消費者委員会:チャットを利用した勧誘の規制等の在り方に関する意見!?

本稿のねらい


2023年8月10日、内閣府に設置されている消費者委員会が、「チャットを利用した勧誘の規制等の在り方に関する消費者委員会意見」(本意見)を公表した。

これは、以前、ドラフトの段階で紹介した「デジタル化に伴う消費者問題ワーキング・グループ報告書」(本報告書)が2023年8月9日に公表されたことを踏まえたものである(意図的に報告書の公表を先にしている)。

この記事では、なぜか消費者庁がよくわからない理屈で書面まで出して反対の立場を示していたことも紹介したが、本報告書はドラフト同じ内容と思われる(比較検証したわけではないが)。

本稿では、本報告書をもとに作成された本意見の内容について見ていくこととする。(本意見の内容はほぼ本報告書と同じだが)

なお、本意見が公表された同日、「多数消費者被害に係る消費者問題に関する意見~消費者法分野におけるルール形成の在り方等検討ワーキング・グループ 報告書を受けて~」という別の意見も公表された。これは、いわゆるポンジスキームと呼ばれる詐欺的商法(この意見中では「破綻必至商法」と名付けられている)に関する規制の在り方について意見を具申するものであり、特に、行政庁による破産申立て権限の創設は興味深いところではある。

※参考:2023年7月20日付け日弁連会長声明


本意見の内容


(1) 意見のサマリ

チャットを利用して、事業者が消費者の契約締結の意思の形成に影響を与える行為により消費者被害が発生していることを踏まえ、消費者委員会は、消費者庁に対し、以下について、チャットの定義を必要に応じて明確にすることも含め、その在り方等について十分に検討を行うことを求める。

  1. 特定商取引法の通信販売において、チャットを利用して事業者が消費者の契約締結の意思の形成に影響を与える行為に対して、勧誘の規制等の導入に向けた検討を行うこと

  2. 上記1に当たっては、以下の内容を含め検討を行うこと

(1)チャットを利用した勧誘に先立って、消費者に対し、事業者名・販売目的等を明示すべき義務を設けること
(2)チャットを利用した勧誘による販売に禁止行為等に関する行政規制を設けること。具体的には、訪問販売及び電話勧誘販売規制を参照し、再勧誘の禁止のほか、不実告知や故意の事実不告知等の事業者による不当性の強い行為については禁止行為とし、適合性原則違反等については指示対象行為とすること
(3)チャットを利用した勧誘による販売に民事ルールを設けること

本報告書やそのドラフトの方向性のとおりである。

なお、本報告書やそのドラフトでもそうであったが、やはり対象とする行為は特商法上の「通信販売における」チャットを利用した勧誘による販売であるものと思われる。

以前の記事でも触れたが、これは電話勧誘販売と比べて不自然な気がする。

つまり、①特商法上、電話勧誘販売と通信販売は明確に区別されていること、②本報告書や本意見において、チャットを利用した勧誘による販売と電話勧誘販売の類似性から規制の新設が求められていることから、チャットを利用した勧誘による販売が、「通信販売における」ものと考えることに違和感がある。

①は、特商法第2条第2項・第3項を見れば一目瞭然である。
要するに、通信販売も電話勧誘販売も、実際の契約の方法(の1つ)は「郵便等」により契約の申込みを受けて行う商品販売又は役務提供を指す点で、「出口」は重複する。
しかし、通信販売と電話勧誘販売を分ける大きな相違点は、勧誘行為の有無であり、電話による勧誘行為がある通信販売的なものが電話勧誘販売となり、それは通信販売の定義からは除かれる。

第2条
 「通信販売」とは、販売業者又は役務提供事業者が郵便その他の主務省令で定める方法(以下「郵便等」という。)により売買契約又は役務提供契約の申込みを受けて行う商品若しくは特定権利の販売又は役務の提供であつて電話勧誘販売に該当しないものをいう。
 「電話勧誘販売」とは、販売業者又は役務提供事業者が、電話をかけ又は政令で定める方法により電話をかけさせ、その電話において行う売買契約又は役務提供契約の締結についての勧誘(以下「電話勧誘行為」という。)により、その相手方(以下「電話勧誘顧客」という。)から当該売買契約の申込みを郵便等により受け、若しくは電話勧誘顧客と当該売買契約を郵便等により締結して行う商品若しくは特定権利の販売又は電話勧誘顧客から当該役務提供契約の申込みを郵便等により受け、若しくは電話勧誘顧客と当該役務提供契約を郵便等により締結して行う役務の提供をいう。

特定商取引法

次項に規定する電話勧誘販売においては、契約の申込みが本項に規定する「郵便等」と同様の手段により行われることから、基本的に通信販売の一類型となる。このため、通信販売のうちから電話勧誘販売に該当するものを除くこととした。

特定商取引に関する法律・解説「第2章第1節定義」11頁(通し番号)

