憎げ言

あの人の書く文字が憎い。あの人の話し方が憎い。あの人のうそっぽい笑顔が憎い。ものわかりのいい人が憎い。純粋に誰かを好きでいる人が憎い。私にあだなす人が憎い。私を守ろうとするふりをして自分を守っている人が憎い。私の周りには私が憎んでいるものがいっぱいある。私が嫌っているものがいっぱいある。

でも、本当は、自分の書く字が憎い。自分の話し方が憎い。自分の笑顔が憎い。ものわかりがよく振舞う自分が憎い。潔癖でいようとする自分が憎い。
自分を追いつめている自分が憎い。誰かに守られようとする自分が憎い。自分の弱さが、もろさが、卑屈さが、孤独が、なにもかも。何人もが抱えているだろう、色々なしこりやわだかまりに押しつぶされそうになる自分が、憎い。

こんなにも私は私が憎くて悔しくて嫌でしようがないのに、私は私以外の何物にもなりえない。誰も助けてはくれない。助けを求めてはならない。そういう風に生まれたときから決まっていたのだ。たぶん、私だけは。そんな風に考えなければ、バカげた運命論者にもならなければ、今の私には私を救えない。

誰かと生きるということは、誰かと仕事をするということは、自分ではどうしようもないことばかりで、自分のことすらどうしようもなくて、何もかもが憎くて悔しくて涙が出てとまらなかった。どうして私だけが、という、陳腐な言葉を目いっぱい吐いて、車のハンドルを殴って、目を覆って、髪の毛を振り乱しても、やっぱり私は私のままなのだ。
車窓に映る、景色に重なった半透明の私の顔は大層不細工でまた、涙が止まらなかった。