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小さい私

最近、Twitterで表現している「チビ蒼」は私の中のもう一人の私。小さい時から心の中にいた。年齢は6歳。何故6歳か?私がもう一人の自分の存在を認識し始めたのが小学校一年の夏休みだったから。もう一人の自分が見た光景は今でも鮮明だ。ただ、記憶は時折ゆがむし、作られると言われる。それでも、あの日のことは、私一人だけの出来事ではないし、何度も養母にも言われていたし、ほぼ間違ってないと思うし、この日を境に私の性格も変わった。

実家は当時、喫茶店を営んでいた。雇われマスターの父親と、母親がママさんとして、地元では流行っていたと思う。夜はスナックに替わり、当時はまだ珍しい8トラを使ったのカラオケもやっていた。一番幼いころの記憶は歩いて数分の保育園に通っていたこと、自宅はお店から数分の所に平屋の借家があり、庭もついていて、チロという白い犬とレオという猫を飼っていたこと。

喫茶店の娘で天真爛漫で人見知りのない私は正真正銘の看板娘で、お店の常連さんにも可愛がられており、お年玉も破格なくらいもらった。近所でもおてんば娘、男の子を引き連れ駆け回っている、活発な女の子。なんの悩みもない幸せな少女でしかなかった。

小学校の初めての夏休みはお店で働くアルバイトさんの娘と自宅でお留守番。同い年だったのですぐに打ち解け、なかよしになった。お昼ご飯はお店の賄いを自分たちで取りに行って、自宅で食べる。勉強も宿題も二人だから楽しかった。ある日、いつものように、お昼ご飯のお弁当箱を持って自宅へ歩いていたが、私が躓いて、お弁当箱をひっくり返してしまった。泣きながらお店に戻ると母親が怒った。

    当時私はなぜかいつも叱られる。2つ下の妹が何かやらかすと、私が叱られる。でも、妹が可愛かった私は苦にしたことはなかった。この日までは。

自宅に引きずられるように連れてこられて、何度も叩かれた。そして母親から衝撃の一言が。。

「私はあんたの実の母親じゃないんだからな!あんたは拾って面倒みてやってるんだから、ちゃんとしな!私に迷惑をかけるんじゃない!」

お弁当箱をひっくり返しただけで、なんでこんなことを言われるの?お母さんがお母さんじゃないって?なんで?私は誰の子どもなの?そんな疑問すら口に出せないくらい殴られた。

何回も叩かれながら、叫ぶような母親の言葉を聞いた。いや実際は養母の言葉。仲良しの女の子がおびえるように見つめる光景、想像だにしなかった告白に叩かれている痛みも感じない私。6歳の女の子が受け止めるにはあまりにも度が過ぎる事実だった。その時私の中にもう一人の私がいた。その子は泣きながら私を見ていた。

気が付くと、腫れあがった顔面に冷やしたタオルを乗せて寝ている私。横では妹が何も知らずにテレビを見て笑っている。その光景をなぜか鮮明に覚えている。

誰にも言えない。ショックなのに泣けない。誰にも知られてはいけない。ただそれしか思わなかった。その日から養母に対して遠慮の日々が始まった。活発だった私は親の為に勉強する子に、遊ぶこともやめてお店の手伝いや妹の世話をした。叱られないように、親の言うことをよく聞く素直でいい子になった。養母の望む素直な娘を彼女が亡くなるまで演じきった。

実はあの時のこと、時々養母が蒸し返した。殴られた本当の理由は他にあった。私は腹いせに当たり散らされただけ。本人が言ったのだから間違いない。それを聞いた私は言葉もなく、なすすべもなく苦しかっただけだった。

私は絵を描くことが好きだった。それにミニカーが好きでミカン箱一杯のスーパーカーを集めていた。プラモデルを作ることも好きで、貯めたお小遣いで買ったがその時それも捨てられた。

失くしたものがあまりにも多すぎてただ自分を守るために、生き抜くためにチビ蒼を生み出してしまった私。でも、そのおかげでいつも冷静になれていた。チビ蒼に救われていた私。どんな時も正気をなくさずに、こうしていまに至る。

私の小さな夢が今になって少しずつ形になっている。チビ蒼がやってみたかったこと。小さな私の手を大人になった私が握っている。ショートカットの小さい私が笑ってる。大好きだったミニカーが今は好きな車が相棒になった。プラモデルに代わってハーバリウム作りに夢中になっている。自分のための時間ができて、自分の気持ちに素直になれる今、もう誰にも遠慮はいらないの。私は小さな私を抱きしめる。あの日から甘えることを辞めた。誰かに抱きしめて欲しかった。でも誰も抱きしめてはくれなかった。抱きしめてほしいと言えなかった。誰も信じられなくなったのだから。

でもね、今はもう抱きしめてなんて言わなくても、私は満たされている。私を傷つけることができる者などいない。自分の心を守る術も知っている。私が心から信頼する人がいる。困難がないわけじゃないけど、今なら自分で切り開いていける。自信もある。だからもう大丈夫なの。

ね、チビ蒼。愛しい私。良くがんばって生きたね。もう大丈夫。もう大丈夫だよ。これから楽しいこといっぱいしようね。


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