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エロやエロ書きをいちいち踏み台にすな〜〜!っていう話

 先日、「やっぱり同人ではエロよりストーリーを求めてる人のがマイナーなのかな🥺」という旨のマシュマロへの回答ツイートがバズっていた。それについて、「中身のないエロも好きだけど、錬られているストーリー重視のものだって好き」みたいな感じでストーリー重視の作品に対する愛を綴ったpostや「重厚なストーリーものを書きたいけど中身のないエロのが伸びるんだよね……」という哀しみのpostが散見されるようになった。
(予め書いておくけど、マシュマロに回答された御本人への言及ではない)

 正直、「いつものか……」という感想しかない。女性向け二次創作小説書き界隈は往々にして自己肯定感がクソほど低い傾向にあるので、定期的にこうやって仮想敵を設けて「(仮想敵)ばっかり評価される……こっちは需要ないのかな……ぴえん🥺」という発信をしがちである。

 ツイッターをやってると一度は「イベントで立ち読みした人に『漫画かと思ったら小説だったからいらないや』って戻された」みたいな内容の嘆きのツイートがバズってるのを見たことがあるだろう。それと同じことが今回はエロを書く/読む人を仮想敵にして行われている。

 今回みたいにエロを書いたり読んだりする人が仮想敵になったパターンの何が酷いかって、上記の例のように実際に何かをした/されたとかではなく、普通に萌えを発散しているだけなのにいつの間にかとんでもない加害者みたいに扱われているところである。そしてストーリー重視の話やそれを書く人を持ち上げるために、生み出してきたエロ作品が「中身がない、脳直、承認欲求を手軽に満たすためのもの」みたいな軽んじられ方をされる。好きに作品を出していただけでこの仕打ちはあんまりじゃあなかろうかと思う。

 なので、この機会に、一介のエロ書きとして今回感じたこと・言いたいことをまとめておきたい。

・自分のモチベーションは自分で上げろ

 自分の機嫌は自分で取れ、という言葉がある。既に知っている人の方が多いと思うが、これは「不機嫌だからといって他者に機嫌をとってもらおうとしない」「不機嫌を理由に他者を攻撃してはいけない」というような意味合いがある。

 これと同じように、創作へのモチベーションが下がってきたり弱気になってきたときも、どうか他人や他人の作品、嗜好を踏み台にするのは止めてくれないかと思う。

 モチベーションが下がったり弱気になる瞬間は誰にでも等しく訪れる。私ももちろんそういう経験はあるので、そのようなときに励ましてもらったり嬉しい感想をいただくのがとてもありがたいのは本当によくわかる。しかし、その際、励ます人に別の何かを殴らせる必要はあるか?と問いたい。

 ざっくりとした例文を出すと、「あなたの書く作品は質がいいよ」と「あなたの書く作品は○○(任意の属性名)と違って質がいいよ」とでは受ける印象がかなり違ってくるというのがわかるだろう。しかし今回の場合、励ましてほしい側が最初に「エロやエロを書く/読む人」という仮想敵との対立構造を設けていて、励ます側は大抵後者のような形のpostをするよう誘導されていたのである。

 このやり口、他者の口から褒め言葉だけではなく仮想敵を下げるような文言も得られるんだから、そりゃあかけてもらった側は気持ちがいいだろうなと思う。だがこのときに仮想敵にされた側からしたらたまったものではない。励ます側の人も100%の善意で言ってるんだろうけど、だからこそエロ書きとしてはモヤつきのやり場がなくて困っている。

 改めて書くが、どうしようもなくモチベーションが減退してしまう時期というのは誰にでも存在する。しかし、他者を仮想敵にせずともモチベーションを回復できるやり方は絶対にあるはずだ。例えば過去に貰った感想を片っ端から読み返したり、新たに感想を募ってみたり、自分の作品を自分で読み返して自分で褒めてみたり、モチベーションが戻るまであえて別の物事を楽しんだりと、色々とやりようはある。とにかくどうにか代わりの方法を見つけていただいて、モチベーション回復のためにエロ書きを殴るのは止めてほしい。

・エロ書きはエロ書きなりに苦心している

 そもそも「なんで重厚なストーリーの作品よりエロの方が評価されるんだ」という感情が出てくるのは、「エロはろくな苦労や努力もせず安易に書けるのに評価されていてズルい」という気持ちが根っこにあるからだと思う。

 私はエロをメインに書いているが、確かに重厚なストーリーを錬って書くタイプの人よりは苦労も努力もせず作品を生み出しているとは思う。だが、それは「創作のための苦労、努力の類をまったくしていない」という意味では決してない。エロ書きはエロ書きなりに苦労したり努力を重ねて作品を生み出しているのだ。

 個人的に思うエロ書きの最大の苦労ポイントは「読んでいる人の没入感を損ねないこと」である。没入感は割と些細なことで消えがちなうえ、エロがメインの作品だと再度没入させるだけの尺がなくそのまま進行することがほとんどだと思う。

 そして没入感を損ねないための個人的苦労ポイントを細かく分けると、
①セクシャルでありつつ、前後に矛盾がない描写
②展開の緩急の付け方
③キャラやカップリングの関係性の解釈とセクシャルさのすり合わせ
になる。

