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#003.アタック・ナンバーハーフ

何度も見返している映画の1つ。タイの映画です。

【あらすじ】
ジュンとモンは一流のバレーボール選手だが、オカマ(ゲイ)である事を理由に地区選抜のメンバーに選んでもらえない。仕方ないと諦める2人だったが、チームに新たな監督が就任。ビー監督もまた、性的少数者として差別と偏見を受けてきた人だった。

実力を評価されて選抜メンバーに選ばれたジュンとモン。しかし他のメンバーは2人を嫌いチームから抜けてしまう。ジュン達はビー監督の提案でかつての仲間を誘い、前代未聞のバレーボールチームが誕生するのだった――。

チームメンバーは1人を除いて全員がオカマというびっくりなチーム。更にびっくりなのは、これ実話を元にした映画なんですよ。最後のスタッフロールで本物が出てきます。

↓↓以下、ネタバレ注意↓↓

この先を書くためにかるーく登場人物の紹介。

ジュン…主人公
モン…ゲイだが男性嫌いっぽいところあり
ノン…水牛とも呼ばれる軍人だが心は一番乙女
ウィット…家族にカミングアウトできていない
ピア…手術済みで女性顔負けの美人
チャイ…チーム唯一のノンケ君
ビー監督…自身も【オナベ】と偏見を受けてきた名監督

実際にバレーボールをしている場面は少なく、スポーツ映画と言うよりヒューマン映画って感じかな。オカマ(映画の中でこう呼ばれていたのでここでもあえてこう呼びます)だからというだけでジュン達が差別されたり、疎まれたりする胸の痛む場面もあるのですが、ジュンの明るさのおかげで何度も見返す事ができます。

映画の冒頭からこんな会話が。

吹き替えと字幕に違いがあるのはご愛敬で

(体格の良い観光客を乗せている馬を見て)
ジュン「馬に生まれる事ほど不幸な事ってないと思わない?」
モン「オカマに生まれるよりいいわ」
ジュン「え~!?男でも女でもあるなんてミステリアスじゃない!」

こんな事をサラっと言えるジュンちゃん、さいっこうにかわいい。

チーム唯一のノンケであるチャイは、冒頭でチームを去って行った他の選手達のようにあからさまな偏見は出していないものの、仲間だと打ち解けている様子はありませんでした。特にモンとは険悪な雰囲気(これはモンも悪いのだけど)。

それでも国体で順調に勝ち進むサトリーレック(=鋼鉄の淑女/チームのニックネーム)だけど、些細な事をきっかけにジュンとノンが喧嘩を始め、試合での動きもめちゃくちゃに。勝つためなら…と我慢してきたチャイは、この状況に怒りが爆発。

もう辞めるとチームを離れようとするチャイを、次の試合はノーメイクで臨むという条件で引き留める。なんでノーメイク?と思うのだけど、チャイが怒った時に「見た目ばかり気にしやがって!」と言っているところからきているのかな。ここら辺の説得は映画では描かれていなかったので(もしかして未公開映像にあったかなーどうだったかなー)。チャイ視点だとジュン達はそう映っていたのでしょう。爪が折れてノンが号泣するシーンとかもあったし(私としては気持ちが分かるのだけど)。

んで、ジュンとノンの喧嘩も収まって(チャイ離脱のピンチでそれどころじゃなくなった感じ)、今度は私情を捨てて試合に臨むのだけど……(ちなみにこの時、ウィットはみんながノーメイクなら親に試合を見られてもゲイだってバレないとウッキウキでかわいい)。

今度は別の意味で試合に全く集中できないジュン達。集中しなきゃ!と言い聞かせても思うように動けない。うわーこんなんじゃチャイがまた爆発しちゃうぞーと思いきや、


「化粧してこいよ」

いや、もう、反則でしょ。ここでこんな事を言ってくれるチャイ、いい男すぎるでしょ!この時のちょっと照れた表情がまたカワイイんですわ。

ここでチャイが怒らなかったのは、チャイはジュン達がバレーボールと真剣に向き合っている事を分かっていたからだと思う。化粧してないと実力が発揮できないのなら、それこそ「見た目ばかり気にしやがって!」になってもおかしくないのにね。

