見出し画像

ちょっと消化不良気味の、韓国風リメイクドラマ「春が来た」

わたしは、韓国ドラマが好きだ。・・・って、改まって自慢そうに言うほど特別なことじゃないけど。韓国ドラマというよりは、映画や音楽も含めた韓国芸能が好き。それで、ニューヨークに拠点のある、韓国を中心にしたアジア系の映画、ドラマ、音楽、バラエティ番組などをネット配信するサービスに加入している。韓国語は日本語に文法的にも近いし、日本語の字幕のほうが気持ちが近くなっていいけれど、アメリカのサービスだから字幕は残念ながら英語。でも、便利。いつでも見れて、古いものから新しいものまで好きなだけ見れる。ま、その分危険ではあるけど。

このところ、そのサイトのホームページのトップに「Spring Has Come」というドラマの宣伝が続いていた。妙に唇がピンクの男性のアップ写真が、いつもの韓国ドラマの雰囲気を違っていて、ピンとこなくてスルーしていたけれど、あまりにずっと宣伝が続くから、「これ、なんだろう?」って思って、つい、ポチッと押して見てみた。そうしたら、いきなり日本語が流れてきたから驚いて、画面をまじまじ見てしまった。

主演の俳優さんは、韓国のEXOという音楽ユニットのリーダー格のカイという人。これまで知らなかったけれど、調べてみたらキレキレの動きをするダンサーだった。(EXOの練習ビデオ →https://youtu.be/XcdLVKYsHHU 最初のシーンで一番前に立っているのがカイくん。こういうグループにいるのはちょっともったいないな、って思わせるくらい確実なステップを踏み、華のあるダンサー。わたしの好みとしては、ここまでキレてない動きのほうが好きだけど、このキレ方は東アジアの傾向みたい。)

けれど、あとの出演者は全員日本人で、設定も日本。しかもなんだか、セリフやナレーションが独特で、詩的で、時にはふた昔以上な感じがした。これは一体何??と、見るほどにますます謎めいてしまって、調べた。すると、wowow が制作した、昭和を代表するシナリオ作家の一人、向田邦子さんの作品「春が来た」のリメイクドラマだった。

カイくんのお相手の主人公は、30歳をすぎた、これと言った取り柄もなく、男性とのお付き合いの経験もなく、デパートで販売員をしながら、これからどうなるのかわからず不安なまま、ひっそりと息を殺しながら日々を生きている女性。演じているのは倉科カナさん。その彼女の前に、突如素敵な男性のカイくんが現れて、彼女がこれまで住んでいた単調で希望の感じられない世界から連れ出す、という物語展開だった。

向田邦子さんは好きだ。本も何冊も持っている。けれど、長い間読んでいなかった。そのせいか、違和感を感じた。え・・・?向田さんってこんなお話しを書く人だったっけ?

そして次に驚いたのは、韓国ドラマの定番シーンがどんどんてんこ盛りで出てきたこと。主演俳優さんが韓国人というだけじゃなくって、ドラマ自体が韓国仕立てだった。

まず、女性が転ぶ。そして、その転んだ女性を「おっとぉ」って男性が助ける。そして、捻挫した女性をおんぶして家まで送ってゆく。いちいち川辺のシーンが現れる。男性の上半身裸のシャワーシーンがある。主人公の男性は、借金に追われていて、取り立て人に殴る蹴るの暴力を受ける。登場人物たちが、町の中の小さな公園で話しをしたりなにか食べたりする。それから、心理描写を言葉で表すところ。これでもか〜、って王道韓ドラ風。お決まりの、記憶喪失はなかったけど・・。

とっても不思議な気分になった。向田さんの書いたセリフ、例えば「それは寒い朝に飲むお白湯のような気分だった」みたいな素敵な言葉も、あちこちにちりばめられていて(正確な言葉の並びは忘れた)姉妹で嫉妬したりしながら喧嘩するシーンなどは、とても向田ドラマ的だったし、確かに向田さんの原作「春が来た」のストーリーの流れだけれど、全く違う作品とも言えるような雰囲気で、違う作品を見ているつもりで見ていたら、いきなり向田節のセリフが出て来て、また引き戻される、と言う風な妙な感じだった。女優さんたちのメイクも、ちょっと不自然というか・・日本人だったらあまりしないようなメイクで、番組の終わりのクレジットをみていたら、やはりメイクは日本人ではない人が担当していたりして。