 ①については「前後に矛盾がない」というのが特に重要で、例えば既に全裸になっている受けがいるとして、そこへ「攻めが受けの下着を脱がせた」という描写を入れると、「全裸じゃなかったの?」「下着2枚はいてたの?」といった感じで読む側を混乱させてしまう。なので、攻めと受けがどういう状態であるのかを常に把握しながらエロい描写を重ねていくのだけど、これがまあ体力を使う。

 次に②について。どんなにセクシャルな描写を重ねても、一本調子だと読む側がダレてきてしまう。なので前戯などで快楽を感じているのを強調したい場面は描写の情報量を増やして、フィニッシュに向かうところは情報量を少なくしたり一文を短くしてサクサクと読めるようにしている。要はテンポだったりリズムだったりの話である。これを調節するためには、いちいち読み返しながら書き進める必要があり、これもまあ大変である。

 ③については、「いやエロにキャラとかカップリングの解釈とか要らなくない?」と思っている人もいるかもしれないが、むしろエロにこそそういった解釈が問われるものだと個人的には考えている。

 そもそもなぜ二次創作でエロが受けるのかというと、バズっていたマシュマロ回答にあった「わかりやすさ」ももちろんあるけれど、それに加えて「エロは濃密なコミュニケーションだから」というのもあると思う。このコミュニケーションを描くにおいては、当然攻めと受けの関係性の解釈が大いに問われることになる。

 例えばキスひとつとっても、攻めと受けのどちらからするのか・そのもきに穏やかにキスをするのか大胆に唇を奪うのか・唇をついばむような軽いキスなのか唇を喰む濃厚なキスなのか・した後の互いのリアクションはどうなるのか等、解釈ポイントがいくつもある。これはその度に考えていくときりがないので、攻めや受けの解釈を己の中で固めて勝手に動いてもらうほうが圧倒的にやりやすい。(ただやはり解釈を固めるまでが大変)(もちろん解釈をかなぐり捨てて性癖に全振りするのも一つの手としてはある)

 長々書いたけど、要はエロを生み出すときもそれなりの苦労があるということだけ知ってほしい。重厚なストーリーを生むときの苦労には遠く及ばないかもしれないが、それでも「エロは何の苦労もせす生み出せて評価される」っていうのは全くの勘違いであると主張したい。

・アマチュアの創作は閲覧されない方が普通だと考えたほうがいい

 そもそも、自分の書いた作品や好きな作品が思ったより評価されていないことに落ち込むのは、「良い作品は当然みんな閲覧して高評価しているはず」という思い込みがどこかにあるからだと個人的には思う。

 そもそも、娯楽がぽこじゃか溢れているこのご時世で、アマチュアの創作物を楽しむ層はだいぶ奇特な層であると個人的には思う。インターネットはその奇特な層で吹き溜まっているため、あまりピンと来ないかもしれないが。今はもう毎日のように無料で配信されている漫画やアニメがあったり、動画だって面白いものが毎日個人や企業からアップされていたり、スマホゲームでも何かしらのイベントが常に開催されていたりする。映像配信系のサブスクに金を出せば、浴びられるコンテンツの量が更に増えていく。こうやって書き出してみると、今はまさにコンテンツ大飽和時代の只中であることがわかるだろう。

 そんな中で、アマチュア創作者が自分の作品を見てもらうには、途方も無い数のコンテンツ群を相手取って読者の可処分時間を勝ち取る必要がある。このときに「自分の作品は見てもらえて当然だし評価されて当然」という気持ちでやっているとかなりつらいことになると思われる。

 なので、個人的な考えなんだけど、「アマチュア創作者の作品は読まれないのが普通」というマインドセットに切り替えるのを勧めたい。これは別に卑屈になれと言っているわけではなく、「読まれないのが普通」というのを起点にすれば、いつも読んでくれている人への感謝だったり、「ではどうすれば読んでもらえるのか?」という建設的な思考に繋がりやすいからだ。

 これも個人的な考えなんだけど、可処分時間を勝ち取るにおいて、アマチュアの創作には「掲載されている限りいつでも無料で閲覧できるという圧倒的な敷居の低さ」と「作品自体が交流ツールも兼ねている」というものすごい強みがあると思う。例えば「○○さんがブクマしてたから私も読んでみよう」とか「このRTされてきた作品良さそうだな」とか、そういった手軽な感じで消費できるのは本当に強い。

 そう考えると、一作品あたりの文字数がすごいことになりがちなストーリー重視派の作品は、変に敷居が高くなってしまっているという点でかなりハンデ負ってるな……と思う。それでもストーリー重視の作品が読みたい人は絶対にいるし、上げた敷居を下げるのは難しいだろうけど、頑張って上手くマッチングできるようになってほしい。

・最後に

 思いの丈を綴っていたらえらい長くなってしまった。でもやっぱり今回みたいな「エロもいいけどやっぱり重厚なストーリーだよね!」みたいな感じで、エロ作品やエロ書きをうっすらと下げるような流れは正直結構心に来るし、エロ書きなりにしている努力を「エロは手に取りやすいジャンルだもんね」で無かったことにされるのはめちゃくちゃ悔しい。

 この文章は別に皆に読んでもらわなくてもいいけど、私と同じように、エロ書きとしての自分や自分の書いた作品がうっすら下に見られて悔しい思いをしてる人に届いてほしい。そしてこの文章で共感したりモヤモヤを吹き飛ばしてくれたら嬉しい。

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