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【さらに値上がり?!】2022年国際コーヒー協定

こんにちは。地方自立ラボ(@LocaLabo)です。

今回は、この度国会で承認を求められることになった「二〇二二年の国際コーヒー協定」について調査しましたのでご紹介いたします(本稿で対象とするものは2023年第211通常国会で提出されたものです)。
本協定はイギリスに本部を置く「国際コーヒー機関(ICO)」が作成しています。基本的には政府間組織で、生産国と輸入国で構成しています。

あなたはコーヒーが好きですか?コンビニのドリップコーヒーのおかげで日本はこれまでの缶コーヒー文化から、豆から淹れたコーヒー文化へと移行しました。そのため、コーヒー好きの方も増えたのではないかと思います。

最初にお断りをしておきたいのですが、今回の内容は前半に条文を多く引用しないと内容が分かりにくいため、前半がとても退屈かもしれません。きっと「早くコーヒーの話題に入ってよ」とウンザリするかもしれませんので、ご容赦ください。
読み進める前にお気に入りのコーヒーでも淹れてからお読みいただいたほうが良いかもしれません。最近は「珈琲減税会」も誕生したんですよ。
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はじめに外務省が作成した国際コーヒー協定の「概要書」から説明します。主な内容として次のように記載されています。

【主な内容】
国際コーヒー機関の組織、分担金、コーヒーに関する情報の交換、持続可能なコーヒー産業の実現のための国際協力及び官民連携等について定める。

2022年国際コーヒー協定

上記内容の具体的な部分は次のように説明されています。

早期締結の必要性
新興国におけるコーヒー需要の高まり等により国際コーヒー市場の需給がひっ迫する中、本協定の下、生産国・消費国の政府や民間部門等との連携をより緊密にすることで、我が国へのコーヒーの安定的輸入の確保を図る。

●本協定の下での協力は、コーヒー生産国の大半を占める開発途上国の発展の支援や国際コーヒー機関の加盟国との関係の強化に加え、持続可能な開発目標(SDGs)の達成にも資する。

●コーヒーの安全性や品質管理等について国際コーヒー機関を通じて我が国の考えを引き続き反映していくためには、本協定が発効するに当たって我が国も原加盟国として議論を主導することが必要。

「官民連携」「生産国・消費国の政府や民間部門等との連携をより緊密にする」と記載されていますので、国家として商業的な規制を強める方向により舵を切れということですね。また「開発途上国の発展の支援」とありますが、こちらは下記「協定の目的」の先の「コーヒー農家の支援」で述べていこうと思います。
では次からは「協定」本文を参照しながら、協定の内容を詳細に確認していきたいと思います。

協定の目的

まず、今回改定された目的について、2007年に改定された国際コーヒー協定との対比でみていきたいと思います。本協定には「新旧条文対照」が用意されていませんので、独自の視点で「新旧対照」を作成しながら、ご紹介していこうと思います。
次に示す引用部分は「協定」和文の本文で、追加されている部分を太字で示します。なお、条数は新規条番号として表示します。新設条項があるため新旧条番号はずれていきますが、冗長になってしまうので旧番号は基本的に記載しません。