この作品は、一体誰を対象に作っているのかな、と思わされた。人気のEXOのカイくんを主人公に抜擢して、それでも向田作品で、高校生くらいから高年齢までの女性を狙ってるのだろう。でも、このNYのネットサービスからも同時配信されてるってことは、韓国人や外国人も対象にしてるのかな、と、思った。ただ、どうも焦点が合うようでどこにも合ってないような、そんな感じを受けた。

でも、一番わたしの中で落ち着かなかったのは、わたし自身がストーリーの流れに違和感を感じたことだった。韓ドラシーンよりもなによりも、この作品に描かれている日本の人々のあり方や、行動に違和感を感じたのだ。家族で揃うシーンでは、父親が母親に「お茶」と言うところなんか、え?自分でお茶くらい入れたら?と思ったし、どうして、鬱々とした生活をしている女性を男性が救うのかな・・って思ったのだ。

「わたしはどこへも行けません。前にも、後ろにも。ただ、息をして毎日を過ごしている。重い扉を開けてくれたのは、その人でした」と、灰色の日々の扉を開けてくれたのが、カイくんだった・・って、え?こんな風に他人(男性)に自分の人生の扉を開けてもらう女性の物語なんて、向田さん、書いてたの?と、驚愕した自分に一番驚いた。向田邦子さんは、女性でありながらテレビのシナリオを書いたり、短編小説やエッセイをたくさん書いて直木賞を受賞したりした、日本では珍しい独立した方だと思っていた。でも、登場する女性たちは、独立してない・・。そして、確かに、その辺も向田さんの作風だったことを思い出した。

要するに、向田さんって昔の女性だけれど自立したかっこいい女性、と思っていた過去の自分と、今の自分の理想とする女性像の意識のかけ離れ方に驚いたのだ。自分の中に流れた時間と経験を知ることになった。

確かに、韓国は経済成長期の真ん中にあって、芸能も国際的な経済活動の戦略の中に入っていて活発で、押せ押せムード。一方、経済活動的にも落ち着いて円熟期であるとともに、あらゆる面でちょっとした倦怠期にある日本にとって韓国芸能は、希望や元気を与えてくれる白馬に乗った王子様的なところがあると思う。かく言うわたしも、韓国芸能大好き。それに、主人公役のカイくんは、ダンサー特有の立ち振る舞いで、どんな洋服を着ても素敵で、一歩一歩歩くたび、動くたび、セリフを言うたびに、周りの空気が大きく動くような感じだった。

まぁ、男も女も、国同士も、みんなお互いに刺激や希望を与え合いながら、支えあいながら生きるものだろうとは思うけれど・・それにしても、よろめいて転び、自分の人生の扉を開けてもらい、貯金のすべてを男に渡す女のストーリー展開。そして、お父さん役の佐野史郎さんは、いい役者さんなんだなぁ、って思ったけれど、他の人たちはイマイチぴんと来ない演技で、カイくんの存在感におんぶにだっこな感じがして、う〜ん、なんだか消化不良だったのだ。

今週末に最終回が放映されるらしい。最後までどこか消化不良なんだろうな、と思いつつも、きっと最終回も見るだろう。そう、最終回はなんと、これもちょっと古めの韓ドラの王道、チェジュ島で撮影されている。

・・・・・

「春が来た」wowowの宣伝ページ→ http://www.wowow.co.jp/dramaw/harugakita/

・・・・・

トップの写真は、お正月に撮ったものですが、内容とは直接関係ありません。な〜んとなくこんな感じがしたから・・イメージです。





サポートしていただいたお金は、星やカードや宇宙のことを、もっともっと勉強するために使い、みんなにもっともっとお知らせできるよう使いわせてもらいます。そして、新しい本、新しい知識が入ったら報告しますね。ありがとう。