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ウクライナへ供与される西側戦車の最新状況

 ウクライナのゼレンスキー大統領から要請を受け、NATO加盟国から西側戦車の供与が次々と表明された。中でも一大勢力となるのが、事実上のNATO標準戦車、レオパルト2だ。


ウクライナが西側戦車に期待するもの

 何故ウクライナが西側戦車を求めたかを考えてみよう。大きな要因は自軍で運用しているロシア(旧ソ連)製戦車が損耗していることだが、それに加え「新たな可能性」を求めたことも想像に難くない。

 これまではウクライナ、ロシアともども同じ戦車同士で戦っていた。ここに設計思想の異なる西側の戦車を投入することで、状況を変化させることを望んだのではないだろうか。

 戦車の性能差というのは投入する戦場や戦況、運用する人員の熟練度によって左右されるため、諸元だけで語ることはできない。レオパルト2やチャレンジャー2、M1エイブラムスがT-72に対し、ウクライナの戦場で必ずしも優位に立てるとは限らないが、これまでとは違う要素を導入することにより、新たな展開を期待しているのかもしれない。


レオパルト2の供与状況

 レオパルト2の供与は、まずウクライナと国境を接するポーランドが先陣を切り、製造国であるドイツへ輸出許可を求めた。これは「兵器を無秩序に拡散させない」というドイツの戦後ドクトリンに基づき、レオパルトを供給した国に対し、転売など再輸出する際はドイツ政府の同意を必要とする契約が締結されていることによる。


ドイツは戦後ドクトリンを変更

 ドイツはこの要請に対し、アメリカなど他国が歩調を合わせて自国の戦車をウクライナに供与するならば、と条件をつけた。これも軍事支援にあたっては国際協調を旨とし、突出することを避けたいというドイツの立場を物語るもの。

 この背景には、第二次世界大戦で戦火をヨーロッパに拡げたドイツが、戦後どのように反省し、行動してきたかが透けて見える。第一歩は消極的だが、国際的なコンセンサスに基づけば行動は早い。今回のウクライナに関していえば、ゲパルト自走対空機関砲をはじめ、PzH2000自走砲やIRIS-T防空システム、MARS II多連装ロケットシステム、ビーバー架橋戦車などに加え、数万発規模の各種弾薬が供与され、NATO加盟国ではアメリカに次ぐ規模での軍事支援が行われている。

2022年12月時点での主なドイツによるウクライナ支援(画像:BMVg)

 イギリスがチャレンジャー2、アメリカがM1エイブラムスの供与を表明したことにより、ドイツもポーランドなどから出されていたレオパルト2の輸出許可を出すと同時に、自国からもレオパルト2A6の供与を発表。当初は14両であったが、2月24日には18両に増強すると明らかにした。これと並行し、ラインメタルから要望が出されていたレオパルト1A5戦車の輸出についても、2月7日付で178両分の輸出ライセンスを発行している。


各国が供与するのは「余剰在庫」

 今回ウクライナに供与されるレオパルト2は、レオパルト2A4とレオパルト2A6の2タイプに分かれる。レオパルト2A4はポーランド、ノルウェー、カナダ、スペインから提供され、レオパルト2A6はドイツ、ポルトガル、スウェーデンが提供する。

 これらの戦車は、基本的に「余剰在庫」となっている、もしくはなる予定のもの。ちょうど各国では防衛装備を刷新するタイミングにかかっており、旧式となったレオパルト2はメーカーのラインメタルに返却される予定となっていた。それをウクライナへ振り向けるという仕組みである。


各国の供与状況

 ポーランドでは2035年までの予定で防衛装備の刷新を図っており、戦車に関しては韓国製のK2を主軸に、M1エイブラムスとレオパルト2A5へと移行する予定。

ポーランドの次期主力戦車となる韓国製K2(画像:ポーランド国防省)
ポーランド軍のM1エイブラムス(画像:ポーランド国防省)
ポーランド軍のレオパルト2A5(画像:ポーランド国防省)

 レオパルト2A4のうち、レオパルト2PLへアップグレードされていない14両が供与対象となり、2月24日に第1陣となる4両がウクライナに到着している。

ウクライナに到着したポーランドからのレオパルト2A4(画像:ウクライナ国防省)

 カナダはレオパルト2A6M CANへと装備の更新が進んでおり、余剰となる8両のレオパルト2A4をウクライナへ提供。1月27日付で最初の4両がウクライナ側へ引き渡され、残る4両も2月24日現在で選定が進んでいる。

ウクライナに到着したカナダからのレオパルト2A4(画像:Crown Copyright)

 ポーランドとカナダはウクライナ戦車兵の教育訓練でも協力しており、現在ポーランドのシフィエントシュフにある第10機甲騎兵旅団の訓練センターで搭乗員と整備士の訓練を実施している。

ポーランドで訓練中のウクライナ兵(画像:ポーランド国防省)

 ノルウェーは2020年より新型戦車の導入を検討していた(候補はレオパルト2A7と韓国のK2)が、2023年2月にレオパルト2A7を54両導入することを発表。2025年より納入が始まることとなった。

 これにより余剰となるレオパルト2A4のうち8両と、支援車両4両をウクライナに供与すると1月26日に発表。3月21日にウクライナへ到着したと発表している。

ノルウェーから民間輸送機でウクライナへ送られるレオパルト2A4(画像:ノルウェー国防省)

 スペインは計10両のレオパルト2A4をウクライナへ供与。このうち6両は、ジェナエラル・ダイナミクス・ヨーロピアン・ランドシステムズの工場(旧サンタ・バルバラ・システマス)で再整備を完了したと3月23日に発表されている。追加の4両も間もなく到着する予定とのことだ。