第一条 目的
この協定は、次のことにより、コーヒー産業の全ての参加者のため、市場に基づく状況において、世界のコーヒー産業を強化し、かつ、その経済上、社会上及び環境上持続的な発展を促進することを目的とする。
(1) 加盟国のニーズ及び優先事項を考慮しつつ、全てのコーヒー栽培地域の発展並びに諸国間における社会上、経済上及び技術上の格差の縮小のため、コーヒーに関する問題について国際協力を促進すること。
(2) コーヒーに関する問題について加盟国及びコーヒーのバリューチェーンにおける利害関係者による国内的、地域的及び世界的な規模での関与を促進すること。
【旧:コーヒーに関する問題について政府間で協議し、及び民間部門と協議する場を提供する】
(3) 経済上、社会上及び環境上の観点から持続可能なコーヒー産業を発展させるよう加盟国を奨励すること。
(4) 供給と需要との間の均衡を保つ国際市場の構造上の状況並びに生産及び消費の長期的な傾向に関する理解を求めるための協議の場並びに価格を歪め、生産者及び消費者の双方に悪影響を及ぼし得る変動及び過度の投機に対処するようコーヒーのスポット市場、実物市場及び金融市場を十分に規制するための協議の場を提供すること。
(5) 全ての種類及び形態のコーヒーの国際貿易の拡大を促進し、並びに当該国際貿易の透明性を高め、並びに貿易障害の撤廃を促進すること。
(6) コーヒーに関する経済的、技術的及び科学的な情報、統計及び研究成果並びにコーヒーに関する研究及び開発の結果を収集し、配布し、及び公表すること。
(7) 全ての種類及び形態のコーヒーの消費及び市場(コーヒー生産国及び新興市場におけるものを含む。)の発展を促進すること。
(8) 加盟国及び世界のコーヒー経済の利益となる事業計画を作成し、取組のための財源の管理を支援し、及び可能かつ適当な場合には、当該事業計画の実施を管理すること。
(9) 消費者の満足を高め、及び生産者の利益を増進するためコーヒーの品質を向上させること。
(10) 加盟国のコーヒー産業における食品の安全に関する適当な手続の作成及び実施を奨励すること。
(11) コーヒーに関する革新的な慣行及び技術の加盟国への移転を援助するための研修事業及び情報提供事業を促進すること。
(12) 地域社会及びコーヒー農業者(特に小規模農業者)がコーヒーの生産及び取引から利益を受けることを可能とし、家族の生活のための所得を通じて貧困の撲滅に貢献し得るよう、当該地域社会及び当該コーヒー農業者の強靱性を高めるための戦略を策定し、及び実施するよう加盟国を奨励し、及び支援すること。
(13) 気候変動も考慮しつつ、加盟国におけるコーヒー生産者が融資及びリスク管理の手段を利用することを援助し得る情報(特に金融上の手段及びサービスに関するもの)の提供を促進し、一層の金融上の包摂性及びリスク管理を可能とすること。
(14) 適当な場合には研究を通じて、世界のコーヒー産業が直面する課題(価格変動、高額な生産費、有害動植物及び病気、気候変動並びにコーヒーのトレーサビリティを含む。)に対処すること。
(15) 生産者が一層高い付加価値を生み出すことを可能とする市場に基づく解決策を促進すること。

協定和文

コーヒー農家の支援

今回の改定の目玉は、コーヒー農家の生活を守りつつコーヒー産業を発展させる仕組みづくりとなっています。近年「中米諸国では繊細なアラビカ種の豆が生産されているが、数十万人の栽培農家の多くにとって、コーヒーで生計を立てるのは難しくなっている。コーヒー栽培に見切りを付け、米国とメキシコの国境に押し寄せる移民の波に身を投じる農家は増える一方」だということです。

では、協定本文からそのような背景を基にした改定部分を見ていきましょう。

第二十六条
(1) 加盟国は、サプライチェーンを一層効率的なものとすること並びにコーヒーの生産、取引及び消費を妨げるおそれのある現在の障害を除去し、及び新たな障害を回避することの必要性を認識する。
(2) 加盟国は、国際協定に基づく約束及び義務並びに国際連合の持続可能な開発目標(国際的及び地域的な貿易に関連するものを含む。)と両立する保健、環境及び生活のための所得に関する国家の政策目的を実現するため、自国のコーヒー産業を規制すべきである。

第二十六条 に(8)(9)を追加

(8) 事務局長は、理事会による検討のため、取引及び消費に対するコーヒーに関連する障害並びに価格変動を引き起こし、並びに特にコーヒー農業者その他の生産者について生活及び繁栄のための所得又は価値の分配に影響を及ぼす市場の歪みに関する調書を毎年作成し、全ての加盟国に送付する
(9) 省略

コーヒー生産農家の「生活を守るための所得」「生活及び繫栄のための所得又は価値の分配に影響を及ぼす市場の歪み」が重大な問題となっているということが分かります。先の引用記事でも、「中米諸国のコーヒー栽培農家は、国際市場でのコーヒー価格の下落とブラジル産のシェア拡大により、損失と借金を重ねてきた」とあり、世界の30%を生産するブラジルと、中南米では同じコーヒー農家であっても所得や生活にかなりの差がありそうです。

また、「コーヒーの国際価格の約半分は仲買人の懐に入ってしまうため、栽培農家の利益率は非常に小さい。」とのこと。このような差をなくすために、本協定は改定されています。「第一条目的」でもこのように書かれていました。

(12) 地域社会及びコーヒー農業者(特に小規模農業者)がコーヒーの生産及び取引から利益を受けることを可能とし、家族の生活のための所得を通じて貧困の撲滅に貢献し得るよう、当該地域社会及び当該コーヒー農業者の強靱性を高めるための戦略を策定し、及び実施するよう加盟国を奨励し、及び支援すること。

