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農水省は日本の農業の毒親だ【成長阻害法】

■はじめに

長野県に「加工のカリスマ」と呼ばれる、小池芳子さんという女性がいます。全国の農家から集まった農産物を加工し農家へと返す「農産受託加工所」を経営されています。なんと60歳から始めて25年、「農家の手取りを増やしたい、農家に嫁いだ女性たちを元気にしたい」という一心でこの加工所をやってきたという小池さんは経営者のカリスマとも言えそうです。

農水省は「農業の六次化」の掛け声のもと農業の事業化を進めてきました。ですがそれよりもはるか以前から彼女は事業を始め、加工所の前身の「富田農産組合」から数えるとすでに40年にもわたり経営しているのです。
こちらとても良記事なのでぜひお読みください。(写真をクリックすると記事に飛べます)

特集 農産加工の原点その1「地域の農家を元気にしたい」産直新聞社 


本noteではこの度国会で審議されることになった「特定農産加工業経営改善臨時措置法の一部を改正する法律案(特定農産加工法改正案)」(本法案」)について考えてみたいと思います。対象とするものは2024年第213通常国会で法案が提出される『特定農産加工業経営改善臨時措置法(平成元年法律第六十五号)改正法案』です。

農産物は単体で販売すると気候の影響で価格が安定しないこともあります。また、単体で売るよりもジュースやジャム、手軽に使える調味料やソースなどに加工して販売することでより高単価の商品に生まれ変わらせることができます。ただ、例えばトマトを加工するにあたっても手で一つ一つヘタを取ってつぶしていては事業化などできるわけがありません。そのため設備投資、更新など資本を投入して工場化していくことになります。特に最近はHACCPという衛生管理を整えた工場(施設)でないと加工食品は製造できません。

さらにこの数十年で国内の農産物を取り巻く環境は大きく変わりました。TPPなどの関税撤廃による自由貿易制度への移行です。農産物の加工品であっても海外から安い原料が手に入れば、それを使った方が商品は安くできますから、国内の原料生産農家にとっては痛手です。

国内の農家を守るためにも、加工業者が国内の農産品を使って商品をつくってもらったほうが農水省としては良いのですね。そのため当然ですが、国内産の農産物を使う場合は輸入品よりも価格が高くなってしまいます。「道の駅」やお土産品として売られているジャムって結構高いですよね。そこで彼らは「国内産の農産物をつかった加工業の経営を守る制度が必要だ」と言うのです。

そこで農水省が考えたのが、輸入品を使わず、国内産の農産物を使った加工業者に融資をする制度で、それが本法律「特定農産加工法」です。融資の要件や運用の方法を定めるのが本法律です。融資は我が国の得意技「株式会社日本政策金融公庫」が行います。前身は「国民生活金融公庫」「農林業金融公庫」「中小企業金融公庫」。沖縄を除く46都道府県に営業所があります。財務省、経済産業省、農林水産省の天下り先です。

農林水産省の官僚としては政策を新しく作り補助金を出さなくても、政策金融公庫に仕事を振っていくことでコネクションが維持できるわけですね。ですからこの法案、農水省による中小企業支援という名目の省益拡大案件です。

ところが、国に頼らずとも、日本の民間企業は強いのです。カゴメを中心とした「全国トマト工業会」の取組です。

これはカゴメ、コーミ、岡本食品、ナガノトマトなどトマト加工食品を扱う「農産加工業」社が始めた原料生産農家応援のための補助制度です。トマト工業会の補助事業はかなり評判が高く『事業計画書』を見ると「生産コストの低減、労働力の軽減、さらに単収アップなどに繋げるための技術セミナー等の開催に掛かる費用について助成する」など手厚いサポートが受けられるそうです。契約農家の声をご紹介します。