スペインで再整備中のウクライナ向けレオパルト2A4(画像:スペイン国防省)

 レオパルト2A6を供与するドイツは、現有装備のうち104両をレオパルト2A7Vへと改修中。このうち改修対象とならない14両をウクライナへ供与すると2023年1月25日に発表。その後4両が追加され、計18両と戦車回収車2両が2023年の第1四半期までに供与されることとなった。

ドイツ軍のレオパルト2A6(画像:Bundeswehr)

 ミュンスターにある訓練センターでは、ウクライナ人搭乗員と整備士に対する教育訓練が実施されている。カリキュラムはシミュレータと教習戦車を用い、1日あたり12時間で週6日、6週間という短期かつハードなもの。事態の緊急性に鑑み、ドイツ労働基準法の枠外とされている

ドイツで教習戦車による訓練を受けるウクライナ兵(画像:Bundeswehr)
ドイツでシミュレータ訓練を受けるウクライナ兵(画像:Bundeswehr)

 実弾射撃訓練はベルゲンの演習場で実施されている。事前にシミュレータ訓練を十分に行うことで、訓練生たちは比較的早くレオパルト2での射撃をマスターしているようだ。

 ウクライナ兵への訓練は、単純に「支援」だけではない。ウクライナ兵からはロシア戦車との戦闘経験がフィードバックされ、NATOの対ロシア戦略にも資するWin-Winの関係になっていることにも注目したいところだ。


ドイツの間接的軍事支援

 ドイツのウクライナ支援は直接的なものだけではない。2022年8月にはスロバキアが製造し、ウクライナへ供与するズザナ2自走砲16両に関して、デンマーク、ノルウェーと共同で資金(総額9200万ユーロ)を拠出することで合意するなど、間接的な支援も行なっている。

 また、旧東側のNATO加盟国がウクライナへ防衛装備を供与した場合、ドイツからの装備品供与で穴埋めする「Ringtausch(リング交換)」という枠組みも2022年4月から始まっている。一例として、旧ソ連製の歩兵戦闘車BMP-1をウクライナに供与したチェコは2022年5月に、スロバキアに対しては2022年8月23日に、穴埋めとしてそれぞれ15両のレオパルト2A4を供与することが合意された。

ドイツによる「Ringtausch(リング交換)」の仕組み(画像:Bundeswehr)

 2023年3月20日現在、スロバキアではザホリにおいて、ドイツから供与されたレオパルト2A4の運用試験が続けられている。

ドイツからスロバキアに供与されたレオパルト2A4(画像:スロバキア国防省)

 スウェーデンは、レオパルト2A5の改良型であるStrv 122を最大10両供与すると2月24日に発表。仕様は微妙に異なるものの、レオパルト2A6と同じように運用されることが見込まれる。

スウェーデンのStrv 122(画像:スウェーデン国防省)


イギリスのチャレンジャー2供与

 このほか、イギリスはNATO加盟国の先陣を切ってチャレンジャー2を14両(1個大隊分)供与することを発表した。2021年よりイギリスではチャレンジャー3への改修計画が進められており、2027年から計148両がラインメタルBAEシステムズ・ランド(RBSL)で改修される予定。ウクライナへ供与されるのは、改修対象とならない79両のうちから捻出されたものだ。

チャレンジャー3の試作車(画像:Rheinmetall AG)

 現在イギリス国内でウクライナ兵に対する訓練が実施されており、2023年2月22日にはベン・ウォレス国防大臣が視察に訪れたことが発表されている。

教習戦車で訓練を受けるウクライナ兵(画像:Crown Copyright)


アメリカのM1エイブラムス供与

 アメリカからは31両のM1エイブラムスが供与されると2023年1月にアナウンスされていた。しかし、レオパルト2やチャレンジャー2が春に引き渡されるのに対し、1年後の引き渡しとなる見通しが示されていた。

アメリカのM1A2エイブラムス(画像:DoD)

 それでは緊急性に対応できないとして、アメリカ政府は方針を転換。新品のM1A2を供与する計画を、余剰となっているM1A1を再整備して供与することに変更し、秋までに引き渡されることが2023年3月21日、明らかになった。すでにウクライナ兵に対する訓練も始まっているという。


サポート体制と今後の見込み

 これら供与された戦車が力を発揮するには、弾薬の補給や整備などの後方支援が不可欠。これについてEUでは2023年3月20日にブリュッセルで会合を開き、欧州防衛機構(EDA)を通じて18ヶ国が共同でウクライナへ弾薬を供給することで合意した。

Strv 122に弾薬を補給するスウェーデンの戦車兵(画像:スウェーデン国防省)

 この合意によると、参加各国は備蓄している弾薬(5.56mm小銃弾から155mm砲弾まで)をウクライナへ供与する代わりに、補充分をEDAを通じて受け取ることができる。計画では7年間の期間が設定されており、ウクライナでの戦闘が長期化することも見越した措置となっているのが特徴だ。

 ドイツとポーランドの合意により、レオパルト2の修理・整備拠点はポーランドに置かれ、ポーランドの防衛産業であるブマル・ワベンディが担うことになっている。

 これらのバックアップを得て、レオパルト2とチャレンジャー2は4月ごろから本格的にウクライナ国内で活動が始まる。とはいえ、整備用部品や弾薬の供給体制を考えると、あまり遠くへの戦線には投入しにくいのが実情だ。兵站が構築されるまでは、補給のしやすい首都キーウに近い地域で少しずつ運用されるのではないか。本格的な攻勢は夏頃を待つことになるだろう。

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