本協定の目玉ともいうべき条文となっているのではないかと思います。コーヒー豆自体は零細農家が生産者となっているため、日本のコメのように自分で販路を広げることができません。現地の仲買人は未だに低価格で農家からコーヒー豆を集め、買い叩いているのでしょう。そのため、珈琲生産者が「生活のための所得」をできるだけ多く得られるような対策が求められています。コーヒー農家の悲惨な状況が映画化されたこともあります。今回の協定の改定にも影響していると思われますのでご紹介いたします。

2008年の映画ですが、コーヒー農家に支払われる代価は低く、多くの農家が困窮し、農園を手放さなくてはならない現実が語られています。

”トールサイズのコーヒー1杯330円。 コーヒー農家が手にする金額、約3円。 あなたが飲む1杯のコーヒーから世界のしくみが見えてくる。 コーヒーは世界で最も日常的な飲物。全世界での1日あたりの消費量は約20億杯にもなる。世界市場において、石油に次ぐ巨大な国際的貿易商品でありながら、コーヒー生産者は困窮し破産せざるを得ない現実。 一体なぜ?? コーヒー産業の実態を暴きながら、貧困に苦しむコーヒー農家の人々を救おうとする一人の男の戦いを追う。 生産者、企業、消費者。コーヒーが飲まれるまでの道のりに、深いドラマがある。1杯のコーヒーを通して、地球の裏側の人々の生活と世界の現実を、あなたは深く知ることになるだろう。”

おいしいコーヒーの真実

この映画では途上国V.S.先進国というテーマで多国籍企業が悪者になっているようですが、農家の貧困はその生産国の内政の腐敗や経済構造の影響の方が大きいように思います。


ちなみに2021年現在のコーヒーの多国籍企業ランキング。一位のネスレでも5%未満です。

世界コーヒーギルドとして

ICO(国際コーヒー機関)への加盟は、各国が意図的に加盟、脱退を行っており、決して安定はしていません。トランプ政権化において「アメリカ・ファースト」政策によりアメリカが2018年に脱退しました。また中米の主要生産国グアテマラは2020年に脱退。東アフリカの主要生産国ウガンダは2022年に脱退するなど様々な事例が挙げられます。グアテマラは「より公平なコーヒー貿易を促進し世界中の小規模農家を支援する」という目的のもと脱退しました。

本協定においてはコーヒー農家への生活保障に関して、最終販売者が意欲的に還元できるよう取り組む方針が示されています。「第2章 定義」に「第一条 目的」に対応する形で(11)~(14)が追加されました。特に「民間部門」に関する追加が本協定では重みを増しており、次の条項としてかなり細かく規定されています。

(11) 「民間部門」とは、私人、私企業又は国有企業(主としてコーヒー産業における又は当該産業に関連する活動を行い、かつ、開放された市場に基づく体制の一部として私企業と同様に業務を行うもの)により所有され、支配され、及び運営される経済の部分をいい、次のものを含む。
(a) 農業者、農業者団体、農業協同組合その他の生産者
(b) 零細企業及び中小企業
(c) 社会的企業
(d) 大規模な国内企業及び多国籍企業
(e) 金融機関
(f) 産業界及び商業団体
(12) 「市民社会」とは、倫理、文化、政治、科学、学術又は慈善に関する考慮に基づいて、公的活動に参加し、並びに自己の構成員及び他の者の関心及び価値観を表明する様々な非政府機関及び非営利団体をいう。
(13) 賛助加盟員
(14)最高経営責任者・グローバルリーダーフォーラム の定義は省略

さらに第六条につぎのように追加され、民間との協議を基に政府機関が理事会に提案する体制が組み込まれました。

第六条 賛助加盟員
(1) 民間部門又は市民社会の主体は、理事会の決定により、賛助加盟員となるための審査を受ける資格を有する。
(2) 機関の賛助加盟員として認定されることを希望する主体は、理事会の議長に宛てた申請を提出すべきである。当該申請は、理事会の議長に提出される前にいずれかの加盟国によって支持されなければならない。
(3)~(7)省略

なお、賛助加盟員は第七条において「(国際コーヒー機関の最高機関である理事会は)賛助加盟員会(省略)の助言を受けるものとする」として、理事会への助言ができるようになっている。ただし、理事会の構成は第九条において「すべての加盟国で構成する」となっており、理事会のメンバーとはなれません。(第三十四条 賛助加盟員会において機能、構成を規定)

