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【税制はシンプルに】日・アルジェリア租税条約

こんにちは。地方自立ラボ(@LocaLabo)です。

今回は、この度国会で承認を求められることになった「所得に対する租税に関する二重課税の除去並びに脱税及び租税回避の防止のための日本国とアルジェリア民主人民共和国との間の条約」について調査しましたのでご紹介いたします(本稿で対象とするものは2023年第211通常国会で提出されたものです)。
本条約はこれまで結ばれていなかったアルジェリアとの締結に関する承認を国会に求めるものとなります。

アルジェリアってどんな国?

「太陽が眩しかったから。」
あなたはカミュの名作『異邦人』を読んだことがありますか?主人公が殺人の動機を問われた際の不条理な答え。舞台はフランス領アルジェリアです。カミュの本編を読むと、どんなことでも太陽のせいにできそうな日差しの強い風土を感じます。
現在では国名に「人民共和国」を冠していますが、資本主義国として経済活動の活発な国に生まれ変わろうとしているアフリカ北部の独立国です。地中海を挟んでヨーロッパとの交流が盛んなアフリカでもっとも広い国です。


JETRO調査レポート「アルジェリアの経済・貿易・投資」(2018年03月30日)より、アルジェリアについて見てみましょう。

アルジェリアはEUに近接する地中海沿岸諸国の中で比較的人口が多く(4,460万人)、世界有数の産油国として知られる。一方、炭化水素依存の経済(炭化水素分野[原油・天然ガスなど]は輸出総額の 97.2%、財政収入の69.8%、GDP の 35.3%)は油価下落の影響を大きく受けた。政府は国内製造業振興策を打ち出すなど、経済の多角化を図ろうとしている。しかし外貨準備の減少を補うまでに至らず、輸入規制を年々厳格化させている。また、治安や外資規制などが外国企業の投資障壁となっている。

※適宜、外務省資料、JETROレポートから補足しました

JETRO調査レポート「アルジェリアの経済・貿易・投資」(2018年03月30日)

アルジェリアの主要産業は石油と天然ガスであることがわかります。日本とのかかわりは石油プラント、それらを運ぶ道路網への投資であることが想像できます。主要な貿易国はフランスだそうですが1970年代より日本の産業装置を中心とした投資を受け入れてきたそうです。宗教対立を基にした過激派などの勢力があり渡航危険度の高い国の一つです。

アルジェリア 危険・スポット・広域情報 外務省HPより

租税条約について

では次に租税条約について見ていきます。わが国の租税条約については財務省に資料が掲載されていますので、参照してみましょう。

租税条約は、課税関係の安定(法的安定性の確保)、二重課税の除去、脱税及び租税回避等への対応を通じ、二国間の健全な投資・経済交流の促進に資するものである。

租税条約には、国際標準となる「OECDモデル租税条約」があり、OECD加盟国を中心に、租税条約を締結する際のモデルとなっている。OECD加盟国である我が国も、概ねこれに沿った規定を採用している。

【OECDモデル租税条約の主な内容】
●課税関係の安定(法的安定性の確保)・二重課税の除去
〇源泉地国(所得が生ずる国)が課税できる所得の範囲の確定
 -事業利得に対しては、源泉地国に所在する支店等(恒久的施設)の活動により得た利得のみに課税
 -投資所得(配当、利子、使用料)に対しては、源泉地国での税率の上限(免税を含む)を設定
〇居住地国における二重課税の除去方法
 -国外所得免除方式又は外国税額控除方式
〇税務当局間の相互協議(仲裁を含む)による条約に適合しない課税の解消
●脱税及び租税回避等への対応
〇税務当局間の納税者情報(銀行口座情報を含む)の交換
〇滞納租税に関する徴収の相互支援

財務省「租税条約に関する資料」

国際的な企業が増えた現在、課税の制度は複雑さを増しています。そのため、より納税額の低い国を利用して収入を保持しようとすることは当然の流れです。しかし中には制度の網の目をかいくぐり、悪用して税を逃れる企業、個人などが増えてきていることは、あなたもよくご存じでしょう。このような税法上の恩恵を濫用してほとんど納税しない方法を利用することも行われているようです。