防除スケジュールをメーカーから提示してもらえることがありがたいです。他の作物では使える農薬の提示はあるものの、使用時期や種類の選定まではしてくれないことが多く、自分で選ぶ際に何が適切かわからず不安を感じることがあったので助かっています。加えて加工用トマトでは、JAメーカーが定期的に講習会や圃場巡回を実施したり、その年その時期の状況に合わせた提案もしてくれる

茨城県鉾田市冨田文夫さん


昨年の通常国会で当noteでは、商工中金法改正案に対し次のように言いました。

これまでと同じこと(前例主義)を続けていては、行政も実業も複雑な決まりに縛られてとても自由な経済活動などできるわけありません。商工中金をただ「民営化」するだけでは規則や規制に縛られた官製金融機関の性質が薄まることは考えられません

改革は法に縛られてはできるわけがない】商工組合中央金庫法・中小企業信用保険法改正案

あとで述べますが、この制度は大して効果的に利用されていません。法律自体が商工中金などと同じように政策金融公庫の権益保持のために作られています。ということでこの法律自体に反対です。結果も見えないまま5年ごとの延長を30年の間繰り返していることにも納得いきません。国会でも数回しか取り上げられていない本法案を継続する意義はありません。

延長を繰り返せば繰り返すほど私たちの税金を投入し続けることになります。事業をやめて税金を安くしてくれた方が農家の手取りだって増えるし、規制を減らせば農産物加工に参入できる人も増えるのですから。
それが本当の意味で農業が豊かになるたったひとつの方法なのです。
規制強化の末路はコチラ↓

■特定農産加工業経営改善臨時措置法とは

本法律は牛肉、かんきつなど12品目協議による輸入自由化の影響を受ける特定農産加工業者の経営改善の促進を図るため、平成元年に制定されました。その後、段階的に関税が撤廃される中、該当する品目が追加され、現在は14品目が対象となっています。

本法律の制度を利用することで事業者が設備、開発力を増強し体力をつけ海外から輸入される農産品を使った製品に対抗できるはずです。しかし下図で分かるように法制定から30年、5年ごとに延長されてきました。ここでは日本維新の会ホームページに掲載されていた農林水産部会ヒアリング時に示された資料から歴史的な部分をご紹介します。

日本維新の会ニュース 日本維新の会政務調査会 農林水産部会ヒアリング開催のお知らせ『農林水産部会ヒアリング(特定農産加工法案資料).pdf』

念のため現在の対象品目の部分を政策金融公庫の資料から抜粋します。特定農産加工業のほか、12の「関連農産加工業(特定農産加工業者との事業連携)」も併せて指定されています。

特定農産加工業
1.かんきつ果汁製造業
2.非かんきつ果汁製造業
3.パインアップル缶詰製造業
4.こんにゃく粉製造業
5.トマト加工品製造業
6.甘しょでん粉製造業
7.馬鈴しょでん粉製造業
8.米加工品製造業(米穀粉、包装もち、加工米飯、米菓生地、和生菓子[米を原材料とするもの]に限る。)
9.麦加工品製造業(小麦粉、小麦でん粉、精麦、麦茶、パスタに限る。)
10.砂糖製造業
11.菓子製造業(チョコレート、キャンデー、ビスケットに限る。)
12.乳製品製造業(飲用牛乳を含む)
13.牛肉調製品製造業
14.豚肉調製品製造業

日本政策金融公庫/サービスのご案内/融資のご案内/融資制度一覧から探す/『特定農産加工資金

関税撤廃は農業の自由化にもつながる良いことですね。しかしわが国の農業は国や自治体が値下がり部分を補填する「直接支払制度」など補助金農政を強力に推し進めてきた結果、どうしようもない事態に追い込まれてしまっています。関税撤廃の多くは10年を超える猶予期間がありますが、主食となるコメやコムギについては条件なく関税撤廃を拒否する姿勢で臨んでいます。