見た目ばかりを気にしていたのは自分の方だった――とチャイは気付いたのかもしれない。ジュン達のバレーボールへの情熱、実力は本物。だからこそここまで勝ち進む事ができた。それなのに【オカマ】だからという理由で彼女達の努力も実力も認めようとしなかった――。

チャイの心情が直接描かれているわけではないけど、そんな心情の変化があったのかなと私は感じました。

化粧で華やかさを取り戻したジュン達は、実力通りのプレイで快勝。決勝へと進むのでした。この決勝戦の前もまた揉め事が勃発したりするのだけど、そのおかげでチャイとモンは完全に打ち解けるし、悪い事だけではない。

そんな感じでハッピーエンド。




なのですが!

最近見返す度に思う事がひとつ。

ピアの彼氏、チャットって……

クズじゃね!?!?

言葉が悪くてすみません。でもさ、婚約者がいる状態でピアと付き合ってたんだよ。ピアもその事は知っているのだけど、「親が決めた婚約者なんて関係ない」というチャットの言葉を信じてました。

でも結局、チャットは婚約者を好きになってしまったと。んでピアはフられてしまうのだけど、そこまでなら、そこまでなら1000歩譲って許容範囲。人の気持ちってどうにもならない時があるから。

だけどさ、そうやってピアをフっておいて、結局まだピアを追いかけてるんだよ。しかも婚約者と一緒にピアの試合を見にきたりさ。ピアがチャットを遠ざけようとすると、「分かってくれ、僕は君を……」とか、

どの口が言うんじゃああああ!!!

この映画を初めて見たのは中学生の時で(映画好きの学校の先生がDVDを貸してくれました。中学生にオカマ映画をオススメする先生……笑)、超絶ピュア少女だった当時の私はピアとチャットの関係に胸がキュンキュンしたものです。ロミオとジュリエットみたいって。

その当時のイメージが強くて、結構最近までキュンキュンしてたのですが。

すっかり心が汚れた今の私なら分かる。チャットはクズだ…と。悪役として描かれている人にライバルチームのマンという青年がいるのだけど、オカマは大嫌いと差別するマンの言動は筋は通ってると思うんですよね。その言動が正しいかどうかは別の話として。マンはオカマが嫌いだからジュン達に辛く当たる。

一方チャットは、ピアが好き。婚約者も好き。婚約者とは別れない。ピアとも別れたくない。(おそらく)婚約者にはピアとの関係は話していない。あーいるよねそういう人。妻(夫)は家族だ好きなのはあなただけだとか言ってる人。妻(夫)に愛情はないとか言って絶対に別れようとはしない人。別れられない理由がある?子供のため?じゃあ不倫やめろ。生活のため?相手をタダで使える家事代行者やATM扱いしてるんじゃねえ。お前の都合なんて知るかよ。今のパートナーと別れないなら恋愛するな。好きになる気持ちは止められなくても、その相手と付き合う事は止められるだろ。と、モテないカネないオトコいない三拍子の私は思うわけです。

映画と実話がどこまでリンクしているのかは分かりませんが(大会に関する事だけじゃないかなーと個人的には思ってる)、制作側はどういう意図でこの2人を入れたのだろう。それでも「悪い思い出よりいい思い出の方が多いから」とチャットを憎もうとしないピアを描きたかったのかな。

そう。ピアはそれでもチャットを気遣い、心配し、決して憎もうとしない。外見だけでなく内面も美しい。そんなピアは続編でちゃんと幸せになってくれます。よかった。

ふうふう、熱く語りすぎてしまいました。等身大で生きるオカマ達がとってもチャーミングで大好きな映画です。興味ありましたらぜひ。