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ボールペン

 ここに1本のボールペンがある。

 当時、「This is a pen」と言う言葉が流行っていた。

 このボールペンは、今から45年前、私が学生だった頃に拾ったものだ。

 あれは、蝉が鳴く、暑い夏の午後だったと思う。

 中学生だった私は、学校の帰り道。近道を通ろうと、通学路から外れ、砂利の駐車場を突っ切ろうとした。

「何だ?あの光っているものは!」

 私が進む先に、何やら光るものがある。

 近づいてみると、それは、銀色に輝く1本のボールペンが落ちていた。

 私は、それを手に取ると、意外にもずっしりと重い感じだ。

「ボールペンか?」

「おッ!書ける、書ける。」

 私は、落とし物なら警察に届けた方が良いのか悩んだ。

「たかがボールペン、わざわざ落とし主など出て来ないだろう。」

「それに、落としてからもう数日は経っていそうだ。」

 私は、ボールペンを胸のポケットに差すと、家路へと向った。

 月日が流れ、あの日以来、そのボールペンを愛用するようになっていた。

「しかし、なんて滑らかに書けるボールペンだろう!」

「メーカーはどこだ?」

 私は、ボールペンに書かれている横文字を読んだ。

「CROSS?クロス、と言うのか?」

 私は、使い込む程に、燻銀のように鈍く輝く、このボールペンが好きだった。

 ある日、母親が何かの商品カタログを見ていた時。

 私は、何気にカタログを覗き込むと、あのボールペンが載っているではないか。

 私は、母からカタログを奪い取るとそれを見た。数種類のボールペンや万年筆が載っていたが、その中に、あのボールペンがあった。

 値段を見ると、なんと ¥10,000 チ〜ン

「エ〜ッ!10,000円!」
私は、思わず叫んでしまう。
「そんなにするの!これ!」

 その日から、このボールペンは、私の宝物に変わった。

 何度もインク芯を交換しながらも゙使い続け、45年も゙経ってしまった。

 あの日の事が、思い起こされるが、もう時効だろう。

 今では、CROSSのボールペンを数本所有し、腕時計までCROSSだ。

 このボールペンは、本物

 本当に良いモノは長く使える。まさに一生物とはこの事か。

 最近は、パソコンや携帯電話の普及にともない、文字を書くことが減ってきた。また、水性ボールペンなど、安価でよく書けるものも多く出回っている。

 皆さんも、自分のペンと呼べるものを、1本所有してはどうか?

「えッ、元々お前のペンじゃないだろう!」

 これまた、失礼致しました。
 今日のところは、この辺りで。

 2023年12月4日 著

著 者  宮澤重夫

 平成30年に陸上自衛隊化学学校
化学教導隊副隊長を最後に退官
 現役時代に体験した、地下鉄サリン事件や福島第1原発事故対処等の経験談を執筆中

主な資格等
防 災 士
第2種放射線取扱主任者
JKC愛犬検定最上級

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