さて、本法律の制度的な面としては上記業種について長期低利融資を政策金融公庫が行い、自治体としては事業所税の軽減措置を行うというものです。

先の維新の資料に農水省資料からの転載で資金の活用事例が紹介されていますので、ご紹介します。新工場の建設、新工場の設備増強、増産体制の整備と省力化のために利用された実績が紹介されています。そこそこの中堅企業が融資を受ければ、売り上げの増進と投資効果が比例するのでしょうか。余裕のない事業者にとってはなかなか手が出せない条件ではないでしょうか。

特定農産加工法活用事例(農水省資料からの転載)

政策金融公庫の「特定農産加工資金」の主な対象者は「特定農産加工業者およびこれらを構成員とする事業協同組合等、事業提携による生産の共同化等を行う関連農産業加工業者およびこれらを構成員とする事業協同組合等」「施設や機械の取得」特定業種については「特許権等の取得や研究開発に要する費用」となっていますので、中小企業対策と言っても事業規模が比較的大きな農産加工品業者のための制度となっています。融資の状況を確認すると「加工流通分野」は545億円。そのうち特定農産加工に83億円が融資されています(令和4年度)。

政策金融公庫/会社概要/業務の概要/農林水産事業/農林水産事業のご案内2023/融資の状況と特徴/加工流通分野

これを多いとみるか、また有効活用されているかの評価は大切ですね。国としてきっちりやってもらいたいものです。平成31年4月11日の第198回国会  参議院  農林水産委員会でのやり取りをみると「借入金の償還が円滑に進んでいないもの」もあるとのことで有効活用されていない可能性が高いと判断します。下記の参議院での議論をみてもやはり制度自体がうまく回っていないのではないかと想像します。

それから、返済状況でございますが、特定農産加工業者の中には、設備投資を行っているにもかかわらず、やはり売上げの確保あるいは事業の進捗が当初の予定よりも進まなかったということで借入金の償還が円滑に進んでいないものも若干ながら存在をしております。法が制定された平成元年から二十九年度末までの回収不能となった事例は三十二件ございます。最近では、平成二十七年度に一件事例があるところでございます。

第198回国会 参議院 農林水産委員会『第5号』農林水産省食料産業局 白川 白良局長

さて、みなさんの知っている「税金」はほとんど「個人住民税(県民税、市民税)」だと思います。他には「法人住民税」や「事業税」といったものがあります。税金は本来公平であるべきなんですが「事業所税」が減額される場合があります。本法案の対象者は「特定農産加工業者」と言いますが、それが支払う事業所税も軽減制度があります。

税制上の特例措置
本制度では、所要の税務手続きを行うと、税制上の特例措置が受けられます。
【項目】
事業所税の軽減
【対象者】
特定農産加工業経営改善臨時措置法に基づいて、経営改善計画の承認を受けた事業者
【内容】
承認を受けた計画に従って実施する経営改善措置に係る事業の用に供する施設に対して課税される事業所税(※注)について、資産割の課税標準の4分の1を控除することができます。
(※注)事業所税の課税団体は、東京都(区部)、政令指定都市、首都圏・近畿圏の特定の市、その他人口30万人以上の市で政令で指定するものになっています。詳しくは窓口までお問い合わせください。
【具体例】
事業所床面積(課税標準) 3,000平米 の場合(免税点1,000平米)の軽減額
3,000平米 × 1/4 × 税率(600円/平米) = 450千円 の効果

日本政策金融公庫「特定農産加工資金

現在の適用実績は最新のものが令和3年度までの分で、すでに国会に報告済みです。課税標準の事業所床面積で12万2900平米、軽減金額が7400万円となっています。これは令和3年度の適用件数107で割ると、1件当たり70万円の軽減措置です。このように特定の事業者だけが「減税」の恩恵を受けられている状況です。事業所税については参考のページをお示しします。

〇第211回国会提出(総務省委託)『地方税における税負担軽減措置等の適用状況等に関する報告書』40ページ(農林水産省)

