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四角い音の話

2020-11-30 11:33:36

「四角い音」が基本中の基本

常に発音の瞬間にその音を空間に存在させる。
たったこれだけのことがどれだけ難しいか。言うなればこれが音楽を描くための「真っ白なキャンバス」なので、それが常にいい響きをもち続け、時には強くなったり、やわらかく細くなったりすればいい。

このことを語るときにはある先生に教わった、初心者のための奇論(と自らおっしゃった)「四角い音の話」は避けて通れない。印象的な比喩は「ハイウエイを運転しているときに規則的にやってくるセンターライン」の如く、音は一定の幅を持ち、きっぱりと始まり、きっぱりと終わるテヌート奏法が基本である。この間アンブシュアが変わらないように。といわれれたことを思い出す(音の終わり方はその時の音楽によって変化する)。

テヌート奏法が叩き込まれていないと、例えば同じ音で4分音符を4つ吹くだけでも凸凹となる。つまり真っ平らな土台がなくて、その上にシェイプをつけるなどの表現はできない。

しっかりしたテヌート奏法を身につけていないとサマにならないのが、通奏低音パートを演奏するときだ。ソロより音程がシビアで誤魔化しが効かない(瞬時に濁るから)。さらには、オルガンとの場合、チェンバロとの場合で発音のタイミングが当然違ってくる。微妙な差異は無意識に調整するのだが、基本技術としてチェンバロの音の立ち上がりに合わせて、きっぱりと音が始まることがまず肝要。これが出来れば、遅い方(オルガン)はなんとかなる。こればかりは色んな経験をし、色んな目に合わないと(恥をかくということ)自覚して治すことは難しい。なぜならそんなことは全く気にしなくても演奏はできるし(音符は簡単なので)それでもまかり通るので。

チェンバロやピアノに置き換えた時、同じタッチで弾いているのに鳴りにバラツキがあったら表現はできなくなる。そのために調律や整音に神経を使うのだが、楽器奏者はそれを、自分の技術でやらねばならない。
最近の新しい木管楽器は均一に音を並べることはかなり容易になっているが、デリケートな制御ができないポイントでも音が揃ってしまう。表現の幅を広げるにはデリケートに「楽器の琴線に触れる」リードセッティングが必要になる。音程や音色に神経を使わねばならないのに敢えて古い楽器を使う場合は、古楽器ではその琴線に触れるツボに入れないと音が揃わないから、そしてうまくいけば最良の結果が得られるからだ。

余談だが、古楽特有の罠があるので気をつけなければならない。メサ・ディヴォーチェ(一定の音を長く引き伸ばしながら徐々にクレッシェンドし、つづいてデクレッシェンドして終わる)の罠。歌や弦楽器には大変効果的な奏法だが、テヌート(四角い音)の基本をおろそかにしたまま管楽器奏者がそこに興味を持ちすぎると「気持ち悪くて聴いていられない」演奏になる。 基礎をしっかり習得し、しっかりとした奏法でてからやらないと効果はない。

その基礎は大きく2つ。まず「四角い音」だ。はっきりとした「面」で音が開始され、長く、まっすぐに伸ばすことができるというテヌート奏法。もう一つは表現の幅を広げ、いい音色の基礎となるピアニシモだ。この音がいい音かどうかで全てが決まる。フォルテはその音に寄りかかって増幅する作業(ブレスを入れればいいというような単純な作業ではない)だから。

テヌート奏法(四角い音)で奏されたピアニシモがそのまま増幅されてフォルテまで響き減衰してピアニシモで終わる。これが最初のピアニシモが始まった瞬間に客席の最後方まではっきりと伝わり、増幅、減衰し、無音の瞬間まで同じような距離感で音は到達しなければならないのだ。この間、音が遠くなったり近づいたりは一切なし。ここで音程のブレを伴うととても聞けるものではないし、上級者でもピアニシモの方がよく音が通り、フォルテがボケることはありがちなので気をつけないと。

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