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ジンオウガにおける頭部の形態進化  ー後編:角(ツノ)ー 

 新年度前後でバタバタしてしまい、更新が遅くなってしまいました。気を取り直して投稿していきますので、よろしくお願いいたします。また、今回の記事はかなり生態学に寄った内容です。私は生態学の専門家ではないので、間違ったことを言うかもしれませんがご容赦ください 。楽しんでいただけたら幸いです。

 突然だが、頭に角をもつ動物(特に爬虫類、鳥類、哺乳類)を想像してみてほしい。シカ、サイ、ウシ、ガゼル、、、うーん、、、どれも草食である。肉食で角をもつ動物はいるだろうか?。昆虫食を肉食として良いのであれば、ジャクソンカメレオンは角をもつ肉食動物と言えそうだ。絶滅した肉食動物の種で言えば、カルノタウルスも角をもっていたとされる(ほぼコブみたいに見えるが、、、)。少なくとも、草食動物のように頭部と同等かそれ以上の大きさの角をもつ肉食動物は、現実世界には存在していないと考えられている。

 なぜ、肉食動物は、草食動物がもつような角を獲得しなかったのだろうか。草食動物において角は、天敵(捕食者など)への対抗手段や同種間の争いのための"武器"として機能する。ほかにも求愛のためのディスプレイや体温の放熱といった役割があることも指摘されているが、雌雄問わず角がある種が存在したり、放熱を必要としない寒冷地帯に生息する種も角をもつ場合があることから、角=武器 がもっとも一般的な定説であろう。肉食動物では、顎に備わるや四肢に備わるが捕食や攻撃のための武器として進化した場合が多く、その上で角という新たな武器が備わることは選択されなかったと結論づけられている。
 前置きが長くなってしまったが、本稿の主役であるジンオウガの頭頂部には、頭部と同等の大きさほどもある角が備わっており、これは肉食動物の進化の中ではきわめて異例である。

図1. 雷狼竜ジンオウガの頭部形態
 ジンオウガでは、頭部と同等以上の大きさを誇る角が頭頂部から前方に向かって突出している。「モンスター生態図鑑」内で登場する本種の骨格イラストによると、この角は骨ではなくケラチン質からなるものと考えられる(詳細は「ジンオウガにおける頭部の形態進化:前編」を参照)。本種では、下顎の先端部にも前方に向かって突出したケラチン質の突起が備わっている。

 ゲーム内で対峙したことのあるモンハンプレーヤーならご存じの通り、ジンオウガは角を突き上げることで攻撃を行う。確証はないが、筆者は、ジンオウガは角を二次的に攻撃に利用しているだけで、本種における角の進化の背景には、本種固有の生態が関わっていると考えている。それは、帯電および放電行動である。

図2. ジンオウガの帯電および放電行動
 本種ではまず、蓄電殻と呼ばれる黄土色の甲殻の内部で微弱な電気が生成され、生成された電気は帯電毛と呼ばれる白色の毛によって増幅される。次いで、共生関係にあり周囲を飛び交う雷光虫を自身の帯電毛に付着させることで本種由来の電気が雷光虫に供給される。電気を与えられた雷光虫は、その電気を爆発的に増大させる(原理は不明)。雷光虫が増幅した電気を自身の周囲に放電させ、それを帯電毛に纏うことで、超帯電状態となる(詳細はヨンドンさんのYouTube「【MH】歴代のジンオウガ咆哮集」を参照)。

 ジンオウガは、超帯電状態となる際、必ず顔面を上に向けた体勢をとる。この体勢以外で超帯電状態になる個体は今日まで確認されていない。筆者は、この体勢にこそジンオウガの角の意義が隠されていると推察する。結論から先に言おう。ジンオウガの角は、超帯電状態になるための雷光虫の放電から頭部を護る役割を担っているものと考えられる。
 先述した通り、ジンオウガの角は、我々ヒトの爪や髪の毛同様、ケラチンと呼ばれるタンパク質で構成されている可能性が高い。ケラチンの特徴の一つとして、電気を通しにくい(絶縁性が高い)性質がある。脊椎動物の頭部には神経系の中枢である脳をはじめ眼、耳、鼻などの主要な感覚器官が備わる。ジンオウガが自身の周囲に放電を行う際、頭部の感覚器官に通電してしまっては、命に関わる危険性がある。そこで、ジンオウガは放電時に顔面を上にむけ、帯電毛と頭部感覚器官の間に絶縁性の高い角と顎の突起が位置する体勢をとることで、放電時の感覚器官への通電を避けているものと予想される。ジンオウガの角は、本種の蓄電・帯電能力の獲得とともに、放電から自身の頭部を護る形質として進化した可能性を指摘したい。

 少し話は逸れるが、ジンオウガの弱点属性は、氷および水である。これら二つの物質の共通点は、電気を通しにくいことである。水は電気を通すのではと思う人がいるかもしれないが、自然界に存在する水(川、海、雨など)や人々の生活を支える水道水、飲料水には多くのイオン(Na+、Ca2+、Mg2+など)が含まれており、これらのイオンによって電気が通るようになっている。一方、研究に用いられる純水は、総じてイオンが取り除かれているため絶縁性が高い。氷が電気を通しにくい仕組みについては、ネットにたくさん情報があるのでわざわざ語るまでもないだろう。
 上記の事実を踏まえると、氷属性武器がなぜジンオウガに有効かはすぐにわかる。絶縁性の高い氷をジンオウガの帯電毛および蓄電殻内に含ませることで、本種の蓄電および帯電のための経路を阻害することができる。一方で、氷属性ほどではないが、水属性武器がジンオウガに有効な理由については二つの仮説があげられる。水属性武器が放つ「水」の純度が高く絶縁性が高い場合は、氷属性武器と同様の効果があると思われる。しかし水の純度が低く導電性が純水よりも高い場合、その水を本種の体内に含ませることで、蓄電および帯電経路を必要以上に活性化させて適切な制御を行えなくさせることができる可能性が高い。いずれにせよ、氷と水の両属性がジンオウガに有効な理由は、本種固有の生態である蓄電・帯電に異常をもたらすことができるためであると予想される。

 いかがだっただろうか。モンスターの形態進化の由来をその生態的特徴から見出すのは、筆者としても初めての試みであった。また、ジンオウガの生態をモデルに、モンハンシリーズにおける概念である「属性」にも考察の幅を広げてみた。今後は、モンスターの形態・進化を基軸としながらも、より学際的な視点で考察を行ってゆきたいところである。


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