今回締結されることになったアルジェリアとの租税条約についても、上記に示したOECDモデルの条項による構成となっています。本協定の目的について、国会提出用に作成された外務省資料には次の通り記載されています。

課税範囲や限度税率についての法的安定性や予見可能性を高めることで両国間の投資・経済交流を促進するとともに、脱税・租税回避行為に対処するための枠組みを構築する必要がある

「日・アルジェリア租税条約」『概要』

主に二国間に居住する個人、企業が払う所得税に関する取り決めとなっています。租税条約は現在84条約を153ヶ国、地域と締結しています。条約の適用範囲の具体例として、次のようなことが挙げられます。例えば海外に出資子会社を持つ会社で配当所得が発生する場合、本国内の税制に従い課税されますが、租税条約を交わしている国にある子会社からの配当所得の場合は、課税所得に含まれないようにすることができます。

我が国の租税条約ネットワーク(財務省資料)

BEPSと租税条約の濫用について

さて、わが国での租税条約の始まりは日米租税条約が最初の締結であり、1954年結ばれました。以後、各国と結んできましたが、近年は「税源浸食及び利益移転(BEPS)を防止するための租税条約関連措置を実施するための多数国間条約」(BEPS防止措置実施条約)へ統合する動きがあります。日本と租税条約を交わしている国が批准することで効力が発生します。

BEPS防止措置実施条約は租税条約(改定)の手続きの簡素化であり、共通の脱税回避策ともなるものです。国税庁はBEPS(税源浸食及び利益移転)について以下のように説明しています。

(BEPSは)多国籍企業等が、グループ関連者間における国際取引により、その所得を高課税の法的管轄から無税又は低課税の法的管轄に移転させることで、国際的二重非課税を生じさせるものと言えるのではないか
(略)
経済実態と課税実態の乖離を防止する方策を、戦略的かつ分野横断的に検討し、国際的に協調された対応を促すもの(として防止する方策が必要)
(略)
(BEPSは)軽課税国への無形資産の移転、ハイブリッド・ミスマッチの利用等を組み合わせ、税率の低い国・地域に利益を移転することで生じている(略)。多くのBEPSの手法は合法であり、国際課税原則を見直す必要性がある。

税制と課税逃れは言ってみればイタチごっこであり、経済の実態と課税の実態に乖離が生じることは当然です。新しい手法ができれば租税条約を常に改定していかなくてはならず、しかも国ごとに改定が必要となると、行政が破綻をきたします。これは租税条約の濫用による悪影響と言えるでしょう。

その対策として有効なのは、各国共通のプラットホームとしての条約を用意してそのプラットホームが古くなれば新しいプラットホームに電車を移動させるように適用する制度を変更すればよいとする考え方です。

(ただしこの説明は概略であって、より詳細な制度を知りたい方は、以下の国税庁のホームページや専門書でご確認ください)

まとめ

租税条約自体は必要な法律です。しかし、現在ある二つの当事者国の税制をもとにして締結されますので、税制が変更され、もし条約に影響がある部分があれば条約自体を改定しないといけないのです。そのためBEPS防止条約のような考え方が出てきました。

150もの国と地域との間で個別の要件を考慮しながら条約を作るのは無駄の極致です。カミュであれば「太陽が眩し過ぎる!」と言って連続殺人が生じかねません。しかも現在の動きとして現在ある租税条約をBEPS防止条約に取り込んでいます。条約改定手続きのようなものは必要ありませんが、国内で管理する条約の数が増え続けてしまうのです。

より効率的に租税条約とBEPS防止条約を統合していくためには、簡素な税制が必要になってくるでしょう。社会が高度化しているのに、法制や税制が旧来のままで良いわけはありません。なるべく近い将来にこのような税制へと変わっていくよう希望します。

私たちは全ての増税と規制強化に反対します。
合わせて、税制の簡素化を進めることも強く要望して終わりたいと思います。

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