女優の沢尻エリカさんが麻薬取締法違反（合成麻薬所持）の疑いで警視庁に逮捕されたというニュースには当初、あまり関心がありませんでした（注：以下は容疑者呼称に変えます）。沢尻容疑者のファンではないですし、逮捕容疑とイメージのギャップも特に感じられなかったからです。

　あと、「芸能人に清廉潔白を求めすぎるのはどうか」という個人的な気持ちもあります。
　その人がどんな職業だろうと犯罪の容疑者を捕まえて取り調べをして公開の法廷で裁くのは当然のことではありますが、それは分かった上で、「あぶない感じ」の芸能人の方が「魅力的に見える」ってのもあると思うんですよ。

　当初は「民放テレビのニュースとスポーツ紙はみんなトップ級だろうけど、新聞とNHKはどんな扱いにするかな」という程度にしか考えていませんでしたが、スポーツ報知のこの記事で、がぜん注目するようになりました。

　TBS系「新・情報7daysニュースキャスター」というテレビ番組で、安住紳一郎アナウンサーが話したことをまとめたものです。
　こういう記事ってこれまで、「テレビ見て芸能人の発言を記事にするなんて、随分とラクな仕事だねぇ」と半ばバカにしていたのですが、今回は使わせていただきます。これまで軽んじていて申し訳ありませんでした。今後はこういうスタイルの記事にも一定程度の尊敬の念を持って接することといたします。

　で、引っかかったのは、安住アナが言ったとされる、この部分です（原文のまま、太字は筆者）。

さらにＴＢＳが撮影した逮捕前日の映像に「これまでにも大麻使用疑惑などなどが週刊誌などで報じられていて、そして今回は非常に確度の高い情報がマスコミに一部もたらされていたということでＴＢＳの報道記者もこの映像を持っているということのようです」と明かしていた。

　警察取材の経験がある記者なら、多くが「あれっ？」と思うはずです。太字の部分に注目していただくと分かるのですが、この発言は「警視庁がTBSを含む複数のマスコミに逮捕情報を事前リークしていた」ことを暗に示しているのに等しいのです。

　逆に、このような言い回しであれば、違和感はないと思います。

…確度の高い情報をTBSの報道記者が捜査当局から得たことから、この映像を持っているということです…

　薬物捜査においてマトリ（厚生労働省麻薬取締部）と競争関係にある警視庁が、自らの手柄を大きく報道してもらうため、親しい記者に事前リークするーというのは十分に考えられる話です。

　とはいえ、タテマエとしては、あくまで「自分たちで情報を取ってきた」ということにするのが、記者の世界における「暗黙のルール」だったはずです。
　そうしないと、情報をリークしてくれた警察官も取材したTBS記者も組織内での立場が危うくなってしまいます。情報をもらったマスコミの側が「向こうからリークしてきた」とぶっちゃけるのは、明白なルール違反なのです。

　実際、TBSのスクープ報道（逮捕前日の映像）の元となった警視庁の〝事前リーク〟をめぐり、Twitterでは「地方公務員法違反（守秘義務違反）では？」という指摘が複数出ています。安住アナの発言を踏まえれば、こうした指摘がなされるは当然のことです。

　当然の指摘ではありますが、ここから先はマスコミ業界のグレーな部分でして、記者が警察や行政機関、企業・団体を取材して取るスクープ（独自ダネ）って、「正式発表前に担当幹部が事前リークしてくれたネタ」が多いんです。
　ですので、記者は自分にだけリークしてくれるように、担当幹部との人間関係づくり（飲みに行ったり趣味に付き合ったり）に勤しむわけです。

　細かく説明すると長くなるので省略しますが、記者がスクープを取る際、担当幹部にゴマをすって情にすがってリークをいただくという構図だけでなく、様々なケースがあります。
　周辺取材を重ねて情報を揃えて、「そろそろ動きますよね。知っていますよ。書いていいですか？」と担当幹部に迫る場合もあれば、「あんたにだけ正式発表前に耳打ちするから、大きく書いてね」と、先方から持ちかけられる場合もあります。

　そして、どちらのケースであろうと、「うちの記者が能動的に情報を取り、うちの社の価値判断でスクープとして報じた」ってことにするはずなんです。
　ですので、安住アナが警視庁のリーク、しかもリークがTBSだけでなく複数の社にあったことを匂わせたのはなぜか、そうした言い回しをしたことに意図があるのかないのか、気になって仕方がないんです。

　このタイミングでの沢尻容疑者の逮捕を巡っては、「桜を見る会」問題への国民の関心をそらすためではないかという憶測がネット上で語られております。
　フィクションなら、「国民を欺こうとする政権中枢の陰謀をあるきっかけで知った人気大物アナウンサーが命がけで発した国民へのメッセージ」って設定にすれば盛り上がると思うのですが、リアルにどうかというと、地方回りの「意識低い系新聞記者」としては、スケールが大きすぎて想像すらつきません。