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君と夏の終わり、将来の夢

朝から晩まで一日中花火が上がり、翌日にはニューシングルが発売される。こんな誕生日はきっと、蓮巳さんの人生で何回も無いんじゃなかろうか。

ということで、今年も無事に蓮巳さんのお誕生日、9月6日を迎えることができた。お誕生日おめでとうございます。数え間違えていなければ、今年で2回目の19歳のお誕生日だね。


去年のお誕生日には何を書いていたのか、読み返してみた。「アイドルというのは因果な商売だ」。彼が昔、自分の職業を指して言った言葉である。

一度幸福や愛の味を知ってしまうと、人は忘れられない。「生きるということは常に困難の連続」だから、人はアイドルを愛し、愛されることを求めてしまう。愛したぶんだけ、アイドルはその愛を返してくれるからだ。

逆に言えば、人生からあらゆる困難がなくなってしまえば、アイドルは必要なくなる。誰にもどんな困難の降りかからない世界、なんて素晴らしいことだろう。だがそんな世界はありえない。そして、自分たちはそれで食っている

我ながらよくまとまっているなあ。

お寺に生まれ、仏教の教えを身に刻みながら生きてきた蓮巳さんが、「生きることは常に困難の連続”だからこそ食っていけるアイドル”」という仕事に引っかかりを覚えたのは、自然なことに思える。

今、パズルのピースがはまるように、彼がESに来てからどんな一年を過ごしてきたのかが明らかになりつつある。その一年は、蓮巳さんが、アイドルとは何かについて考え続けた一年だったように見えた。

花火大会の翌日に発売された、紅月のニューシングル『夏鳥の詩 -サマーバード-』。風を切って大空を駆け抜けるように、次々と転調するメロディが美しい一曲だ。

こんなふうに明るく柔らかい曲、紅月にしては珍しい。後からわかったことだが、これ、「受験期を迎えた学生への応援歌」だったそうなのだ。

お、応援歌......!?  紅月が!?

しかし、言われてみればたしかに、あの爽やかな長調のメロディ、いつになく優しいあたたかさは、「応援歌」と呼ぶにふさわしい。月はいつでも夜空にいるから見上げてくれ......という常の紅月とは違って、道のない大空で並走してくれそうである。

とはいえ、実際、「月はいつでも夜空にいるから見上げてくれ」という紅月(もといリーダーである蓮巳さん)のスタンスが、私は結構好きだ。

月は空に、私たちは地上に。一定の距離を保ち、それぞれの場所でがんばっているけれど、心はあなたに向けている。それが、アイドルとファンのあるべき姿だと思う。

今年の夏、颯馬くんが勉強に打ち込むために、アイドル活動を一時休止したことがあった。

颯馬くんには「高校生活を満喫してこい」と前向きに接していた蓮巳さんと鬼龍くんだったが、裏では埋め合わせの企画を考えたり、今後について話し合ったりと、思い悩んでいたふたり。

後輩に心配をかけまいと頭を悩ませる彼らの姿は、いじらしくも、それだけ紅月のことを大切に思っているのだなと感じられるものでもあった。

紅月のこれからについて考えるとき、蓮巳さんはたまにこういう自罰的な物言いをする。「俺は『紅月』を自分の目的のために使ってきた」。それは確かに事実なのだが、そう言っては鬼龍くんや颯馬くんと一線を引き、荷物を背負い込もうとする蓮巳さんを、ふたりがいつも一人にしなかったことも思い出す。

かつてはそんな蓮巳さんのことを「水臭い」と笑い、積極的に関わろうとしていた鬼龍くん。けれど、もう怒ることも悔しがることもなく、「それじゃてめぇはこういうふうに考えてるんだな」と冷静に返し、蓮巳さんの次の言葉を待つ。

よく話し、隙あらば説教を始める蓮巳さんだけれど、自分でも言っていたように「自分語りが下手」だ。一度話し出すと止まらない口ぶりからは分かりづらいが、彼の本心ってなかなか見えないし、話そうとしてくれることも少ない。そのことを知っていないと、彼の心を知るのは難しい。

鬼龍くんは、もうそのことをしっかりわかっているのだな、と思った。蓮巳さんが時々こぼす自虐的な言葉の裏には、いつも周囲への愛情が隠れていること、相手への信頼と甘えがあること。「こいつになら言ってもいい」と思うから言っているのだということ。

だから鬼龍くんは揺らがない。蓮巳さんの言葉を受け止めて、きちんと返し、待つことができる。蓮巳さんは鬼龍くんの問いかけを受けて、自分の気持ちがどうすれば正しく伝わるか考え、安心して言葉を尽くすことができる。いい仲間を持ったなあ、蓮巳さん……。

紆余曲折の末、鬼龍くんが掬い取った蓮巳さんの本音とは、「神崎には自由に生きてほしい」であった。

対話って難しい。相手の言わんとすることを汲み取るために、心を砕くのはもちろん大変だ。だけどそのことを「大変だ」と感じるたびに、自分が相手に同じ労力をかけないためにはどうすればいいのだろう? と考える。

そのために必要なことは、恐らく、自分で自分がどうしたいか、クリアに理解すること

自分はどうなりたいのか? どの方向に進んで行きたいのか、あるいはどこに行けばいいかよくわかっていないのか? 行きたいほうへ行くために、何をすればいいのか?

