡本喜八(24年生)、神代辰巳(27年生)
大島渚(32年生)、伊丹十三(33年生)、高畑勲(35年生)
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・幼少期に父が亡くなり、家業の呉服屋が倒産。
・家族は親戚間を渡り歩き、女系家族(姉が三人の末っ子)で育つ。

・ディズニーを敬愛し、18歳の時にJ・Oスタジオ(後の東宝)トーキー漫画部に入社。アニメーションを制作。ひとりで『新説カチカチ山』を制作。

・トーキー漫画部が縮小、閉鎖となり「劇映画」助監督部に転籍。
 数々の名監督のもとで助監督を経験。・短編人形劇映画の演出を経験。

・戦後の「東宝争議」にて、新東宝へ。
 この頃、公私のパートナーになる「和田夏十」(わだなっと)に出会う。
 東宝では、大学の英文科を出た後、通訳の仕事を務めていた。

▶︎「犬神家」までの「市川崑監督の作品」

◇新東宝時代(48〜51)【デビュー】計12作
当初は市川崑と共同のシナリオライターとしての「和田夏十」。
51年『恋人』より単独のペンネームに。
『盗まれた恋』から喜劇作品を手がける。和田さんの助言による、「勉強」。
《「物事に正対せず」斜めから人生、人間を見つめるものが喜劇。》

◆東宝時代(51〜54)【軽妙洒脱、都会調コメディ】計12作
※『あの手この手』(52)は大映京都作品。大映から声が掛かったため。

PrimeVideoでプーサンを観る

◇日活時代(55〜56)【正統派】計3作
新生日活が調布に完成、『ビルマ〜』がやりたかったこともあり、引き抜かれる。
『こころ』、『ビルマの竪琴』(55)など。
『ビルマの竪琴』は第一部、第二部、総集編とあるが封切りの関係で会社と揉めたため。

◆大映時代(56〜64)【文芸、第一時黄金期】計17作
※『東北の神武たち』は東宝で製作。

様々なジャンルの作家の文芸作品を多数映画化。
石原慎太郎、泉鏡花、三島由紀夫、谷崎潤一郎、大岡昇平、島崎藤村など。
『炎上』(58)…原作:三島由紀夫  『おとうと』(60)…原作:幸田文
『黒い十人の女』(61)…オリジナル現代劇

《自分の人生だけでは経験が足りない、いろんな作家の人生観をもっと勉強したい》

◇『東京オリンピック』(65)
64年オリンピックの記録、ドキュメンタリー映画。
当初は黒澤明が撮る予定だったが降板。
公開後、オリンピック担当大臣の河野一郎の発言に端を発する「記録か?芸術か?」論争。市川崑と河野は実際に会い、和解。
クレジットされている「和田夏十」最後の脚本作品。


◆スランプ期(65〜)【テレビ、ATG】
・四騎の会(黒澤明、木下恵介、市川崑、小林正樹)(69)失敗。
∟73年、ハリウッドのディレクターズ・カンパニー(コッポラ、フリードキン、ボグダノヴィッチ)も3作のみ。

『木枯し紋次郎』(72-73、フジテレビ)
『股旅』(73、ATG・昆プロ)


◇『犬神家の一族』(76:角川)から金田一シリーズ5作(76〜79)【再ブレイク期】


▶︎「犬神家の一族」と「金田一耕助」


横溝正史の推理小説「金田一耕助シリーズ」の1作。
市川崑作品としては、映画は5作。
次作『悪魔の手毬唄』(77)より『病院坂の首縊りの家』(79)まで東宝が製作。

「犬神家の一族」はドラマとしても、様々な座組みで何度も映像化されている。
映画は3本(東映54、市川崑76、06)、ドラマは8本ある。
昨年もNHKでスペシャルドラマとして、2023年版が製作、放映されている。

◇「金田一耕助」
バットマンやスパイダーマンのように、数々の人が映画、ドラマで金田一耕助をやっている。
(77年ドラマ版の古谷一行等。)
和装の金田一耕助は本作(市川崑、76年版)から。

本作は角川春樹事務所の第1回映像作品。後の角川映画時代を準備する。

◇「角川映画」と角川春樹

角川書店の2代目、学術出版社だった角川をメディアミックスなどの手法を使い、現在のエンタメ企業にした。
70年頃から横溝正史作品を続々と文庫化。ブームとなる。

横溝正史は60年代ごろからの社会派ミステリの台頭、
代表格である松本清張から横溝正史の作品を「お化け屋敷」と否定される。

※《「特異な環境」を舞台に「特別な性格の人間」を登場させ「物理的なトリック」を用い「背筋に氷を当てられたようなぞっとする恐怖」を醸し出す、“お化け屋敷”のようなもの》
エッセイ「日本の推理小説」(『文学』六一年四月号より)

表紙:杉本一文(すぎもと いちぶん)…イラストレーター。その後、50歳から銅版画家として活躍。


◇「読んでから見るか 見てから読むか」

映画事業に乗り出し、「八つ墓村」を松竹と製作するつもりが頓挫、
自社(東宝と提携)での製作に踏み出す。

「角川映画」第2作『人間の証明』(77)のコピーは「読んでから見るか 見てから読むか」。映画の公開と文庫本フェアを連動させる。

大作志向の70年代から80年代は2本立て上映のアイドル映画を中心に。
後の「セーラー服と機関銃」(81)、「時をかける少女」(83)につながる。

◇「犬神家の一族」ヒットの要因 (郷土回帰、スピリチュアルブーム)


「近代化が進めば進むほど、反比例して人間の精神は土着化していく」
(プロデューサー角川春樹…『最後の角川春樹より』)

・オイルショック(74〜、狂乱物価の時代)以降、都会に出ていた若者のUターンがあった。

・七十年代後半、地方の出版物が増えた。
 地方の祭りや郷土芸能など、再度若者が復興させた文化がある。

・神社への参拝数も年々増加。(70年に171万人、75年には208万人、80年には294万人)

◇国鉄の「ディスカバー・ジャパン」キャンペーン(70〜76)
 ∟71年のCMを3作、市川崑が手がける。


・『遠くへ行きたい』(70〜現在) NTV系で放送(ytv制作)の旅番組。 
 当初は『ディスカバー・ジャパン』の一環として番組がスタート。

・「アンノン族」…『an・an』(70年創刊)、『non-no』(71年創刊)。


・アメリカでは70年頃から、73年『エクソシスト』を頂点とするオカルト・ブームが起きていた
 ∟出版エージェントを通じて情報を得ていた



※参考資料

・春日太一『市川崑と『犬神家の一族』』(15)

・キネマ旬報社『シネアスト 市川崑』(08)

・森遊机『完本 市川崑の映画たち』 (15)

・映画秘宝編集部『市川崑大全』(08)

・中川右介『角川映画 1976‐1986 日本を変えた10年』(14)

・伊藤彰彦『最後の角川春樹』(21)


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