オールドメディア的な価値観でいうと「黒ちゃん」はすげぇいい人だし一緒に麻雀した新聞記者は超敏腕

 noteを書くのも開くのも5ヶ月ぶりです。5ヶ月といえば、新型コロナウイルスの記事が中国の風土病のような扱いで新聞の外信面に小さく載っていた頃のはずです。
 こんな短期間で世界のありようがここまで劇的に変わることを想像できた人はいないでしょう。

 コロナを巡って伝えるべきこと、議論すべきことは膨大にあるのですが、「意識低い系新聞記者」を自称する人間がここで扱うのもどうかなぁと思って控えておりました。

 しかし、ようやくぼくが扱うにふさわしい(?)話題が出てきました。東京高検・黒川(元)検事長の賭け麻雀問題です。

 タイトルに「黒ちゃん」と書きましたが、もちろん、黒川(元)検事長と面識はありません。検察庁を取材したこともありません。

 でも、オールドメディアである新聞業界に長くいるギョーカイ人としては容易に想像がつくのです。「黒ちゃん」は記者たちに人気があったでしょうし、一緒に麻雀した記者は「社を代表する敏腕記者の一人」を自認していて、周囲からもそう評価されていたであろうことを。

 検察といえば、国税庁や公正取引委員会などと同様、ネタが取りにくい(極めて口が堅い)官庁として知られています。
 そんな中で、記者と一緒に雀卓を囲んでくれる検察官(しかも大幹部!)なんて非常に貴重でありがたい存在ですし、その麻雀仲間になれるほど取材対象に食い込んでいる記者は、オールドメディアの組織において間違いなく「極めて優秀」と目されていたはずです。

 行政を相手に取材する際、「情報を持っているor物事を決める立場にある幹部に食い込んで公式発表より早くネタを掴んで書く」というものと、「地道な周辺取材によって裏取りを進めていった上で、行政が発表したくないネタを暴く」というものがあります。

 後者の方が一般的に抱く新聞記者像に近いかもしれませんが、いつもそんなネタがあるわけでもありません。紙面を埋めるために、記事の量を求められることも多いのです。

 そうなると、ありがたいのが悪名高き「記者クラブ」という制度でして、官庁の記者クラブに属していれば役人さんが記事になりそうなネタを要約した書類(「プレスリリース」といいます)を持ってきてくれますし、それを見てちょこちょこっと記事にすれば役人さんには感謝されるし、会社には「今日あいつは職場に出勤して仕事をしている」と認知してもらえるわけです。

 そんなふうに相手の言いなりに記事を書いているうち、官庁の幹部職員と親しくなり、一緒に飲みに行ったりゴルフに行ったり賭け麻雀をしたりすることでさらに食い込み、幹部職員から「あんたにだけ先に教えてあげる」という囁きとともに公式発表2〜3日前の情報をもらうーという関係になります。

 役所が公式発表する前日に載せる記事を、ニュース価値が高い「スクープ(独自ダネ)」と言えるのかどうか、見解が分かれるとは思いますが、オールドメディア内では、そういうものを書く記者も「優秀」という評価になります。

 ぼくも、そういう面で「優秀な記者」と目されていた時代がありました。赴任した先を地盤とする保守系の有力政治家に気に入られ、その後数年間、政治や選挙をはじめ、役所の予算付けや人事、事件に到るまでその方から情報をもらって、ローカルニュースばかりですが独自ダネを書きまくりました。

 その有力政治家が地域のキーマンだとも知らず、なぜか気に入られて「食い込んでいる」ように見える形になっただけで、ぼく自身が食いこむための努力をしたつもりはありません。たまたま運が良かっただけです。それでも、業界内では「デキる記者」という評価になります。
 ただ、ぼくがその赴任先を離れると、そういう評価はなくなりました。まあ「ラッキースケベ」みたいなものだったのです、表現が不適切かもしれませんが。

 今回の賭け麻雀問題に出てくる新聞記者はおそらく、地道な努力を繰り返して極めて有力な取材対象である「黒ちゃん」の懐に飛び込んで食い込み、大きなネタを取っていたのでしょう。
 そうした取材手法はオールドメディア的には王道であり、検事長の麻雀仲間になった彼らも、自ら築いたコネに鼻高々だったはずです。

 しかし、今回の問題では麻雀仲間だった新聞記者も批判にさらされています。緊急事態宣言下だったこと、金銭を賭けていたこともありますが、それ以前に「記者の取材活動としてどうなんだ?」という、マスコミとしての姿勢が問われているのでしょう。

 この問題に関して、記者が所属する新聞社は「不適切だった」「賭け麻雀は言語道断」といったコメントを出しております。
 しかし、それはタテマエであって、オールドメディアの取材活動は、気さくに賭け麻雀に応じてくれる政府高官や、そこに食いこむ「敏腕記者」に支えられているのです。これらの新聞社は決してそんなコメントをしないでしょうけれど。

 

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