それを知る方法は大きく分けて二通りある。ひとつは自分一人で考え、答えを出すこと。もうひとつは、人と話しながら考えをまとめ、自分のことを理解すること。私の体感だが、多分紅月には前者のタイプが固まったんじゃないかなあ……? 意識しないと話し合いをせず、お互いに分かり合えていると思い込みがちなあたりが、まさに。

だからこそ、たまに来るこういう機会で、自分の考えをどれだけわかりやすく相手に伝えるか、というのは紅月のみんなにとってものすご〜く重要なんじゃなかろうか。

蓮巳さんが颯馬くんのことを心配していたことも、本当は立派に一人前だと思っていることも、夏の時点で颯馬くんにはあまりうまく伝わっていないようだった。彼は大事なことをこうやって、心の中にしまってしまうので。

だけどここから冬にかけて、蓮巳さんが自分のことを話す機会はどんどん増えていっているように感じる。それだけのトラブルが紅月を襲ったからなのだが、彼が今まで自分の心に留めて終わらせていた色々な「俺はこうしたい」を、具体的な言葉で切って出す機会が多くなっていく。

お説教やアドバイスだけでなく、蓮巳さんのそういう話が『スカーレットハロウィン』や『天下布武』、『サブマリン』に『SS』で聞けたことを、とても嬉しく思う。

そして、『サマーバード』がリリースされたことにより、この一年が、蓮巳さんや紅月にとって「自分を探す旅」だったことがわかった。

夢ノ咲を革命するという、大きく果てしない理想を掲げ、一歩一歩確実に進んでいった蓮巳さん。それが一旦叶い、新天地に飛び出した今、彼はあらためて「自分がどうしたいか」を考えている真っ最中なのだ。

受験生に寄り添う、夏らしい応援歌『夏鳥の詩 -サマーバード-』。紅月らしい和ロック調でありながら、初心を忘れない大切さを歌った『紅月いろは唄』。歌謡曲風のメロディとストーリー仕立ての楽曲に挑戦した『月光奇譚』。数々の「寄り道」とも思える楽曲たちが、胸に迫る。

『一戦!矜持示す天下布武』「快刀乱麻/第八話」より

自分についてきてくれた鬼龍くんと颯馬くんをすごく大切に思っていて、彼らが世間で認められるようにと願っているのが蓮巳さんだ。そのためなら世界だって変える。自分の理想のために、愛する人たちのために、世界を変革する覚悟。

敬人:
(鬼龍、神崎、貴様らはどうだ? 貴様らは、どんなアイドルになりたい? 『紅月』を、どんな存在にしていきたい?)
(俺も改めて、一生懸命——考えてみる)

『一戦!矜持示す天下布武』「快刀乱麻/第八話」より

俺は、鬼龍は、神崎は、「どんなアイドルになりたい?」。この問いは、このとき突然湧いたものではなく、きっと蓮巳さんがESに来てからずっとずっと抱いてきた問いだったのだろう。

それならば、私の願いもひとつだ。蓮巳さんが、紅月がどんなアイドルになりたいと思ったのか。

その答えを、この目で見届けたい。

見届けさせてほしい。

わたしと蓮巳さんの間に流れる時間は違い、生きている世界も違う。恥ずかしいことだけれど、それが同じだったらどんなにいいか、何度も考えた。できることなら蓮巳さんの笑い皺が見たい。たとえ年の差が開こうとも、私の中で蓮巳さんはずっと「ひとつ上の先輩」なのに、もう紅月の歌うストーリーを自分ごととして聞けなくなっていることに、時の流れを感じもする。

それでも、彼のことを心から尊敬している。私は蓮巳さんに仕事への向き合い方を学び、自分を奮い立たせる方法を学んだ。果てしない理想に向かって、一歩一歩進んでいく彼の姿に計り知れないほどたくさんの勇気を貰った。今のままでも十分すばらしい彼が、それでもまだまだ成長していくことに、未来への希望を見た。

蓮巳さんが空高く照らしてくれるおかげで、わたしは自分の歩むべき道と向き合い、自分がどうしたいか知ることができた。昔よりも、生きたいように生きられるようになった。

颯馬くんのいう通り、きっとそれも「因果」なのだ。


月は空に、わたしは地上に。彼が自分らしく輝く姿を、できるだけ長く見守っていられるように。いつまでも彼の姿にすがらなくて良いように、彼が教えてくれたことを胸に、自分も頑張ろうと。

蓮巳さん、お誕生日おめでとうございました。新しい一年もあなたにとって、実り多い一年になりますように。