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海外をレースで転戦しながら見つけた、「山」と「観光」の可能性

山を駆ける競技「スカイランニング」「トレイルランニング」の選手であり、「白馬人力車」の事業責任者でもある上正原真人(かみしょうはら・まさと)さんの連載「トレイルランナー、白馬を人力車で駆ける。」。白馬での仕事の様子、競技での海外遠征の様子などを月イチで綴ります。初回はヨーロッパ遠征に行って気づいた現地の様子についてです。

あこがれのレースに出場するため、海外遠征へ

2022年5月24日から6月29日まで、ヨーロッパの3ヵ国をトレランとスカイランニングのレースで転戦してきました。出場を予定していたレースは全部で4つ。そのうち2つはGolden Trail World Series(GTWS)という世界トップのトレイルランナーが集まる最高峰のシリーズ戦です。陸上で言うところのダイヤモンドリーグ、テニスだとグランドスラムといったところでしょうか。

競技を始めた頃からずっと憧れていた大会で、YouTubeで毎日のようにハイライトを見ていたのを思い出します。残念ながら怪我で2つ目のシリーズ戦である「Marathon du Mont-Blanc」には出場できませんでしたが、各レースのレポートをこちらにまとめましたのでぜひご一読ください。

レースだけじゃない。遠征の裏任務とは

海外遠征の目的は、もちろんレースに出場することです。が、レース以外にももうひとつ重要な任務があります。それは山岳リゾートの視察です。山とトレラン文化がどのように町に根付いているのか。また人力俥夫として、白馬で活かせる観光業のノウハウはないか。そんなアンテナを貼りながら町の中をジョギングしていました。

今回の遠征ではスペインに1週間、オーストリアに2週間、フランスに2週間滞在しました。山を舞台とする競技なので、滞在するのはもちろん都市部ではなくて田舎町です。アクセスは悪いし、情報も少なくてたどり着くのにまず一苦労。でもそれもこの競技の醍醐味。ポケモンで次の町に進もうと模索してるようでワクワクするんです。

お土産屋さんにあった写真集やガイドブック

中でも今回の遠征でとびきり楽しみにしていたのがフランスのChamonix(シャモニ)。ここは田舎町ではなく完全に観光地です。白馬と似たところがあり(というより白馬をグレートアップした感じ)選手としても、観光業に携わる人力車夫としても学びがありました。

聖地・Chamonixへ

オーストリアでのレースから1週間後、やっとの思いでChamonixに到着しました。というのも、予定していたフライトが2回連続で欠航になり、ドイツでたらい回しにあっていたのです。疲れ果てて最後のバスでは爆睡。目を覚ましてふと外を見ると目の前に巨大な氷河が! 旅の疲れが一気に吹き飛びました。

宿に着いたのは夜でしたが、ヨーロッパは日没が遅いのでまだ明るくすぐにジョギングしに行きました。中心街にはレストランが立ち並び、テラス席は平日でも人で賑わってました。Mont Blanc(モンブラン山、標高4810m)を見ながら飲むビールは最高だろうなと思い、ゴール後に乾杯することを遠征の仲間と誓いました。

平日でも賑わう街中

Mont Blancの初登頂は1786年。それから登山文化がヨーロッパ各国で急速に発展したため、ここChamonixは登山発祥の地とされています。また第一回の冬季オリンピックが開催され、スキーリゾートとしても発展してきました。人口一万人ほどの山沿いの街に夏と冬合わせて200万人ほどの観光客が訪れます。こういった環境は山を中心に発展を遂げた白馬とかなり似ている部分があります。僕が感じたChamonixのすごいところを3つ紹介します。

Chamonixのすごいところ3選

1.トレラン世代の幅が広い
Chamonixという場所はまさに人種のるつぼ。それはトレイルでも同様で、すれ違う人の年代やスタイルもとても幅が広いです。中でも新鮮だった光景を紹介します。

標高2000mのBreventを走っていたとき、70歳をゆうに超えているであろう夫妻がトレランザックに超軽量カーボンポールというトップ選手のような格好で走っていました。スピードはもちろんかなり遅め。それでもこの常識を覆す新鮮な光景に驚きと微笑ましさを感じました。

