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タトゥーを入れたい

刺青の
残る亡骸
 
横たわり
土へと還り
 
よみがえる
古の樹の
 
傍らで
神は与える
 
平等に
はじめとおわり
 
シオンつみ
忘るる勿れ
 
ただの埋もれ木


※この記事は、日本人の僕とイタリア人の友人アンドレアがイタリア語で交わした会話を、日本語に訳したものです。
ほぼ会話のみで構成されているので、どちらの発言であるかを明確にするため、僕の台詞にはL、アンドレアの台詞にはAを、「」の前に付けてお送りしたいと思います。


Lイタリアそっちに定住することが決まったわけだし、相談があるんだけど...」

A「ローリス」

L「...なに?」

A「何度も言ってるだろう。まだ何も決まっていない」

L「僕だって何度も言ってんだけど。弁護士が『全てうまくいったときに支払えばいい』って言ってた金を支払ったんだから、もう労働許可をもらったも同然だよ」

A「よりによってどうして君はこの世で最も信じてはいけないものを信じるんだ? イタリアはろくでもない、詐欺師以下だって、よく分かってるのに... 一昨年のことを忘れたわけじゃないよな?」

L「...でも、あのときとは事情が違うじゃん。今回ビザが発行されないなんてことはあり得ないって」

A「『あり得ない』なんてことはあり得ない。弁護士から連絡が来るまでは何も信じるな。いいね?」

L「...いつもはバカみてぇにポジティブシンキングなのに、なんなの?」

A「期待するとダメだったときのショックが大きいからな。君はまた『僕の人生はもうおしまいだ! 線路に飛び込んでやる!』とか言うに決まってる...」

L「だからそれはごめんって何度も言ってんじゃん。ていうか、お前もさ、こっちが結構なことを仄めかしてんのに『俺を怒らせるな!』とか返してくんの、どうかと思うよ。もっとこう、泣きそうな感じで『早まるな!』とか懇願するところが見たかったのに...」

A「分かっているとは思うけど、次に同じことをしたら君の人生はおしまいだからな」

L「...はい」

A「で、『相談』って、なに?」

L「...僕の相談はイタリアに定住することを前提とした話なの。”弁護士から連絡が来るまでは何も決まってない” んだろ」

A「イタリアに定住すると仮定して、どうぞ」

L「...僕、タトゥーを入れたいんだよね」

A「ダメだ。前にも話したはずだよ」

L「前に話したときは『大人になったらね』ってことで決着しただろ。日本でタトゥーを入れてるとプールとか温泉に入れなくなることがあるから今までできなかったけど、イタリアで暮らすなら関係ないし、みんなも入れてるんだから僕だって入れたい」

A「『みんな』って、例えば誰だ」

L「ルイージ以外にタトゥーを入れてないやつはいないのに、全員の名前を挙げろと? アルフレードは胸と前腕内側に入れてて、ルーカは腹全面... ドリアンは胸と、ブレスレットみたいな感じで片方の手首一周、グイードは片腕全部と胸と背中、ドン・アンジェロは脇腹で、お前は上腕と下腿... 僕はどこに入れようかなぁ? 身近なやつが入れていない所がいいな。頭、とか...」

A「...頭」

L「そうそう、『東京リベンジャーズ』のドラケンみたいな感じに」

A「どんなデザインにするつもりなんだ? なんとなく想像はつくけど...」

L「黒猫!」

A「...ローリス、やめたほうがいい。あとで絶対に後悔する」

L「じゃぁお前はそのザリガニとネコのタトゥーを入れたこと、後悔してんのかよ」

A「ザリガニとネコじゃない! 蠍と黒豹だ。後悔はしてないよ」

L「ほら」

A「俺のと君がやろうとしているのでは訳が違う。頭に黒いハローキティのタトゥーなんて入れたら...」

L「...黒いハローキティ?」

A「あだ名を彫りたいんだろう? 俺はラヴェンナで君が "子猫ガッティーノ" って呼ばれてるところしか見たことがないんだけど...」

240420