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最終発表:地域複業の未来と作り方を考える&地域ビジネスプランコンテスト(開催レポート)

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2021年12月11日、能登ローカルシフトアカデミーの最終講座が開催されました。

能登ローカルシフトアカデミーとは、石川県能登町に自分のやりたい仕事を作る3ヶ月間のプロジェクトのこと。受講生はオンラインで各業界の第一線で活躍する講師からビジネスを学び、現地にも赴いて、能登町での事業創出に挑戦してきました。

最終回となる今回は、一般公開の2部構成。前半は3名のゲストが登壇し、地域複業の未来と作り方についてのパネルディスカッションが行われました。後半は、受講生が独自に考えたビジネスプランを発表。前半に登壇した3名のゲストが審査員となり、コンテスト形式で「最優秀賞」「優秀賞」「地域活性化賞」の3つの賞が贈呈されました。

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なぜ今、地域複業なのか? 地域で仕事を作るとはどういうことなのか? 石川県能登町をモデルに、地域の未来と可能性や複業を通して地域と関わることについて考える場となった最終講座の様子をレポートします。能登ローカルシフトアカデミー3ヶ月の成果やいかに?


ゲスト紹介

吉弘拓生氏(一般財団法人地域活性化センター 新事業企画室長)
 1981年福岡県生まれ。2000年ラジオDJデビュー。森林組合職員を経て、2010年福岡県うきは市役所入庁。地域資源を活かし、森林セラピー、うきはフルーツ&スイーツコレクション、JR九州「ななつ星in九州」歓迎プロジェクトなどを市民とともに手がけた。 2015年4月、群馬県下仁田町副町長に史上最年少で就任。プログラミング教育、地域づくり人材育成、企業版ふるさと納税など地方創生施策推進に尽力。 金融機関と連携した町民専用の奨学金「ねぎとこんにゃく下仁田奨学金プログラム」は令和元年度地方創生大臣賞を受賞した。 2019年4月、一般財団法人地域活性化センターに移籍。2021年1月から現職。 ワクワクする社会の実現に向け、各地での人材育成に関する講演及び研修、企業版ふるさと納税制度、ワーケーション推進の他、中央省庁、市町村等の委員を務めている。 総務省地域力創造アドバイザー、内閣官房 地域活性化伝道師
瀬崎真広氏(NPO法人ZESDA理事)
 1985年東京生まれ。都内勤務のサラリーマンとして日々に物足りなさを感じる中、たまたま訪問した能登町に一目惚れ。能登町内の農家民宿支援のために、英語ホームページの制作や空き家改装のクラウドファンディング、都内企業との繋ぎ合わせによるフィールドワークプログラムの実施等、自分にとって全く新しいキャリアを開拓し、スキルや人脈を習得。現在、自分と似た境遇のサラリーマンらが、地域から学びを得て自己革新を起こせるように、地域と東京の間の交流を促進する役割を担う。(英)オックスフォード大学英国欧州学高度専門士修了。令和2年度農林水産省「ディスカバー漁村農村の宝」関東農政局選定個人優良事例受賞。PERSOL Work-Style AWARD 2021ノミネート。
堀口正裕氏(TURNSプロデューサー)
 国土交通省、農林水産省等での地方創生に関連する各委員を務める他、地域活性事例に関する講演、テレビ・ラジオ出演多数、全国各自治体の移住施策に関わる。東日本大震災後、豊かな生き方の選択肢を多くの若者に知って欲しいとの思いから「TURNS」を企画、創刊。地方の魅力は勿論、地方で働く、暮らす、関わり続ける為のヒントを発信している。
モデレーター
稲田佑太朗(一般社団法人こゆ財団地域教育研究所代表理事)
*本プログラムプロデューサー
1988年生まれ、宮崎県延岡市出身。高校卒業後、県外の大学に進学。臨床検査技師の資格を取得し宮崎へUターン。臨床検査技師として7年間務め、医療現場で様々な人の死に直面し“関わる人すべてを人生の主人公にする”ために29歳で退職。地域商社こゆ財団へ入社後は、TEDxShintomiやANAとの共同プロジェクトなどを実施した。在職中に企画運営管理した首都圏在住者対象の起業家育成講座では、累計78名の受講のうち7名が宮崎県新富町へ移住を支援。こゆ財団を退職後、様々な地域で起業家育成やコミュニティプロデュースを実施している。



