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カフェ4分33秒 毎週ショートショートnote

「何かお持ちしましょうか」
秘書官がネクタイを緩めた総理に言った。
「有難う、珈琲はあるかな」
「インスタントですが」

モニターの地図が赤く染まるのを横目に彼は大きく息を吐いた。
秘書官が真白のカップにたっぷりと入ったコーヒーを差し出す。

少し湿気たような香りのするそれを一口含む。以前ならこれは飲まないだろうと思ったが今は格別のようにも思う。

「あの店は何と言ったかな?街頭のあとに寄った店」
「カフェ4分33秒ですか」
「そうだ、変わったマスターだが珈琲は旨かった」
「説教されましたね」
「そうそう『自分はアナーキストだからあんたを全部否定するが、珈琲を飲んでいるうちは客としてもてなす』と言っていた」
彼は少し笑ってまた一口飲んだ。
「客に随分な言いようでしたが」
秘書も笑った。

「あのCDかけますか」
「まだあるのか?」
「在りますよ、ジョン・ケージ」
「久しぶりに聴くか、音楽が入っているほうの」

今は音があっていい、ほどなく真の静寂が訪れる。

完410

 The Sound of Silence Simon & Garfunkel



たらはかにさんの毎週ショートショートの企画、今週のお題「カフェ4分33秒」に参加させていただきました。
特にあとがきはありませんが、たらはさんお身体お大事に。


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