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青天の霹靂59(白の貴公子)

それは、皆で買い物に来ていた時だった。
お店で、何故か驚いた声がかかる。
「えっ、白の貴公子?」
そう呼ばれて、廉は驚く。
「君は?」
「すいません。呼び止めてしまって、でも、探してたんです。お話ししたいことがあって、聞いてもらえませんか?」
相手は何か焦ったように言う。
それを見て、廉もただ事でないことを感じ、相手を促す。
「どうぞ」
「ありがとうございます。あの、私、勝人様から伝言を預かって来ました。聞いてもらえませんか?」
その名を聞き、廉は驚いていた。
「勝人から、何?」
「はい、ありがとうございます。それを、お伝えします。『お前に俺が止められると言うなら、止めて見せろ』と」
彼女が言うと、廉は苦笑いをする。
「止めてくれじゃなく、止めて見せろか。勝人らしいな」
「たぶん、それが勝人様から精一杯の甘えかと?」
勝人を思い浮かべる。
勝人はたぶん、顔を真っ赤にしながら言う。『んなわけ、ないだろう』と。
その姿が容易に想像出来、廉は笑う。
「だな」
「ねぇ、廉兄。勝人さんってこの間、話で聞いた人?」
「そうだ。で、君は?」
「あっ、申し遅れました。二宮千花(ヒノミヤチカ)と申します。京極様がお辞めになる少し前に入りました。Xでは、京極様は辞めてからも、ねず良い人気でした。今も人気ですよ。そんな、京極様とお話し出来るなんて夢みたい」
「その様付けは、ちょっと勘弁」
廉は額を押さえる。
「あっ、申し訳ありません。じゃあ、何とお呼びすれば良いですか?」
「廉で良いかな」
「それは、出来ません。廉さんじゃ駄目ですか
「ああ、それで良いかな」
「ねぇ、白の貴公子って、何?」
廉夏が聞くと、「それは、あの頃の呼び名だ」と、ちょっと、顔を赤くして、廉は言う。
それを聞いて、プッと廉夏は吹き出す。
「それにしても、白の貴公子か。すごいね。噂って、怖い。何言われるか、分かったものじゃない。それに、白って廉兄と一番対極にある色だと思うよ」
その言葉に廉はやれやれと言う顔をする。
「で、止めて見せろって勝人は何をやったんだ?」
そう、廉が聞くと、それまで、顔を輝かせていた彼女の顔が一瞬で曇る。
「あの人は、寂しい人です。とても深い孤独の闇が支配している人です。ほとんどの人が菅野様の身内だから大丈夫だろうと気づていませんが」
「そうだな。俺もそう思っていた。孤独の闇か? あいつは、そんな中で生きてきたんだな」
「私も彼の心の闇の深さを見誤りました。彼の闇は、私が思っている以上に深かった、凄く」
「でも、君だけだと思うよ、勝人の闇を理解していたのは」
「ですが、勝人様もご自分を制御できなくなり、私に刃を向けました。それを菅野様が、庇って下さいました。それにより、菅野様は亡くなり、勝人様も自分が菅野様を殺してしまったことで、彼の心の均衡が壊れてしまいました。その中で、私に貴方への、伝言を託しまし」
「勝人の言葉確かに受け取った。二宮さん、ありがとう」
廉は胸の前で拳を作る。
「あいつを、見返すために何が何でも、止めなきゃな」
そう言われ、廉は気づいていた。
止められらるかと言いながら、止めてくれと言う彼の思いに。
「ええ、あの人の闇はとても深いです。お互い、闇を抱えているので、慰め有ってきた。でも、私じゃ、あの人の闇は埋められなかった」
「埋められない闇か? 俺が抜けた15年前から、今日までに、何か変わったことは、無かったか?」
「特にこれって言うのは、ただ、本宮雅人(モトミヤマサト)さんが勝人様付きになったことぐらいでしょうか? それも、勝人様からの押しで。菅野様はだいぶ反対していましたけど」
「本宮って、あの何か得体の知れない奴か?」
「廉兄も知ってるの?」
廉夏が聞く。
「ああ。得体の知れない人だったよ」
廉にはその人物に、心当たりがあるらしく言う。
でも、何やら思うことが廉にはありそうだ。
「廉さん、どうしました?」
「いや、俺は少しあの人が怖かっただけだ」
「どう言うところが?」
「あの人の心の内が全く読めなかった」
「別段、普通のことでは?」
「そうとも言えるな。ただ、俺はあの人が怖かったんだ。笑顔だったけど、何企んでいるのかが、俺には分からなかった」
そして、廉はハッとする。
「そうか、そうだったんだ」
「何が?」
「何でもないよ」
廉夏の言葉に、廉は、否定して笑う。
廉夏は聞く。
「廉兄も知っている人?」
「ああ。あいつのいつも一歩後ろに控てたよ。凄く、控えめな人で怒ったところなんか、みたこと一度もない。彼は、勝人のお守り役みたいなものだった。でも、俺にはあの人が何を考えているのかが、全く分からなかったよ」