地域に必要なのは提案ではなく挙手

まずは冒頭、能登町役場の山本秀明さんより能登町についての説明があった後、本プログラムのプロデューサーである稲田佑太朗より、プログラム概要についての説明がありました。本プログラムは、「地域に仕事自体がないのではなく、働きたいと思う仕事がないのでは」という仮説のもとにスタートしました。

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「アイデアだけがあっても、それをやるプレイヤーが地域にはいません。だから、地域に必要なのは提案ではなく挙手。自分がやりたい仕事を地域につくり、持続可能な活動を通して関わり続けることが重要です」

そのために必要なのは3ステップある、と稲田は続けます。1つ目が「やりたいことを言語化する」、2つ目が「有機的な関わりをつくる」、3つ目が「小さな実績をつくる」。自分のワクワクをベースにこの3ステップを意識し、仲間を得ながら、能登町について学び続けてきた3ヶ月でした。



パネルディスカッション「地域複業の未来と作り方」

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続いて3名のゲストが登壇し、ディスカッションが始まります。テーマは「地域複業の未来と作り方」。まずは、地域複業についての最近の事例について、移住定住を条件としない外部人材の採用が増えてきていることについて言及されました。

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堀口「たとえば、鳥取県が行っている、週末だけ地方企業の副社長になるプラン。2020年は1200人もの応募があり、60社93名の方がマッチングされて働いています。そのなかには一度も鳥取に行ったことがない人もいます。そういうことが増えていて、その結果、地域のことがどんどん好きになり、二拠点生活が始まる。そんなパターンもあるんです」

瀬崎「複業の際に障害になるのは会社の就業規定で、直接自分の収入にしてはいけないと定められているところがあります。なので、まずは非営利法人の役職員になって、自分ではなく非営利法人に収入を入れる形で複業をはじめ、自分のブランドや信用をあげていく手法が効果的だと思います。私たちも能登で活動をはじめて4~5年経ちますが、東京拠点で働いていた映像クリエイターが観光をきっかけに能登町に移住し、現地で観光プロモーション動画を作成する事例なども出てきています。まずは観光で訪問するのでも良いので、自分のキャリアの選択肢を増やすきっかけを得るのが良いのではないでしょうか。」

吉弘「奈良県生駒市など、役所の採用にも複業採用が導入されてきていますよね。自分のやりたいことや売りになることが複業を通して実践していく働き方は、近年どんどん進んできています」

また、複業が広がることによって、地域の課題が解決されるだけでなく、子どもたちの将来の選択肢が増えることや、大企業の組織内活性、個人のwell-beingな暮らし方など、さまざまなメリットがあることも語られました。

では、どのように複業を作っていけばいいのでしょうか? 能登町で地域複業に携わっている瀬崎さんは、自身の最初のきっかけは観光だったといいます。

瀬崎「農家民宿を訪問した際、夜、オーナーさんとごはんを食べながら談笑し、地域の人と交流できることがこんなに楽しいのかと、その体験に衝撃を受けたのがきっかけでした。地域の人と交流できることがこんなに楽しいのかと。また、地域の人々と心を通わせたことで、この人たちのお手伝いができないかなと思うようになりました。私が最初にやり始めたのは、地域のプロモーション。写真を撮ったりホームページを制作したり、東京で地域の魅力をPRするイベントを開催したり、そういった方法ならば、それほど難しくはありません。そのわりに、地域にはこうしたことをするプレイヤーがおらず、やってみると非常に喜ばれることが多いです。私は無料でホームページを作りました。そうしたら喜んでもらえて、『ぜひ持続的にやってくれないか』とお願いされました。こちらが望んでもいないのにお金を払ってくれるようになり、仕事になりました。持続的な関係を持ちたいと思ってもらえるようになることが大事ですよね」

吉弘「それはじーんと、くる話ですね。あとは、仲間ですよね。いろんな地域の方、地域の中と外をつなぐ方など、さまざまなキーパーソンがいるので、そういった方々とのネットワークをいかに作っていくかも重要です」

