不可解に関する所感

 不可解が終わって2週間。あそこで行われたライブは言語化することが非常に難しく感じ、これまで何も書けずにいました。私はあの日、現地で楽しむ事ができましたが、まるで嵐にあった人のようにそれを正確に言葉にすることは難しいと感じていました。ついでに言えばもうすでに素晴らしいレポートが多々あげられていますので、あえて私の乱文乱筆にて紹介するのもいかがなものかと思いもしました。
 しかし不可解というイベントは多角的な成功を収めたイベントであると私は強くおもいます。であるならば、私はあえて多角的にかのイベントを考えてみたい、そう思い本稿の起案を始めた次第です。

 今回のライブでは透過スクリーンを利用した美麗な演出が特に印象に残ったと思います。その演出に関して言うならばヴァーチャルなリアルを再現するのではなく、リアルにヴァーチャルを顕現させるような使い方、と言えるのではないでしょうか。
 そのクオリティについては最早様々な方が緻密で繊細で詳細な感想を述べているのであえて私はここで述べる事はしません。
 ただ映像としてのクオリティが上がれば上がるほど、演出が複雑になればなるほど現地で完璧に視聴するのは非常に難しいものになる気がします。特に今回のように舞台全体をスクリーンとして余すことなく演出に使った場合、よほどいいポジションでも演出を100%視聴するのは無理でしょう。
 その結果としてライブビューイングやyoutubeでの視聴の価値が上がったのは間違いありません。
 相対的に、ではないところがポイントですね。それでも現地では花譜さんの生歌、生バンド、ライブ感を楽しめましたし。
 特に今回はカメラベタ置きではなくカメラワークのあるライブビューイングだったそうで。運営も会場以外での視聴にも重きをおいているのがわかります。
 今回のライブはそうした側面が強いように感じます。それは半分以上が新曲だったりするところからも伺える気がします。
 終わってみれば「不可解」というイベントはライブというよりはデモンストレーション的な側面が強いイベントであるように思えます。
 ちなみにこの日は登録者数が5000人程伸びていますが単純に登録者を伸ばすのが目的というよりは、これから同種のイベントを行う際のデモンストレーションという印象ですね。ライブビューイングとライブは総合的に見れば同じ位の価値はある、というメッセージを感じなくもないです。もしこれが会場に行けた人間の驕りと思うなら考えてみてほしいです。ライブ会場であなたから30cmのとこに身長2m位の大男がいた場合を。

 そういえば私はそれなりに色々なVTのライブに足を運び、その空気感を体感してきました。概ねですが、アニメ・声優系とアイドル・アニメ系の中間位のノリという感じのイベントが多かったですね。
 ところが今回の不可解においては均一な空気感がありませんでした。なんというかマダラな感じでしたね。私の感覚では最前列近くというのは組織化されており、彼らのノリが全体に波及するような塩梅になるのがたいていのライブだと思います。
 不可解においては、最前列付近においてもノリたい派と聞きたい派がマダラでありました。なんなら聞きたい派が多かったと思います。ライブイベント初回でありほとんどが新曲であった、というのもあるのでしょうが中々興味深い現象であったと思います。
 その事実は彼女のファン層が均一ではなく、組織化されたファン活動もあまりないのでは? と開場前の状況と合わせて思います。
 ライブビューイングの会場でもそうした現象は見られていたようです。バルト9でVTのイベントなのにスタンディングではないのは初めて見た、というツイッターでの報告をみました。
 こうした現象はなぜ起こったのか。実は心当たりがあります。
 7月27日あたりで気がついたのですが、運営はライブに合わせてYou Tube上で広告を展開を始めていました。元々、花譜さんの登録者は広告で伸ばしていく戦略をとっていました。これは彼女の活動の形態上、それ以外の手段を取ることが難しい事にも起因します。

 自身のツイッターにも書いたのですが、その結果としてVT界隈を飛び越えた所から登録者を得られた、と感じています。高々100人位をツイッターで調査した結果なので有意であるかわかりませんが。とりあえず、花譜さんのファン層は通常のVTとはあまり被っていないんではないかと27日の時点では思っていました。
 他との接触を持たない彼女の活動の帰結として、あの会場の空気感が生み出されたのではないでしょうか。
 会場で私が見て感じたのは個別のファン達が一つの会場に集っている姿でした。またこれは完全な私見なのですが、恐らくこれが初めてのライブという人も多かったのではないでしょうか。そしてライブビューイングという参加が容易な場所においてはもっと沢山のそうした人達がいたと思います。だから、いつものあたりまえの空気が形成されなかった、と見ています。
 もしそうだとするならば、そこから見えるのは、彼女が一つのブレイクスルーをした事です。既存VTファン層のみならずVTファンではない層を彼女はライブにまで引っ張り出したのではないでしょうか。
 今現在、VTのライブシーンというのは流れが収束しつつあるように感じています。行く人はもう行っているという感じですかね。
 そうした中で彼女の活動がもたらすブレイクスルーの効果は大きいように思えます。
 彼女は横の繋がりを実質的に持ちません。他のVTも彼女に関しては観測者であるしかありません。だから、まったくVTを知らない観測者も彼女のイベントに関しては行きやすいのではないでしょうか。VTから少し距離のある花譜さんだからこそむしろ行きやすい、そんな事もあるかもしれません。
 ところで私はSNSとかの繋がりをまったく持たないので、イベントに行くと大抵プカプカ浮いてるのを感じるんですけど、今回のイベントはなんか凄く居心地が良かったですね。