②は、本意見でも触れられているところだが、チャットを利用した勧誘による販売と電話勧誘販売は次のように共通点が多いことから、チャットを利用した勧誘による販売が電話勧誘販売の抜け穴とならないよう、規制を新設する必要性があると考えられている。

本報告書16頁から抜粋

そうだとすると、電話勧誘販売同様、通信販売の定義からチャットを利用した勧誘による販売も除外されるはずである。

また、電話勧誘販売の説明に関し、一度も、「通信販売において」という説明はされておらず(特定商取引に関する法律・解説「第2章第4節電話勧誘販売」130頁(通し番号)以降)、チャットを利用した勧誘による販売に関してのみ「通信販売において」という説明を行うのは不自然ではないだろうか。

(2) 各定義

チャットを利用した勧誘による販売を規制する上で、特に重要な定義は、「チャット」と「勧誘」であるが、後者については電話勧誘販売に関する議論がそのまま妥当するため(特定商取引に関する法律・解説「第2章第1節定義」13頁(通し番号))、実質的には「チャット」の定義さえ定まれば規制をかけることは可能となる。

「チャット」の定義は、本報告書やそのドラフト同様、次のとおりである。

「チャット」とは、受信者を特定して情報を伝達するために用いられる双方向の通信であって、通信内容の記録が受信者に提供されるもの(電子メールを除く

本意見3頁

この定義には、重要な要素が4つ含まれている。

  1. 特定の受信者への通信であること

  2. 双方向の通信であること

  3. 通信内容の記録が特定の受信者に提供されること

  4. 電子メールは除かれること

まず、1点目により、FacebookやTwitter等のいわゆるSNSにおける不特定多数者に向けた投稿機能を用いた発信・通信は含まれないことになる。

同様に、2点目により、基本的に一方向の通信である投稿機能を用いた発信・通信は含まれない。

3点目は、チャットのチャットたる理由になると思われるが、文字記録であることを表している(書面や電報との地続き感)。

4点目は、政策的あるいは規制の根拠の問題(電話勧誘販売との類似性)と関係するが、今回規制の対象としたいチャットを利用した勧誘による販売は、双方向性に加えて「即時性」が重視されており、電子メールは社会通念上即時性が(相対的に)低いとされているなど、通常想定するチャットとの機能的な相違点が多いことから、電子メールは規制対象から除かれる。したがって、電子メールを利用した勧誘による販売は、現時点では空白地帯となっている(通信販売としてのみ規制され得る)。

本意見では、本報告書やそのドラフト同様、「チャットを利用した勧誘」や「チャットを利用した勧誘による販売」も次のように定義されているが、これには違和感があることは上記のとおり。

«チャットを利用した勧誘»

通信販売において上述のチャットを利用して事業者が消費者の契約締結の意思の形成に影響を与える行為

本意見3−4頁

«チャットを利用した勧誘による販売»

(チャットを利用した勧誘に)より取引を行うもの

本意見4頁

そのうち、規制対象とされるチャットを利用した勧誘による販売は、電話勧誘販売同様、不意打ち性があるものに限定されることが考えられている。

電話勧誘販売においては、電話の不意打ち性や覆面性という特性から電話勧誘を受ける者が電話を切りにくい状況に置かれ、また電話をかけることの容易性から、販売業者等が執ような勧誘を容易に行い得るといった特性を有しており、電話勧誘を受ける者が自らの意思に反して取引に引き込まれやすいといった問題を有している。

特定商取引に関する法律・解説「第2章第4節電話勧誘販売」131−132頁(通し番号)

つまり、規制対象は、チャットを利用した勧誘による販売のうち、不意打ち性があると考えられる下図【類型①】と【類型②】に限られ、不意打ち性がないと考えられる下図【類型③】は規制対象外となる。

本報告書案18−19頁や本WG第13回【資料3】4−6頁を参考に2023年7月28日筆者作成

(3) 規制内容

本意見では、本報告書やそのドラフト同様、3つの規制が示されている。

  1. 勧誘に先立っての事業者名・販売目的等の明示

  2. 禁止行為等の創設

  3. 民事ルールの創設

以下、以前の記事のコピペである。

1 勧誘に先立つ事業者名・販売目的等の明示

本報告書案19−21頁を参考に2023年7月28日筆者作成

2 禁止行為等の創設

本報告書案21-23頁を参考に2023年7月28日筆者作成

3 民事ルールの創設

本報告書案23-25頁を参考に2023年7月28日筆者作成

今後の予想


本稿執筆時点(2023年8月21日)では、本報告書ドラフトの内容について議論を行った「第15回デジタル化に伴う消費者問題ワーキング・グループ」の議事録は公開されていない(内閣府ウェブサイト)。

そのため、消費者庁をどのようにやり込めたのか、あるいは消費者庁による反撃・抵抗があり得るのかということはわからない。

本意見において、「チャット」の定義の検討も含め消費者庁に委ねられており、それを極力狭小にすることにより、妥協されるのかもしれない。

しかし、「チャット」の定義を狭小にすることで誰が救われるのだろうか。

以上



この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?