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【映画レビュー】スポットライト 世紀のスクープ

2015年に公開された本作は実話を基にした社会派ドラマだ。アカデミー賞 作品賞、脚本賞をはじめ、その年のショーレースを総なめにし、キネマ旬報社ベスト10にも選出されるなど日本でも高く評価された。

 監督は「カールじいさんの空飛ぶ家」で脚本を務めたトム・マッカシー。主演は「バットマン」シリーズや、「バードマン」で主役を務めたマイケル・キートン。その他にマーク・ラファロやレイチェル・マクアダムスなど実力俳優が脇を固める。

 2001年のボストン。主人公ロビー(マイケル・キートン)が務める地方紙グローブ社に新しい編集局長、マーティン・バロン(リーヴ・シュレイバー)が着任する。バロンは、ある神父が犯した性的児童虐待事件の小さな記事を見つけ、詳しく掘り下げる方針を打ち出す。担当に命じられたのがグローブ社の特集記事欄「スポットライト」を手がけるロビーをはじめとする4人の記者たちだ。彼らは事件の被害者や弁護士らへの地道な取材を積み重ね、大勢の神父の犯罪とそれらを隠蔽する教会のシステムが存在する疑惑を探りあてる。

 権力と対峙する4人の熱い記者魂もさることながら、この4人のチームワークの良さが本作の魅力の一つだ。派手なシーンは一切ないにもかかわらず、ロビーの優れたリーダシップと各担当者の熱心な調査によって、真相が明らかになってくさまは、スリリングであり、胸が熱くなる。
 印象的だったのは、そんな優れたチームで唯一口論となった場面だ。チームの一員であるマイク(マーク・ラファロ)が、教会の隠蔽の動かぬ証拠を掴む。マイクは教会側の不正を許せない気持ちと同時に、他社に出し抜かれることを懸念し、すぐに記事にしたいとロビーに訴える。それに対してロビーは、熱くなるマイクに対してこう諭す。「今のままでは枢機卿が謝罪するだけで終わりだ。また再発する。俺たちが狙うのは教会そのものだ」。
 特ダネを意識するあまり「担当者目線」に陥っていたマイクに対し、ロビーは記事の社会的意義を見いだし、教会の隠蔽システムそのものを暴くため、取材を続けるよう指示する。結果的に非常に大きな社会的な影響があったことを考えると、この時のロビーの判断は非常に賢明だったといえる。

 また「社会の不正に対する姿勢」という点では今の日本でも学ぶべきことがありそうだ。バロンからの指示を受けるまで、ロビー達も教会の不正に対して当初は「仕方がない」という姿勢で及び腰だった。現在の日本においても前政権の公文書改ざん問題など取り沙汰されて久しいが、私も含めて多くの人々が「大した問題ではない」と興味を示さずにいる。
 劇中、神父から性的虐待を受けた被害者の一人が、ロビー達の調査の5年以上前から真相を語ってきたにも拘わらず、「誰も聞く耳も持たなかった」と悲痛な訴えをする場面がある。我々も同じようなことをしてしまってはいないだろうか。ロビー達の功績に胸を打たれながらも、今一度自分たちの姿勢を振り返るきっかけにもなる作品だ。

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