その他
旧第十二章から
第三十条 統計上の情報
第三十一条 原産地証明書
第三十二条 研究、調査及び報告
を移動。
第三十四条に賛助加盟員会
第三十五条にコーヒー官民作業部会
第三十六条に関与、統合及び包摂性
が追加されています。

このような改定、追加を通して先進国である消費国側の民間部門が主体となり、原産国の農家を守りつつコーヒー産業を繫栄させるための調査、研究などに官民連携で取り組む体制が整備されています。そして、次のように旧第三十六条を第四十条として大幅な改定が行われました。

(1) 加盟国は、均衡のとれかつ統合された方法で、経済、社会及び環境の側面における持続可能な開発に関する原則及び目的(国際連合の持続可能な開発目標及び自己が承認した他の関連する国際的な取組に含まれるもの)に留意して、コーヒー資源及びその加工の持続可能な管理に妥当な優先順位を与える。
(2) 機関は、コーヒーのバリューチェーンにおける生産性、品質、強靱性及び収益性を向上させつつ、コーヒー農業者及び全てのコーヒーに関する利害関係者(特に小規模農業者その他の小規模コーヒー生産者)の繁栄を促進することを目的として、要請に応じ、コーヒー産業を持続的に発展させるために加盟国を支援することができる。

コーヒー価格、さらに上昇か?

さすが「国際コーヒー機関」だけあってとにかくコーヒー産業を発展させるために何をしたらいいか、あらゆる面から考えているという印象を受けます。特に機関の理事会は国からの参加となるため、コーヒーの産地国が意欲的になるのは理解できます。しかし、コーヒーの流通の主体となる小売部門のグローバル企業はどう出てくるのでしょうか。あまりにもコーヒー産業共通の理念ばかり打ち出されると、企業利益を圧迫しかねないのではないでしょうか。

このような過激ともいえるコーヒー機関の方向性は、現在も進行中のマレーシア、インドネシアを中心としたパーム油の問題が想起されます。

2010年、環境団体グリーンピースが熱帯雨林の乱伐を行っているとネスレを非難しました。そこから南シナ海のマレーシア、インドネシアの野生動物保護運動が始まりました。その結果パーム、ヤシ林の過剰伐採問題の解決のために「RSPO(パーム油の認証制度)」制度を生みました。こちらは産業界が中心となって制度化されましたが、中心的役割を担っていたネスレが認証団体から会員資格をはく奪されるなど、内紛が起きました。挙げ句の果てにはマレーシア政府自体のRSPO(MSPO)なるものまで設立され食用油脂をめぐる状況は混沌としてきてしまいました。

パーム油認証はわが国の食品業界ではかなり大きな問題となっており、流通する食用油脂の価格上昇をもたらすのではないかと危機感を持たれています。この問題と同じようにコーヒー産業においても、国際コーヒー協定の改定で民間部門がかなり責任を負わされる面があり、近年上昇しているコーヒー価格をさらに押し上げる要因になるのではないかと思われます。

これは私見なのですが、コーヒー農家を守りたいのであれば、スターバックスなど大手のコーヒー提供会社自身でそのようなアクションを起こすことも可能なのではないかと考えます。あくまでも例ですが、グアテマラのコーヒーをスターバックスが購入したいと考えた時に、地元の仲買人が暴利を貪っている場合、スターバックスが現地農家を雇い入れた「グアテマラスターバックス農場」を設立して農家を組織化する。そうすれば悪徳仲買人を排除できるかもしれない。何らかの規制や既得権上の問題があって難しいのかもしれませんが、政府による支援等に頼っていては、腐敗はそのままに規制だけが増え、農家は衰退するばかりです。

自由経済市場を守り、コーヒー産業が発展するために、あらゆる規制をなくして多くの民間企業が参入できることを増やす。そして既存の経済構造を変えていくことが、本当の持続可能な開発目標(SDGs)と言えるのではないでしょうか。

私たちはすべての増税と規制強化に反対します。


おまけ

企業の海外農園事業も数少ないですが紹介しておきます。
日本の企業にはもっと頑張って欲しいですね。

・UCCブルーマウンテンコーヒー直営農園
・UCCハワイコナコーヒー直営農園

キーコーヒーの農園事業

スターバックスの農園事業(研究開発機関のみ)

ネスレ日本、沖縄で22年冬にコーヒー初収穫


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