金商業府令改正:クレカ積立の上限が実質的にも10万円に!?(施行は早くても2024年3月以降!?)

[2024/1/11:資産運用に関するタスクフォース第3回会議の議事録同第4回会議の議事録公表を受け一部追記]
[2024/1/30:鈴木財務大臣兼内閣府特命担当大臣閣議後記者会見の概要(2024/1/26分)の公表を受け一部追記]

本稿のねらい


過去数回にわたり投資信託の「クレカ積立」の上限引上げについて紹介してきたが、2023年12月19日、金融庁が「クレカ積立」の上限ルールに関連する金融商品取引業等に関する内閣府令金商業府令)の改正案本改正案)をパブコメに付した。[2024/1/11追記:当該パブコメの締切は1/19]

これは金融庁・金融審議会に設置されていた「市場制度ワーキング・グループ」内の「資産運用に関するタスクフォース」(資産運用TF)が2023年12月12日付けで公表した「報告書」(本報告書)により次のように提言されていることを踏まえた対応である。

⑥累積投資契約のクレジットカード決済上限額の引上げ
クレジットカード決済による有価証券の購入は、顧客の資力を上回る有価証券の購入を可能とし、過当取引による投資家保護上の問題が生じるおそれがある一方、支払いの選択肢を増やすことにより投資家の利便性向上に資する面もあることから、法令上、一定の要件の下で認められている。この法令上の要件を満たすため、現行実務では、クレジットカード会社の決済サイクル等を踏まえ、毎月の投資上限額は基本的に5万円に制限されている。

2024年から新しいNISA制度がスタートし、その中で、つみたて投資枠については毎月の累積投資契約による場合、月10万円に引き上げられることになる。これを踏まえ、翌月一括払いであること、累積投資契約であることの要件を維持しつつ、信用供与の上限額について、現行実務が法令の上限額よりも制限されている状況が解消されるよう、必要な制度見直しを行うことが適当である。

本報告書24-25頁※脚注は省略

資産運用TFの第1回時点では、新NISAの「成長投資枠」を含め、投資信託のクレカ積立の上限を月30万円までに拡大する可能性もあったことから、それと比較して非常に残念ではあるが、新NISAの「つみたて投資枠」に相当する月10万円まで実質的に拡大されたことは前進である。

本稿では、本改正案の内容を簡単に紹介する。
なお、筆者としてはあまり本改正案に対して質問を行う必要性を感じていないが、疑問点は質問してみるといいだろう(やぶ蛇には注意)。

[2024/1/30追記:鈴木財務大臣兼内閣府特命担当大臣「スケジュール感について申し上げますと、改正時期につきましては、投資家の利便性向上を早期に図るという観点から、本年3月中にも公布・施行ができるよう準備を進めてまいりたいと考えています。」とのこと。本改正案は実質的な規制緩和につながるものであり、1か月以上も施行準備に時間をかける意味がわからないが。]

【過去記事】クレカ積立関連

【過去記事】新NISA関連


本改正案


条文の適用(操作)の詳細については以前の記事を参照のこと。

本稿では、基本的に金商業府令第148条第2号に焦点を当てて紹介する。

  • 現行の金商業府令第148条第2号

同一人に対する信用の供与が十万円を超えることとならないこと。

金商業府令
  • 本改正案(金商業府令第148条第2号)

前号の有価証券の売買をした月におけるその個人の同号の対価に相当する額の総額が十万円を超えることとならないこと。

本改正案別紙1

(1) POINT①

本改正案では、金商業府令第148条第2号のほか、例えばマンスリークリアを示す同条第1号や累積投資契約であることを示す同条第3号の改正は提案されていない。

これは、本報告書の提言のとおりである。

2024年から新しいNISA制度がスタートし、その中で、つみたて投資枠については毎月の累積投資契約による場合、月10万円に引き上げられることになる。これを踏まえ、翌月一括払いであること、累積投資契約であることの要件を維持しつつ、信用供与の上限額について、現行実務が法令の上限額よりも制限されている状況が解消されるよう、必要な制度見直しを行うことが適当である。

再掲・本報告書25頁

(2) POINT②

以前の記事では、次のように、金商業府令第148条第2号の改正の方向性として2つあるのではないかと想定していたが、本改正案は1点目の方向性を打ち出したものと思われる。

1. マンスリークリアが満たされる限り、合算10万円超の信用供与を認める
2. 第2号上限を20万円とする

以前の記事

これは、1つには現行の割販法における規制と平仄を合わせたもの、つまりマンスリークリアを投資信託の売買にも適用させる趣旨であり、もう1つは2点目の方向性だと、「クレカ積立」に関して提携しているクレジットカード会社の支払(決済)サイクル次第では、「クレカ積立」の上限が月20万円に引き上げ可能な場合も生じる(以前の記事で紹介した3つのパターンではそれが可能)ことを時期尚早と捉えたためと思われる。

(3) POINT③

本改正案では、金商業府令第148条や第149条第1項の柱書の改正は提案されていないため、クレジットカードを用いた投資信託の購入(販売)はあくまで「信用の供与をすることを条件」としたものという解釈に変更はない。