「廉兄に、そこまで言わせるなんて、凄いね。じゃあ、その人何がやりたかったんだろう?」
「俺にも良く分からないな。俺を留まらせたのは、廉夏の存在が大きいな」
「えー。私?」
廉夏は驚く。
「お前が、生まれて直ぐに、俺が家に立ち寄った際、俺が出て行こうとすると、泣いたんだ」
「別に赤ちゃんなら、泣くの普通じゃない?」
「確かに普通だな。ただ、泣くだけならな。あれには、参ったぞ。お前は俺が帰って来るまで、3日間泣き続けたらしい。流石に俺もこれには、引いたな。で、ホトホト困り果てた母さんにお前に付いていてくれと、頼まれた。さらに、お前が俺の服をしっかり握りしめていて、俺が出掛けるのを阻止した。もう、笑うしかないだろう」
廉夏はそれを聞いて、小さくなる。
「ごめんなさい」
「いや、お前には感謝している。俺に家に戻る切っ掛けをくれた」
「じゃあ、勝人さんも廉兄にそんな存在になって欲しいのかもよ」
「落ちようとしているあいつを、俺が繋き止められるのか?」
「だから、伝言を託してくれたじゃない」
「そうだな」
「勝人さんは廉兄に、それになって欲しいんだよ」
「勝人を繋ぎ止めている存在に俺がなれるのか?」
廉の言葉に千花は頷く。
「ええ。勝人様も、落ちずに、止まっています。だから、私に貴方への伝言頼んだんだんだと思います」
「そうだな。でも、あいつが落ちない理由は他にも有りそうだけどな」
そう言って、意味深に千花を見るが、廉に頭を下げる。
「お願いします。勝人様を助けて上げてください。あの深い闇から救って上げて下さい。私じゃダメだったから」
「お前?」
廉は、千花の思いに気づく。
「そうです。私は、勝人様が好きでした。それは傷を舐めあってきたから、そう思うのかもしれないけど」
千花は寂しそうに言う。
「そうじゃないだろう。ただ、純粋に好きなんだよ。傷の舐めあいなんか、関係ない。俺が、気づきもしなかったあいつの闇に君は気づき、支えようとしていたじゃないか。それは、君にしか出来なかったことだ。あいつがまだ、止まっているのは、君のおかげでもある。ありがとう。あいつの友として礼を言う」
それを聞き、千花は泣く。
「ところで、なぜ、勝人は潤を殺した?」
「私もその頃はもう組織を抜けていたので、勘ですが、多分、潤さんが、菅野様の意志を継いでXを滅ぼそうとしたからです。勝人様は、それが、間違っていることは分かっていましたが、それを認めることは、自己否定につながります。それぐらい勝人様にとっては、Xが全てでしたから」
「じゃあ、廉兄の予想通りだね」
「ああ」
「どういうことですか?」
不思議そうに、千花が聞くと廉は、静かに話し始めた。
「たぶん、勝人は潤の気持ちに気づいたからだ。だから、潤を助けるために、潤に手をかけなきゃいけなかったんだ」
「助けるって、どういうことですか?」
千花は泣きながら、聞く。
「菅野さんが亡くなり、潤にとっては菅野さんが全てだったからな。あいつは。だから、菅野さんの後を追いたいって、思っていたはずだ」
「そんな。じゃあ?」
「勝人は自分が菅野さんを殺めたばかりに、潤が壊れそうになっていることに気付き、自分が終わりにしてあげたんだ。それが、友に出来るただ一つのことだから」
「そんな、じゃあ、勝人様が可哀想すます」
「ああ、だから、私たちがその、闇から救わないとな」
「ええ、絶対に」
千花も頷く。
「勝人を助けたい、そのために、Xを壊すぞ」
「ええ、でもどうしますか?」
冬眞は聞く。
「そんなの決まってる。裏道からだ」
廉は自信満々に言う。
それに千花は笑う。
「本当に京極様なら、できそ」
「出来るか、出来ないか、じゃない。やるんだ」
きっぱり、廉は言い切った。。
「何も俺たちは、別に勝人を傷つけに行くわけじゃない。Χを、壊しに行くだけだ」
「ですが、組織には、多分警護のものがいるはずです」
「大丈夫、学生の時に俺たちだけが知っている抜け道を発見したから」
「でもと言うことは、勝人様も知っているということですよね?」
「そうなるな。でも、君があいつからの言葉を伝えてくれて良かったよ。そこに、警護はおいていないよ」
「なんで、そんなこと?」
「だって、伝言で自分を止めて見せろと言ったってことは、俺が来るのを待ってるってことだろ? それなのに、来るのを阻むことはないだろう」
「そうですね」
「じゃあ、行こう」
日向が言うと、廉が止める。
「イヤ、待て。今回は俺と千花だけで行く」
「止めても、無駄なんだろうね」
廉夏はそう言うと、廉は頷く。
「止めないけど、絶対二人で帰ってきてね」
「ああ」
と廉は、頷く。

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