Birth

誕生日の月はいつもどこか落ち着かなくて、そわそわとする。誕生日を迎えても、劇的に体が太るとか顔にはっきりした皺が増えるとか声が変わるとか髪の毛が伸びるとか、そんな変化があるわけじゃない。誕生日前日の私と誕生日当日の私と誕生日翌日の私も何も変わらない。変わらないのに、どうして誕生日はそわそわするんだろう。いくつになっても。
たまに、今日が誕生日だなんて忘れていた、なんていう人がいるけれど、私は六割ぐらい嘘だと思っている。ははーん、あの人、きっとそわそわしている自分が恥ずかしいんだな。とちょっと笑う。でも、その気持ちもわからないでもない。私も、できれば、人に言われて「あ、そういえば」と思い出すような誕生日の過ごし方をしたいと思っているから。無理な目標であるけれど。

一年が過ぎれば、人は皆、歳をとる。いつのまにか。のぞむとのぞまざるとにかかわらず。死に向かって生きているのかもしれないし、生きることのエンディングが死なのかもしれないし、そんな講釈を垂れたってなんだって、人は生まれて、老いて、死ぬのだ。それでもみんな、歳をとることは覚えていても歳をとった結果死ぬことを、忘れている。なんだかとんちんかんだ。
それなら、私は、歳をとることも忘れていたいなと思う。ただ、今を、生きているというそのシンプルなことだけを、覚えておきたい。

歳をとる、ということは、色んな雑音が増えることでもあるし、雑音が消えていくことでもあるなと最近思う。ということをよく思う。
雑音は毎日、毎月、毎年、私の輪郭ギリギリを埋め尽くす。だけど、私の内側の雑音はほとんどなくなって、真っ白な白湯のようなさざなみだけが心の中を埋め尽くしている気がする。
そういうものと、上手く付き合っていくような歳の取り方を覚えたいな、と、漠然と考えているうちにもうすぐ誕生日なのだった。

生きて行こう。