山根明莉

演劇がすき。

山根明莉

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『アクムのアクマ』ミニ小説③

「ここだよ。」 ゆんちゃんは、こちらを振り向いて言いました。私は怖くて、ゆんちゃんを握る手に少しだけ力を込めました。 面白いところがあるけど見てみない、と誘われてついてきたところには、大きな古い洋館のようなものが建っていました。それは、指先でちょんと触れただけでクシャっと崩れてしまいそうな、でも、どれほど大きな隕石が降ってきてもはじき返してしまいそうな、ちぐはぐな印象の洋館でした。奥にはおかしな形の月がプカプカと浮かんでいて、建物を妖しく照らし出していました。 「ねえ、はいっ

    • 『アクムのアクマ』ミニ小説②

      なんとなく、本当になんとなくの気まぐれだった。 いつもと違う道で帰ろうと思った。 家から駅に帰る道は幾通りかあり、この日はあまり使わない細い道から帰ることにした。 近所とはいえ普段は通らないので、たまに迷いそうになりながら歩いていくと、小さな神社が現れた。 懐かしいなと思い、気がついたら中に入っていた。 広場の真ん中に立ち、辺りを見渡す。 すっかり静かになってしまったものだ。昔は毎日ここら辺の子どもたちが集まって遊んでいたのに。ままごと、ポコペン、大縄跳びしたり、一輪車は苦手

      • 『アクムのアクマ』ミニ小説①

        あぁ、嫌だ、本当に嫌だ。 明日なんて永遠に来なければいいのに。 私は今、絶望の淵にいる。 明日はインフルエンザの予防接種だ。 朝8時半からの受付に行かないといけない。土曜日だというのに7時には起きないといけないというのはまだ許せる。 私はこの世で一番注射が嫌いなのだ。 幼少期、検査で採血をしたときのことだった。いつもより大きな注射器が出てきたときは恐怖心が暴れだしそうになったが、母に、頑張ったらその日の夕飯は大好きなイタリアンのお店に連れて行ってあげると言われていたので、必

      『アクムのアクマ』ミニ小説③