誰もいない夜

何も無い、平坦な夜に突然発狂したくなる。誰も、何も、悪くない。仕事は順調で、先輩は優しく、後輩は可愛い。友人は思慮深く、恋人は健気だ。夕飯は美味い。適当に作ったショートブレッドも美味い。

でも、私のやるせなさを理解してくれる人は誰もいない。私だってわからない。押さえられているように、胸のあたりが詰まる。他のことを考えたいのだが、理由もなく、ただやるせなさが体に降り積もっていく。満たされているのに、満たされているという事実が私を枯渇させる。息苦しくて、季節外れの麦茶に手を伸ばして口に含んでも、胸の痛みは和らがない。私にはなんにもない。満たされても、何も変わらない。
誰も、傍にはいてくれないのかもしれない。
誰の、傍にもいてあげられないのかもしれない。

なんだっていい。
私は今、誰もいない夜に叫んで走って逃げさりたい。寒くてもいい。誰かがいる夜へ、逃げていきたい。