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長女という性

私には2つ年上の姉がいる。
祖父母にとっての初孫であり、両親にとっての長女であり、兄弟や姉妹、従兄弟たちの中でも最年長のお姉さんなのである。

生まれた時から幼稚園に行くまで、地面に足をつけたことがないほどに身内中にから可愛がられ、みんなが姉の誕生を喜んだそうだ。
確かに幼少期の姉の写真を見る限り、小鳥のようで、愛らしかった。

姉は、私が生まれた時には幼いながらもとても可愛がっていたそうだ。
2歳の姉が私を抱いている写真を母から見せてもらったことがあり、衝撃を受けたのは生後間もない私のビジュアルである。
小鳥のような姉とは対照的に、姉が抱いているのは小さくしたガッツ石松ではないか。


こんなんお姉ちゃんよう可愛がってたな。
と言うと、母は、
ほんまにあんたは生まれた時からでかかってんけど、お姉ちゃんはかわいいかわいいゆうて、よう可愛がってたで。
と言っていた。


姉は小柄で、大柄とまではいかないが姉と比べると私の方が体格が大きく、お古などは着せられたこともないし(着ることができない)、姉という感覚はあまりなく、仲良く育ってきた。
頑固で奔放な私と違って、
親に心配をかけないように、できる限り希望に沿うようにと姉は真面目に生きてきた。
妹の私から見ても両親からは、長女というだけで割と過保護に、理不尽な要求をされていたように思う。

・何があるかわからないし高校は自転車で通える範囲にしなさい
・遅くなると危ないからバイトは禁止
・白い靴下を履きなさい(校則ではない)
・大学の学費は出すが指定校推薦を受けなさい
等々、白い靴下のあたりなんかは意味不明である。
中学や高校なんかは、ダサいかダサくないかが重要で、当時白い靴下を履く女子はほとんどいなかったのに。
しかし、姉はこの全てを守り(靴下は両親の姿が見えなくなるところで黒や紺に履き替えていた)、怒らせることなく、いい子でいたのだ。

そして反対に私はこの全てを無視し、喫煙や夜遊び、学業を疎かにすることで度々父を怒らせ、母を落胆させた。
怒る父から裸足で逃げる度に、姉は靴を届けようと自転車で私を探しにきてくれた。
もうちょっと抑えてさ、家出たら好きなことできるんやから。
と、波風を立てないように計らおうとするのだ。




私と姉は実家を出てすぐ2人でルームシェアをして暮らしていたが、お互いの仕事都合で引っ越したり、転々としながらもいつも近くに住んでいた。
お互いに合鍵を預け合い、お互いの家で食事をしたり、映画を見たり、困ったことや手伝って欲しいことなどは2人で解決してきた。

30代を前に、姉には長く付き合った彼氏がいた。
姉はその真面目さゆえ、横暴ともとれるような自分ルールも多く、厳しい面も多々あったが、彼は姉の全てを受け入れ、頭の良くない人だったが、情があり、明るく、良い人だった。
私もその彼が大好きで、彼と姉は結婚するものだと思っていた。

近しい姉妹なので、歴代の彼氏のことも知っていたし、お互いに恋愛絡みの相談事をすることも多かった。
そして姉が彼と同棲するようになってからは、2人でしていたことを3人でするようなり、彼も違和感なく私たちの間に溶け込んでいた。


そんな彼と姉が別れた日、
姉はいつものように、うちに来て食事をしていた。
そして彼と別れたことを私に話したのだ。

別れてん。だから彼が荷物まとめて家出るまでの間、1週間くらいやけど泊まっていい?
と姉から言われたので、
そんなん全然いいけど、どうにもならんの?もう無理なん?
と私は尋ねた。


彼は大麻をやっていた時期があり、そんなことを姉が許すはずはなく、付き合うときにはやめることを約束していたそうだ。
しかし隠れてやっては、姉に気づかれるいうことが何度かあり、これはその何度目かだったそうだ。
姉は、例え仕事が続かなくても、お金にだらしなくても、女癖が悪くても、暴力を振るう人でも、好きなら諦められないと言った。
しかし法を守れない人、どれだけ頼んでもそれを破ってしまう人とは付き合えないと言った。

姉は、
私にはあんたがいてる。
ママもパパもおじいちゃんもおばあちゃんも他の弟妹たちもいてる。
長女の私が、みんなを悲しませるようなことは絶対したらあかんと思った。
こんなことを持ち込みたくないねん。
その原因が彼ならそれは断つべきやろ。
私が絶対にやめてって言ったことを守ってくれへん人と付き合い続けるって、私だけじゃなくてみんなのこと傷つけると思うし。
と泣きながら私に言った。

そして、
私めっちゃお金稼げんでもいいし、いい結婚できんでもいいねん。
ただ、家族が困ったときに、ちょっと助けてあげることができたらいいなと思ってんねん。
そう思ってるのに、違法なことする人と付き合うってあかんよな。
これさえなかったらって思うけど、あるんやからもうあかんよな。
と言った。


抗えない長女の性があった。
どんな時でも家族のことを考え、一生をかけて家族を大切にする責任感が備わっている。
何度か彼を許した時も、姉が悪いわけではないのに私たちに対してやましさ感じたのではないか。
これさえなかったらという姉の言葉に、彼に対する深い情も感じた。
黙ってもう一度許すこともできたのに、自分は長女だからと奮い立たせたのだろうと思った。

私は出会った長女たちからいつも強い責任感を感じる。
もしかして長女?と聞くと大抵そうなのである。
いつも姉から感じているそれと似ている。
性格と言ってしまえばそれまでなのだろうけれど、やっぱり長女は圧倒的に長女なのだ。




お姉ちゃんがいるから、私は自由に生きられる。


例え私が姉のように生きようとも、
姉が頑固で、偏屈で、奔放で、どうしようもない私のように生きることはないだろう。


彼女は、生まれた時から死ぬまで長女なのだから。

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