堀口「発信することが重要ですよね。発信し続けることで仲間が集まり、何かが起きる事例はたくさんあります。ただ、いちばん重要なのは、やはり、自分が居心地の良いと感じるところに行くことだと思います。そこでいろんな人とつながって、好きな人をたくさんつくる。水が合わなければ地域を変えたっていいんです。そうして好きな地域に寄り添っていくうちに、何か手伝えるかもしれないと思うようになる」

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水が合うという言葉は、メリット・デメリットとはある意味、真逆の概念のようにも感じられます。では、水が合う地域と出会うための自分はどのように作ればいいのでしょうか。やはりそれは、「自分が本当にやりたいことは何か」と内観することかもしれません。

瀬崎「会社員として働いていると、日々の単調とした仕事に対してふつふつと疑問がわいてくることがありませんか? それが第一歩だと思います。改善に向けて行動できないか、そうと思うことがはじまりです。地域に入っても活躍できる人とできない人がいて、活躍できる人は、共感能力が高いです。相手の思っていることや困っていることを感じられ、一緒に解決していける、その筋道を立てられる。一方、活躍できない人は、上から目線でただ指導しようとする人。こういう人は嫌われますが、意外とここに気付いていない人も多いです」


受講生のビジネスプラン発表!
熱い想いとアイデアが、審査員も熱くさせる

後半では、受講生による最終プレゼンが行われました。9人の受講生たちが、能登町でやりたい仕事についてのビジネスプランを発表します。持ち時間はひとり4分。プレゼンが終わると、審査員からの質疑応答の時間が3分ほど設けられます。

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発表されるさまざまなアイデアに、審査員からは、
「今すぐにでも実現してほしい」
「まさに時代をとらえた方法で面白い」
「ターゲットや資金調達の方法まで考えられていて素晴らしい」
「このプランは、先ほどの方の発表とコラボできるのでは」
「なぜ能登でやるのか、WHYの部分が埋まっているのが素敵だ」
「地域づくりでは『オンリーワンとナンバーワンは難しいけれど、ファーストワンならできる』とよく言われるが、このプランはまさにそれ」

など、肯定的なリアクションがたくさん出ました。


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全員の発表が終わると、審査員の3人は別室に移動します。審査の基準は4点。発表者の意欲、地域活性化への貢献性、行動力、そして、持続・実現可能性。一般来場者もひとり1票ずつ投票する権利を持ち、それらも加味した上で審査が行われます。

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審査が行われているあいだは、能登町役場の灰谷貴光さんが、おなじみ?のイカの被り物姿で登場し、能登町での活動事例報告が行いました。先ほどまでの緊張感ある空気が一転、笑いのあふれる和やかな空間に変わりました。



結果発表! 長い審査の末、選ばれたのは……?

さて、コンテストの結果はどうだったのでしょうか? 

まずは、「地域活性化賞」に選ばれたのは、國部智之さんの「関係人口を増やせ! 能登町の空き家でスーパーゲストハウス事業」でした。

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このプランは、空き家を改修し、ゲストハウスとサブスクの物販スペース、カフェバーなどを掛け合わせたカオスな空間をつくるというものです。「物の売買や他者との交流の場として、能登町の新たなコミュニティを生み出す震源地をつくる」「日本でいちばん面白いゲストハウスを作る」という、國部さんの熱意が伝わってくるものでした。審査員からは「熱意や行動力が素晴らしい。全国の地域活性化にもつながるのではないか」といったコメントが寄せられました。


続いて、「優秀賞」に選ばれたのは、藤田鮎美さんの「能登で薬膳を考える。能登薬膳茶で人も日本も元気に!」でした。

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このプランは、手付かずの山が残る自然豊かな能登の水と食材の魅力と、昨今のハーブに対する注目の集まりを掛け合わせたプランである上に、藤田さん本人のハーブへの熱い想いを感じる素敵な企画でした。「自分が本当に好きなことをやる」という地域複業のポイントを抑えつつ、「薬膳の能登、と言われるブランドに」といったファーストワンな視点が評価されました。審査員からも「薬膳というパワーワードがメッセージ性として、地域をPRする時に使える。能登には製薬業者も関心を持っており、そういったブランド力とも合致している。構想だけでなく、すでにご自身で栽培や販売の実績もあり、行動力と実現性も高いと判断した」といったコメントが寄せられました。