■特定農産加工業経営改善臨時措置法の改正内容

本法案の改正内容は次の通りです。

1.特定農産加工業経営改善臨時措置法の有効期限を五年間延長し、令和十一年六月三十日までとすること
2.題名を「特定農産加工業経営改善 等 臨時措置法」とする
3.(目的)第一条に「原材料の調達の安定化」を追加
4.小麦、大豆を「(省令で)指定農産物として定める」(第五条追加)
5.指定農産物については「原材料たる指定農産物等又は代替原材料の保管その他の原材料の調達の安定化を図るための措置に関する計画を作成する」ことを追加
6.指定農産物に係る権限は「農林水産大臣」が地方支分局長に委任する。
 (特定農産物は都道府県知事)

農林水産省 特定農産加工業経営改善臨時措置法の一部を改正する法律案『新旧対照条文』より抜粋

さて本法案の特定農産加工業経営改善「等」となった部分、それは小麦、大豆に関する原材料調達の安定化を図るための措置の部分です。農水省のホームページとしては令和2年より始まっていますが、令和5年度補正予算より大々的に活動を始めています。

〇農林水産省「小麦・大豆の国産化の推進(令和5年度補正予算)

〇令和6年度予算概算要求の概要『国産小麦・大豆供給力強化総合対策

同事業は「水田における高収益作物への転換、水田の汎用化・畑地化のための基盤整備、栽培技術や機械・施設の導入、販路確保等の取組を計画的かつ一体的に推進」するとあります。本年度は計画策定を都道府県、水田農業の高収益化を国が行う補助事業です。それを基盤として今後小麦、大豆の指定農産加工業者が原料として調達していく仕組みになると思われます。

〇農林水産省『麦・大豆生産技術向上事業の概要

大豆、小麦を使った農産加工品事業者は数多く存在すると思いますので、今後さらに本法律による制度利用者が増える可能性があります。そうするといよいよ政策金融公庫への国庫支出金が増える事態となり、税金も投入されてしまいます。そして増税へ…
税金を使うための『事業創造』はアウト!

浜田参議院議員に質問してほしい!

減税と規制緩和に賛成で、国会でも政府に鋭い質問をしてくださる参議院議員NHK党の浜田議員に、ぜひとも国会で質問して欲しいな〜と思うことを番外編として掲載しています。(^_^)

【質問1】
第198回国会 参議院 農林水産委員会において「借入金の償還が円滑に進んでいないものも若干ながら存在をしております」との答弁がありましたが、現在の償還状況と回収不能額についてご提示ください。

【質問2】
平成31年3月の第6次延長時に農林水産省が作成された資料によりますと、平成28年製品出荷額でみますと、沖縄、鹿児島、北海道、宮崎、性、高知、新潟、奈良、宮城の各道県は製品出荷額中食料品が1位であったとあります。令和2年あるいは3年度、直近の同様の数値は出ておりますでしょうか。ご紹介をお願いいたします。また、その内国産品の農林水産物の占める割合をお示し願います。本法案については「農産加工業」が対象となっておりますので、可能であれば農産加工業の出荷額に基づく県別の状況を教えていただきたいのですが、いかがでしょうか。

【質問3】
本法案については農産加工業者が対象です。昨年本法律による制度を利用した事業者で事業所税の軽減措置を受けた事業者の所在地別、品目別による集計などはなされているのでしょうか。もし数値があるようでしたら、どのようなものであったかご教示お願いいたします。

【質問4】
今後、小麦、大豆を指定農産物に定めますが、対象となる事業者が相当数増えるものと考えられます。また、「コメ」を指定農産物に定めることは想定されているのでしょうか。農産加工品の原材料となる国産小麦、大豆の栽培量は確保可能なのでしょうか。予算規模の変更についてもご教示ください。政策金融公庫への国庫支出金については財務省としてはどの程度増額を予定しているのでしょうか。

最後までお読みくださり、どうもありがとうございます。 頂いたサポートは地方自立ラボの活動費としてありがたく使わせていただきます。