あまーい「ひとすくい」のはなし

 月に2・3回は行くであろう自家焙煎コーヒーの店がある。車で40分ほどの距離だろうか。仕事がご縁で通っているうちに、すっかり常連になってしまった。店主のひとがらも、お店の雰囲気も、もちろん提供されるコーヒーの味も、総合してわたしの通いたい理由である。

 先日突然おとずれた「数日間限定の夏」、わたしはまたコーヒー店へと訪足を運んだ。突然の気温上昇のニュースをみた店主が、夏メニューを前倒しして提供することを知ったからだ。


 毎年数種類ある夏メニューも、少しずつかわっているようす。なんと今年は夏メニューの中のひとつ、定番の「アフォガート(バニラアイスクリーム、エスプレッソがけ)」がバニラアイスクリーム単体でもご提供します、とのことだった。


 店主がコーヒー魂の熱いひとなのを知っていたので、とても驚いた。「もうそのメニュー、コーヒー絡んでないし…」「店主、プライドやコーヒー熱はどこへ?…」ともおもった。じつは徐々に客が殺到するようになったその珈琲店が、昨年から「+(ぷらす)奥様」という体制にかわりさらにパワーアップして変化をとげた。その影響もあり店主も単独でコーヒー魂をひたすら熱く燃やすことが許されなくなったのであろう。


 とにかく私は突然の暑さ到来をいいことに、前倒しされた夏メニューを楽しんだ。


 カウンターで注文をした際に「ワンディッシャー」という単語が目にとびこんできた。どうやら、「アイスクリーム、ひとすくい(ワンディーッシャー)」のことのようだ。


 じつは初めて海外旅行をした際、公園沿いにあったアイスクリームショップにはいったことがあった。英語を母国語としていないその国も多少英語が通じるらしく、緊張と英語力にまったく自信のない私は、アイスクリームをゲットできそうな単語とジェスチャーでその場をきりぬけた。とても恥ずかしい気持ちとともに悔しさで放心しながらアイスクリームを食べたことをいまだに憶えている。そして、アイスクリームを注文するときは「ひとすくい(ワン スクープ)」という単語を使用すればよかったのだということもわたしは学んだ。


そのエピソードがあって、今回目に飛び込んできた「ワンディッシャー」とはなんぞや?、という気持ちに無視できない自分がいた。調べると「アイスクリームディッシャー」という商品がある。どうやら、スプーンの形に似ていて、手元をカシャカシャとスライドさせるとすくったものが、きれいに形を保ったまま盛りつけられるあの商品のことだった。


「ははーん…」
ワンディッシャーもいわゆる「ひとすくい」の一種とわたしは自分の辞書に登録したのだった。

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