そして、最優秀賞は、高桑由樹さんの「第一次産業の伝道師 のとじびき」に決定しました。

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このプランは、第一次産業を担っているベテラン生産者と若手生産者の橋渡しになる企画です。ベテラン生産者のノウハウを掘り起こし、わかりやすい講座や動画などのコンテンツをつくり、若手と「のとじびき(能登+生き字引)」をマッチングさせるサービスを目指します。石川県出身でUターンした、地元愛溢れる高桑さん。石川県の食文化が存続の危機に瀕していることを知り、なんとかできないかと考えた結果、県内でもっとも一次産業が盛んなまち・能登を起点にこの課題を解決することで石川県全体を元気にするヒントを得られるのではないか、そんな切実な想いが伝わってくるプレゼンでした。審査員からも「生産者不足は全国的な課題。能登でこれができたら、石川県だけではなく全国の課題解決につながる。想いだけではなく実際に行動し、ヒアリングもしている。生産者の方々の次の居場所や活躍の場も考えられているし、教育にもつながる。素晴らしい企画」という絶賛コメントが寄せられました。



「まちづくりは掛け算」
「圧倒的な熱量と諦めの悪さ」
「悔しさを終わらせないことが次につながる」

最後に、3人の審査員からそれぞれ全体の講評が以下のように述べられました。

吉弘「9つのプラン・モデルが発表されましたが、甲乙つけがたく、実は審査員3人とも評価がバラバラで、どうしましょう?みたいな話をしていたのですが、いちばん想いがある人が受賞した気がしています。まちづくりや地域活性化は足し算だとよく言われますが、私は掛け算だと思っていて。行動がゼロだったら、どんなに100を掛けていってもゼロです。行動に移していかないとアイデアが価値にならない。だから、ぜひ行動に移していただきたい。本当に素敵な9つのプラン・アイデアでした。ぜひいろんな形で実現できたらと思うし、もしお役に立てることがあれば、お手伝いしたいです」

瀬崎「本当に悩んだし、本当に僅差だった。何が悪いというのはまったくなく、ぜひすぐにでも一緒にやりたいアイデアがたくさんありました。最後はやはり、実行できるかどうか。私自身も大組織に勤める中で、いろいろ提案はするけれど、はねのけられることがたくさんあり、そうしたフラストレーションをぶつけるような形で活動してきました。それが良かったと思っています。みなさんのプランもぜひ、一緒に形にしていけたらと思っています」

堀口「賞はこういう形になりましたが、結局、これからです。この場では見えなかったものもたくさんあると思います。だから、今後もどんどん情報をください。地域に根を張って頑張っている人には、共通点が2つあります。ひとつは、圧倒的な熱量。絶対これやりたいという熱量、誰にも譲らないという想い。もうひとつは、諦めの悪さ。ちょっとした失敗で諦めないで、とにかくやりきる。形になるまでやる。そういう方が多いんです。これから地域で何かをやってみようと思った方は、ぜひ、やりきってください。楽しんで、かつ、このスクールでできたつながりを大事にしていただいて、新たな取り組みをはじめていただけたらと思います。本当に今日はありがとうございました、勉強になりました」

このように、審査員にとっても新たな出会いと学びの機会になったようです。

さて、3ヶ月間かけて続いてきた能登ローカルシフトアカデミーもいよいよエンディング。能登ローカルシフトアカデミーの全体総括として、プロデューサーである稲田より次のような言葉で締めました。

「賞を取った人も取れなかった人も、そこでホッとした瞬間に動きが止まると思います。悔しい思いや、もっと伝えられたのにといった思いを抱いた人は、その悔しさを終わらせないことが次のアクションにつながり、最初の関係人口になります。このあとはみなさんの主体性次第。いったんアカデミーは今日で終了しますが、みなさんの人生はこれからスタートしていきます。今後とも伴走させてください。3ヶ月間、お疲れさまでした!」

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3ヶ月と短い期間ですが、能登町での事業創出を目指して真剣に向き合った受講生たち。これからも受講生の挑戦は続きます。



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