 そもそも今回のイベントは総合的な視聴者はどれくらいだったのでしょうか。有償無償あわせれば2万以上3万以下なんではないでしょうか。
 同じくらいの規模のイベントで検索すると幕張メッセで行われた米津玄師のライブがひっかかりますね。ものすごい規模ですよ。
 私の前のnoteにも書いている事なので重複することではあるのですが、折角なのでまた書かせてもらいます。
 この規模のライブは年に何度もありますが、それほど頻繁ではありません。それが出来るリアルアーティストは長年の活動や大手広告代理店、テレビ等のメディアを利用してやっとその規模での開催を可能にしています。
 しかし、今回推定2万以上3万以下が視聴した不可解というイベントは従来の方式を大きく覆すような手法によって開催されています。
 例えば準備資金はクラウドファンディングで調達しています。元手がなければ開催することすら出来ないライブの資金を謂わば前借りする形で調達できました。そしてその金額こそ花譜さんへの期待だったのでしょうね。
 彼女の活動はメディアの力を利用することなく1年以内で10万人以上に認知されました。それこそ現代なら珍しくはない話ではありますが、彼女の活動形態からすれば驚異的といえませんかね。なにせ彼女は歌をただ歌っていただけですから。
 それでもまだVTやネットを多用しない人には彼女の存在は解釋していないでしょう。そうした層にはまだメディアを使わない限り開拓できない所なんでしょうね。
 そしてその観客の数は従来ならドームやメッセを使うような規模です。これはただライブをするだけでは収まらない規模ですね。開催に付帯する警備上の義務やらなんやら色々ついてきますから、小規模な会社での単独開催は無理があります。
 だから、ライブビューイングやyoutubeでの視聴を計画したのではないでしょうか。
 ライブビューイングの本来の使い方は大型ライブの漏れを逃さないという使い方がメインみたいですね。しかし、今回は反対の使い方をしているように見えます。小さい会社が本来は不可能な規模の集客を可能にするために使っているように見えますね。これは中々興味深い手法ではないでしょうか。ジャイアントキリングって言葉が頭をよぎりますね。それにしても開催規模を考えるとかなりの賭けでしょう。そういった所からも不可解がただのライブではない、という事が伺える気がします。
 全般を通してみれば活動一年未満の15歳の女の子と小規模な会社が2万人以上の集客を可能にした、という奇跡的なイベントでした。
 そしてその奇跡的な出来事は「ただ良いものを作る」。それだけで達成できたのです。これはすべてのクリエイターにとって祝福のような出来事なのではないでしょうか。ただクリエイティブな事をして相応の反応を得る。それがどれだけ難しいことか。
 それをなし得たのはVTの持つ何かである、と私は信じたいですね。そして花譜さんのプロデュースから一貫したこれらの流れは結果としてそうなったのか、それともこうなる見込みでこうなったのか。是非ともカンザキさんに伺ってみたいものです。

 今回のライブにおいて花譜さんはVT界隈に対する意思表明をしました。これはただのパフォーマンスと見るべきでしょうか。私はそうは思えません。
 それはこれまでの彼女の気持ちであり、またこれからの彼女達の活動に関する一つの答えでありましょう。それを正確にはなんと言い表せばいいでしょう。その正確なところは花譜さんに聞いてみなければわかりません。
 現在、ライブ活動をメインとしている会社は各社が様々な正解を求めて活動しています。不可解というイベントが絶対的な正解ではないでしょうし、彼女達の表現技法だって全てが新しいわけではありません。しかしそれでも、不可解というイベントでなし得た様々な事を総合して考えればかなり先進的なイベントであるのでしょう。
 そんな花譜さん達のチームがVT界隈にいる事が界隈にどれほど良い影響を与えるのか。と言った御託なんてライブ後に花譜さんが色んなVTにTwitterで話しかけるところを見たら割とどうでも良くなりましたけど。

 あんなにも素晴らしいイベントを見てこんな感想しか書けない自分のアレさ加減に愕然としつつも、これからも花譜さんの驚くべき活動を観測していきたいですね。

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