コロナ閉店「退去費用・違約金」のリアルな中身


新型コロナウイルス感染症の影響により、多くの飲食店が閉業に。今回は賃貸契約解約の申し入れについてお送りします(写真:ユウスケ/PIXTA)

新型コロナウイルス感染症の影響により、多くの飲食店が閉業に追い込まれています。
青森県で飲食店を5店舗営んでいたものの、それらを全店舗閉店して会社を清算し再出発を選んだ経営者の福井寿和氏が、『全店舗閉店して会社を清算することにしました。』を出版しました。決断の背景や倒産の具体的な方法、これからの人生の展望についてつづられています。本稿では同書から一部を抜粋しお届けします。

商業施設への解約申し入れ
会社を清算すると決断してから真っ先に取り掛かったことは、賃貸契約をしている大家さんと商業施設への退店申し込みでした。大半が契約解除の申し入れから3~6カ月後の解約となるため、出費を抑えるためにも、1日も早く申し入れをする必要がありました。また、飲食店は退店するときにも大きな費用がかかるため、実際にどれだけの費用が必要になるかの確認も早めにしたかったのです。

飲食店の退店費用は大きく2つあります。1つは、契約期間に対する違約金です。 路面店に出店する場合は、一般的に3~6カ月前の告知で解約することができます。しかし、商業施設内に出店する場合、あらかじめ定めた契約期間を満了せずに解約すると、その経過年数により違約金が発生するような内容になっています。今回は、7年契約のうち2年しか経過していない店舗もあったために、違約金が数百万円になることがわかっていました。

2つ目は、原状回復費用です。内装をそのまま引き継ぐ形の居抜き物件を契約していない限りは、店舗の内装設備がまったくないスケルトンに戻してから明け渡さなければなりません。私が経営していた店舗の面積をすべて合わせれば、100坪以上あります。そのため、すべてスケルトンに戻すとしたら、数百万円かかってしまう可能性がありました。

5店舗のうち2店舗は路面店、3店舗は商業施設内にありました。路面店は、解約申し入れから3カ月後に解約になる契約になっていたため、費用は最大でも家賃3カ月×2店舗分、原状回復にかかる費用は100万円程度の見込みでした。路面店については、解約申し入れは、仲介してくれた不動産屋2社に連絡しました。2社とも私の状況を考慮してくださり、大家さんと最大限調整してくれました。結果、いずれも契約時に最初に払い込んだ敷金を相殺する形で追加費用は不要にしてくれたのです。

ただ、2店舗とも大家さんからは「できれば契約を続けてほしい。しばらく家賃はいらないから続けてもらえないか?」と打診がありました。正直、この話を聞いたときは心が苦しくなりました。このタイミングで退去したら、このご時世では、次に入居してくれる人はなかなか見つかりません。最大限の迷惑をかけないために会社を清算する選択だったのですが、大家さんには申し訳ない気持ちを伝えることしかできませんでした。

路面店の1店舗は、同じ建物に大家さんが住む「住宅+店舗」の物件でした。 お店をオープンしたとき、大家さんのおばあちゃんとはよく会話をしていました。従業員に店舗を任せてからも、従業員がおばあちゃんとコミュニケーションを取ってくれたおかげで、解約の申し入れをしたときには「今まで楽しく話をしてくれてありがとう」と感謝の言葉をもらいました。

「お店のにぎわいが好きだったから、なくなるのは寂しいね」。最後にそう言われたときは、本当に胸が詰まりました。おばあちゃんは店舗前の掃除や共用部分の手入れを毎日欠かさずやっていました。それだけ、お店を大事に思ってくれたのだと思います。高齢のおばあちゃんだっただけに、生きがいを奪ってしまったような複雑な気持ちを今でも思い出します。

取引先には誠実に向き合うことが大切
問題は商業施設の解約でした。3店舗のうち1店舗は、契約期間の関係で違約金が発生しませんでしたが、残りの2店舗は契約期間がまだまだ残っていました。このまま解約を申し入れた場合、違約金だけで2店舗合わせて600万円程度、さらに原状回復費用も含めれば、総額900万~1000万円ほどの費用がかかる見込みでした。このまま全額負担すれば、最終的にほとんどお金が残らないまま会社を解散することになります。

私は、素直に全額負担することは厳しいこと、解約の方法について調整ができないか、営業の担当者に申し入れをしました。すると、その担当者は私の主張を理解してくださっただけでなく、「これからもっと大変になるだろうから、最大限できることをやりますよ」とさえ言ってくれたのです。どちらの営業担当者も会社に対して交渉してくださり、結果として、違約金は敷金での相殺、看板取り外しや撤去費用の実費負担のみ、原状回復は不要で解約の合意をしてくれました。心が震えるとはまさにこのことです。

今までビジネスパートナーだったとはいえ、これから退去する人に対して、最大限の対応をしてくださったのです。さくら野百貨店もBRANCH仙台を運営する大和リースも、新型コロナウイルスの影響をかなり受けていました。私が逆の立場だったら同じことができるかどうか。自分が厳しい状況であれば、退去する人に対して、回収できるものは回収しようとするのではないかと思います。



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