高橋英光

認知言語学の観点から言語とコミュニケーションのしくみを研究。北海道大学名誉教授。市河賞…

高橋英光

認知言語学の観点から言語とコミュニケーションのしくみを研究。北海道大学名誉教授。市河賞(第46回)と日本英語学会賞(第5回)受賞。映画に潜む言葉とコミュニケーションの問題をできるだけわかりやすく正確に楽しく書きます。気楽に目を通していただくとうれしいです。

最近の記事

映画が導く言語学 4           「お名前はアドルフ」(Der Vorname)

人は名前によって運命をどれくらい左右されるのだろうか。「お名前はアドルフ」(Der Vorname)というドイツ映画が2018年に公開された。公式ホームページによると、「90分間リアルタイムでハラハラドキドキ!素敵なデイナーで繰り広げる、名付けを巡る家族のバトル」の映画である。国語教師のエリザベトと大学教授の夫シュテファンは弟のトーマスとその恋人アンナと夫婦の幼馴染の友人レネをデイナーに招く。遅れて参加するアンナは妊娠中でありトーマスは生まれてくる赤ちゃんは男だと言う。名前は

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      映画にはふつう主人公がいる。スパイ、悪人、怪人、歴史上の英雄など特別な人もいればふつうの人のこともある。時には学者が主人公になることもある。例えば、「イミテーション・ゲーム/エニグマと天才数学者の秘密」(The Imitation Game、2014年公開のアメリカ映画)のイギリスの数学者アラン・チューリング。「奇蹟がくれた数式」(The Man Who Knew Infinity”、2016年公開のイギリス映画)のインド人の数学者・シュリニヴァーサ・ラマヌジャン。「博士と彼

      • 映画が導く言語学 2          「マイ・フェア・レデイ」と「舞妓はレデイ」

        「いんでちゃん、カイベツの味噌汁飲むかい」と祖母が聞いた。「いんでちゃん」とは私のことである。本当は「ひでちゃん」だが。「カイベツ」って何だろう?貝だろうか?、などと考えながら鍋の中を覗きこむとそこにはキャベツが入っていた。祖母は生まれが秋田であった。若い時にまだ幼かった私の母を連れて札幌に移り住んだらしいが、秋田弁の強い訛りは消えなかった。祖母は自分を「おれ」、ハタハタという魚を「はんだはんだ」と言い、電話には「もすもす」と答えた。私の母は札幌に来た当初、顔を「つらっこ」と

        • 映画が導く言語学 1           「コーダ あいのうた」(Coda)

          『コーダ あいのうた』(Coda、2021年公開のアメリカ映画)の主人公は女子高生ルビーである。彼女はマサチューセッツ州の海辺の町グロスターで両親と兄と一緒に暮らしている。父母も兄もみな温かく仲良し家族である。ただルビーの家族には他の多くの家族と違うところがある。それはルビー以外はみな耳が聞こえないことである。このため家族の中で唯一耳が聞こえ手話もできるルビーは、家業の漁業を毎日手伝い、家族のために色々な場面で通訳の役割を果たしてきた。つまりルビーは耳が聞こえない親を持つ子供

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