本当に、いろんな人たちが山にいるんです

日本ではトレランというと「体力があるスゴイ人がやる競技」というイメージがあるかもしれません。しかしChamonixでいろんなスタイルを見て感じたのは、「登山とトレランに境界線はない」ということでした。トレランは競技である前に一つの登山スタイルである。表すなら「軽量で動きやすいスピード登山」かなと。

誤解のないように説明を加えると、軽量というのは軽装ではなく、必要な装備だけに絞ることで速く移動することに特化したスタイルです。山頂でコーヒーを沸かして一眼レフで絶景を収めるのも山の楽しみ方ですが、そういった重いギアを取り払って自然の中を野生動物のように自由に動き回るのもひとつの楽しみなのです。

2.観光と乗り物の関係
街を歩いていてふと思ったのが、観光地にしては車の量が少ないなということでした。そして中心街に行くとそこは歩行者天国。関係車両以外は進入できない仕組みになっていました。そりゃこんな小さな街に年間200万人が車で来たらパンクしますよね。そうならない仕組みがしっかり整備されていました。

そして、すごいと感じたのは単に車を規制するのではなく、代わりとなる公共交通機関の利用を促しているところ。例えば、滞在している宿でもらえるパス。これを見せればChamonix周辺の電車やバスが乗り放題なんです。おかげで離れたところのコースの試走も車を使わず走ることができました。また大会期間中は応援者用のシャトルバスが運行されていました。日本だとスタートしたら見送ってゴールまで待つしかない選手の家族たちも、これを使って各ポイントで応援することができます。

3842m地点までも、ゴンドラで一瞬です

乗り物関連ではゴンドラの規模には度肝を抜かれました。標高1000mの町から標高3842mのAiguille du Midi(エギーユ・デュ・ミディ)まで20分ほどで行けてしまうんです。よくこんな場所に建てたなあと感心しました。他にも今回は乗ることができませんでしたが、氷の洞窟を通る登山鉄道もChamonixでは観光の目玉として有名です。

ゴンドラも登山鉄道も元は移動手段として開発されたものですが、今では乗る事自体を楽しむものとなっています。乗り物は移動手段と観光のハイブリットである。人力車の可能性を再認識する良い機会になりました。

3.山の楽しみ方は無限大
Chamonixは登山に限らず、山を楽しむアクティビティが豊富。夏はロッククライミング、マウンテンバイク、パラグライダー、ウィングスーツなど。冬はゲレンデに留まらず山岳スキーやフリースタイル、エクストリームスキーなどが盛んです。

今はリフトを使って簡単に山の上まで上がれますが、昔は滑るためには自力で登らないといけませんでした。そのハイクアップ文化がChamonixでは今も健在。在住の日本人とBBQをした時に「去年の今頃は板背負ってブーツで自転車漕いで登ったよね〜」なんて会話が聞こえました。板を背負ってブーツで自転車を漕ぐ? その発想はなかった。白馬で今度やってみよう。

初めて見るギアもあり、ワクワクが止まりません!

スキーショップの陳列を見てもゲレンデ用品よりも山スキー用品の方が多いことに衝撃を受けました。他にも初めて見るギアがたくさんあり、子供の頃にトイザらスに入った時のような感動を味わいました。

夏も冬も山をいろんな角度から山を楽しんでいるChamonix。今年はパラグライダーかロッククライミングに挑戦したいと思います。

今回の遠征で強く感じたことは…

「もっと速くなりたい!!」これに尽きます。選手としては当たり前のことですが、これにはもうひとつ理由があります。それは遠征を通じて得た経験やノウハウを共有して白馬のトレランシーンや観光に繋げるには、やっぱり知名度が必要だからです。まずは表彰台を目標に今シーズン取り組んで行きたいと思います。

白馬もヨーロッパに負けない魅力がたくさんあります。いつか海外の選手にも白馬に来てもらって一緒に山を走ったり、人力車に乗ってもらって案内したいです。

最後までお読みいただきありがとうございました。

上正原真人
プロ山岳ランナー/白馬人力車代表/Mountain Addicts代表
北アルプスがそびえる長野県白馬村で山を駆け巡ったり人力車を引いたりしています。
目標は3つ。世界一の山岳ランナーになること。白馬の魅力を人力車を通じて発信すること。山岳競技で世界で活躍する選手を育成することです。

この連載は月1回更新予定です。お楽しみに!!

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