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『アクムのアクマ』ミニ小説③

「ここだよ。」
ゆんちゃんは、こちらを振り向いて言いました。私は怖くて、ゆんちゃんを握る手に少しだけ力を込めました。
面白いところがあるけど見てみない、と誘われてついてきたところには、大きな古い洋館のようなものが建っていました。それは、指先でちょんと触れただけでクシャっと崩れてしまいそうな、でも、どれほど大きな隕石が降ってきてもはじき返してしまいそうな、ちぐはぐな印象の洋館でした。奥にはおかしな形の月がプカプカと浮かんでいて、建物を妖しく照らし出していました。
「ねえ、はいってみない。」
ゆんちゃんは少し楽しそうです。でも私は、一歩入ったらそれだけで、もうこれ以上進めないと思いました。この先は、私の知ってる常識は通用しない世界のような気がしたからです。りんごは上から下に落ちないかもしれない。体が真っ二つに割れても死なないかもしれない。
それに、一歩踏み入れると、その足にぐちゃぐちゃとした空気がまとわりつき、私じゃない誰かの、とっても嬉しい気持ちや悲しい気持ちや怖い気持ちが流れ込んでくるようでした。それらはあまりにも重すぎて、苦しくて、これ以上は耐えられそうにありませんでした。
せっかくゆんちゃんが連れてきてくれたんだから頑張らないとと思いましたが、それでも嫌悪感の方が勝ってしまいました。
「ごめん、ゆんちゃん、ゆんちゃん」
喉から声を絞り出しました。先を步いていたいっちゃんが、どうしたのと振り返りました。
「私行きたくない。居られない」
ゆんちゃんは私の目をじっと見つめたあと、「そう」と、優しい声で言いました。

「嫌なこと、ちゃんと嫌だっていえるようになったね。」
ゆんちゃんはとても嬉しそうです。
私も少し嬉しくなりました。
「じゃあ帰ろっか。」
私たちはその不思議な建物に背を向け、帰ることにしました。

背中に視線を感じて振り返りましたが、特に誰もいませんでした。






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劇団bamite 対面公演
『アクムのアクマ』

脚本・演出 山根明莉

○場所
守山宿町家 うの家 南蔵
(滋賀県守山市守山一丁目10-2)

○日時
2024/3/9(土) 12時〜 15時〜
2024/3/10(日) 12時〜 15時〜

○料金
無料カンパ制

○注意事項
・舞台「アクムのアクマ」は完全予約制公演です。当日券はございませんので、ご了承ください。
・舞台「アクムのアクマ」は観客参加型の公演を予定しております。
お客様同士やキャストと会話していただく場面がございます。
・階段の上り下りを含む移動をしていただく場面もございます。動きやすい服装、少ないお手荷物でのご参加をお願いいたします。
・小学生以下のお客様は、保護者(高校生以上)の方同伴でのご参加をお願いいたします。
・SNSの予約フォームの他に、メールアドレスからのご予約も受け付けております。[bamite.gekidan@gmai.com]へお気軽にご連絡ください。
・新型コロナウイルスの拡大等により、公演を中止する可能性がございます。ご理解のほどよろしくお願いいたします。

⚪︎ご予約はこちらから↓
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⚪︎お問い合わせ↓

bamite.gekidan@gmai.com

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