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娘との旅行にて

先日、娘の誘いで熱海に旅行に行くことに。正確には伊東だが、当初の予定では熱海だった。

夏休みも終わったころだったかな。突然、

「お母さん、熱海に一回連れていきたいから、休みとれない?」

なんて言ってきた。休みはとれると思うけど、急にどうした?って聞くと、会社の保養所が安く泊まれて、とてもいいところだから、一度連れていきたいという。

「それに誕生日何にもしてないし」

いやいや、そんなん別に構わへんよ。それより自分に使えばええよ。そんなにゆとりないやん。というが、いや、大丈夫だから行こうというので、日程だけ決めて、後は任せた。

ちょっとくすぐったい気持ち。嬉しいのだけど、気恥ずかしい感じ。今までお世話するのが当たり前で、まだまだ面倒みなきゃいけないと思っていたのにね。それに娘と二人での旅行なんて初めてだし、今更話すことなんてあるんかな?いろいろ考える。

ちょうど台風が接近してバタバタしていた時に娘からLINEが。

「保養所とれなくてさ、他のホテルでもよい?」

いやいや、それじゃ高くなるし、もったいないから今回はやめよう。と言うと、私が勝手に決めるから、行こうという。じゃ、任せるよ。と決めたホテルが伊東だった。

「温泉二つもあるしバイキングだけど二食付きだから。ゆっくり温泉入ってのんびりしようね。」

今までは私が主導権を握って、子どもたちのお伺いをたてながらいろいろ決めてきたのに、完全に娘に決められて、なんとも自分が頼りない。

「あ、母さんは熱海まで車で来てよ。それだけはお願いね。」

はいはい、車で行くのなんかお茶の子さいさいですわ。私自身、電車やバスは苦手な質なので、その方が助かる。

「じゃ、母さん、体調壊さないようにしててよ。」

と言うと、さっさと会話はオフ。そっけない…。それでも、やはりうれしいよね。でも自分がひどく年を取ってしまった感じ…。うーん…。

なんて言っているうちに旅行が近づくと、職場でいろいろあって、シフトが二転三転。最終的に直前まで通しで8連勤になり、食欲不振なくらい、くたくただった。台風20号の上陸での被害も心配されたが、大丈夫だったようだ。前日に

「母さん、明日は11時くらいに熱海駅ね。」

はぁいと返事をして、早めに就寝。翌朝は何とか回復。やっぱウキウキは否めないし。東名高速の渋滞をやり過ごし時間どおり娘と合流。

下調べしたらホテルまでの道すがらにある、ローズガーデンに行ってみたくて、娘にナビゲーターを頼んで向かった。話すことなんてあるかな?なんてのは全くの杞憂、離れて暮らすだけ互いの近況報告だけでも次から次へと、終わらないもんだ。弟たちの近況、私の仕事の話、娘の仕事の話…。そして時々昔話。間に未来…。

ローズガーデンでは風がそこそこ強い中、庭園を二人で歩いた。途中、階段を踏み外しかけた私を笑うことなく、私が先を歩こうか?と言われ、年寄扱いは嫌やなあと笑うと、

「旅行に誘って怪我させて帰したら、皆に恨まれるよ~。お店の人にも、あいつら(弟)にも~。」

夏前に娘のとこに泊まって話をしたときは、あまり未来に希望などなく、転職を視野に入れて、就活してると言っていた。

新卒で入った企業があまりにもひどいブラック企業で、三か月で泣きながら辞めたいと言ってきたので、いろんな手段を使って辞めさせた。その後派遣登録して次の職場へ変わったものの、一流企業に派遣されたのに、またしてもパワハラで鬱状態になり、アパートでは暮らせず、急遽私のところに呼び戻し、ギリギリの状態で今の会社に転職した。初めての県外での一人暮らしに、私はとても心配したのだが、娘の気持ちが前向きだったこともあり、家を出した。電車一本で、東京に出られる環境は思っていたより、彼女には楽しかったようで、寝ているだけだった休みには、渋谷で洋服買ったよ、月島でもんじゃ食べたよ、なんて話が聞けて安堵していた。仲の良い友だちがいてくれたことに、本当に救われた、娘も私も。

夏休みが終わったころ、娘から今の派遣先の会社から、契約社員にならないか?とオファーもらったんだけど、どう思う?とメールが来た。条件と娘の気持ちを聞くと、悪くない。2,3年くらいで正社員登用もあるっていうから、受けようと思う、と。自分で決断するなら私は何にも言わないよー。私も悪くない条件だと思うし。今の仕事はどうなの?と聞くと、やりがいはあるよ!周りの人も先輩も優しいし。私、ちゃんと生活できてるもん。あ、でもね、ちょっとうざいおじいちゃん上司がいるけど、先輩も、母さんと同じくらいのおばちゃんもいろいろ教えてくれるし、いろいろ任されるとうれしい。それにさ、あんなに勉強した英語も使えて、県外で一人暮らしして、なんだかんだあったけど、やりたい仕事してるんだよねーっと笑っていた。

胸がいっぱいになって、もう言葉がでなかった。

あちこちで咲くバラたちを見ながら、ゆっくり歩いた。あっという間の1時間だった。たまにはいいね。また来ようか?というと、今度はまた鎌倉行こうよ、今度は電車で行こうよ。 そか、こんな私と歩いてくれるんや…。

風が’冷たくなってきた。車に戻って走り始めると台風の影響で雨が降り始めた。そろそろホテル行こう!ゆっくり温泉入ろう!というので、寄り道はやめてホテルに着いた。チェックイン済まして部屋に入るころには外は横殴りの雨になっていた。

温泉につかりながら、母さんやせたね、でもあんまり太ると介護が大変だから、健康ならそのままでいてよ。何て言うものだから、介護なんてしてもらおうと思っとらんわ。というと、そういうわけにはいかんわ。これでも一応考えとるんよ。ばあばの時、苦労しとるやろ。あんな風にならんようにしないとね。

そうか、養母の介護ではいろんなことがあったけど、自分に置き換えて考えているんだ…。私の世話なんてしなくていいからね。それより自分の幸せを見つけてよ。

私にはそれしか言えない。それしか望んでいない。笑って生きていて。好きなことして、友だちと笑ってて。そしてできるなら、好きな人ができたらいいな、人生ともに歩んでいける人と巡り合えたらいいな。少し、酔った私が言うと、あー、できたらねーと。

それからは何を話したかな?ロゼスパークリングがまわってきて、記憶がなかった。

ようやく、娘と対等な立場で話ができるようになった。きっと私を安心させたかったのだろうね。仕事も生活も、独り立ちしたよと言いたかったのだろう。チェックアウトは知らないうちに彼女が支払いを済ませていた。

ありがとうというと、車にバッグを載せながら、帰ったらお米と食料送ってね!だって。(笑)

駅で娘を降ろすと、「帰るまでが旅行だからね!」と振り向かずに駅まで歩いて行った。

寂しさを上回る安心感しかなかった。時代が代わった日、私と娘のこれからも変わった気がした。


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