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思い出はどんどん身体を重くしていくからときどきそれを脱ぎ捨てたくなる。だからもっと遅く好きになりたかった、それがかなわぬなら毎日記憶を消して新しく好きになりたい、などと思ってみる傲慢な自分。
自分が、どれだけ彼のことを好きかというアピールはもはやそこらじゅうに溢れている。言葉は虚で、レトリックだけがどんどん画面の上を滑っていく。それらを眺めていると、すべての表現が陳腐に思えてきてなにも言うべきことなどないような気がしてくる。いつのまにこんなくだらないつまらない人間になったのだろう。
身勝手なわたしはあなたとわたしにだけ通じる新しい言語があればいいのにと思う。それが言葉にしてしまえば同じようなものになるとしても、身体を貫く言葉にできないあの感覚を、ほかのひとの言葉に飲み込まれたくない、回収されたくない。

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