しかし、現行の金商業府令第148条第2号が「信用の供与が十万円を超えることとならない」としていたルールにつき、「信用の供与」を削除し、マンスリークリアによるクレジットカードでの「有価証券の売買をした月におけるその個人の同号の対価に相当する額の総額が十万円を超えることとならないこと」に置き換わることが提案されている。(「対価に相当する額」という文言は既に金商業府令第148条第1号にて用いられている)

そのため、仮に、クレジットカードの支払(決済)サイクルと「クレカ積立」のズレやカードホルダーのイシュアに対する支払遅延等何らかの理由で信用供与が10万円を超えて20万円になってしまった場合でも直ちに金商業府令第148条第2号に抵触しない。

【参考】支払(決済)サイクルが鍵となることを示したパブコメ回答

一時点における信用の供与が10万円を超えないことが必要であり、当月までの未決済分と当月分を合算した額が10万円を超えない範囲内でなければならないものと考えられます。

2007年7月31日公表パブコメ452頁(No.10-14)

(4) POINT④

本改正案では、「有価証券の売買をした月におけるその個人の同号の対価に相当する額の総額が十万円を超えることとならない」ことを求めるよう提案されている。

ここで重要なのは、月ごとの集計となることである。

つまり、必ずしもクレジットカードの支払(決済)サイクルと重ならない。

あまり聞いたことはないし実用性があるのか不明だが、例えば、支払(決済)サイクル内で複数回の「クレカ積立」にかかる買付を設定できるとしても、それは月またぎで10万円を超えることはできない。

今後への期待


冒頭で触れたように、資産運用TFでは当初新NISAの「つみたて投資枠」である月10万円と「成長投資枠」を年12か月で分割した場合の20万円の合計である月30万円につき、「クレカ積立」を認めることも検討の俎上に上がっていた。

しかし、資産運用TF第3回会議の資料の時点で月10万円を「クレカ積立」の上限とすることがほぼ決められていた点は以前の記事を参照。

資産運用TF第1回会議から同第3回会議までの間、つまり同第1回会議と第2回会議において「クレカ積立」の上限を月10万円とすることが内定されたということである。

この点、資産運用TF第1回会議においては、「クレカ積立」の上限撤廃に関する意見(拡大肯定意見)も複数あった反面、趣旨不明な拡大反対意見もあったところである。

察するに、一旦はコンセンサスが得られそうな新NISA「つみたて投資枠」の月10万円、もっといえば現行の金商業府令第148条第2号により認められている上限でもある月10万円を実質的なものにする、つまり実質的には規制緩和ではないところで落とすために本報告書や本改正案がまとめられたものと思われる。

偶然かもしれないが、割販法において極度額が30万円以下であるクレジットカードを発行する場合は、「利用者の保護に支障を生ずることがない場合」に該当し、過剰与信防止義務が例外的に課されないことになっている(同法第30条の2第1項但書、同法施行規則第43条第1項第1号)。

経済産業省「割賦販売法(後払信用)の概要」34頁
経済産業省「割賦販売法(後払信用)の概要」34頁

クレジットカードのイシュアが支払可能見込額(年収・預貯金・借入状況・生活維持費等)を考慮せず、月30万円までは与信できるとする割販法との平仄を合わせるとすれば、今後の展開として、新NISA「成長投資枠」の月割を含めた月30万円を上限とすることもそれなりに期待できる。

【参考】拡大肯定意見

累積投資契約のクレジットカード決済上限額の引上げの点でございますが、まず、この引上げの方向については賛成でございます。ただ、そもそも論としまして、クレジットカード決済による有価証券取引について、事務局説明資料にございますような過当取引につながる懸念があるという論点があることは十分承知しておりますものの、そもそもクレジットカードには割賦販売法の規制も適用されるわけでございますし、利便性や、それから投資を拡大させるといった観点から、累積投資契約に限らず、また上限額を設定することなく、有価証券取引に対してクレジットカード決済を一律に認めるという発想があってもよいのではないのかと感じます。この令和の時代において、規制によってクレジットカードで買うことができない商品があるということ自体が非常に奇異に感じるわけでございます。

資産運用TF第1回会議議事録(有吉委員発言)

積立投資のクレジットカード決済上限額につきまして、資料3行目では業界慣行とされておりましたが、こちらは法令解釈を踏まえた法令遵守対応の問題であると認識しておりますので、念のため申し上げさせていただきます。その上で、同様の提案は、本協会が昨年7月に行いました資産所得倍増プランへの提言においても取り上げておりまして、方向性としては一致しているかと思います。私どもといたしましては、投資者にとってより利便性の高いものとなりますよう、信用の供与額のベースから積立金額ベースでの上限金額に見直すべきと考えております。

資産運用TF第1回会議議事録(日証協発言)

確かにクレジットカードで買えないものはないという視点は、よく分かります。ですので、これを反対ということでは決してないんですけれども、ただ資産運用というのは、やはり余剰資金が原則だということを考えると、一定の頻度であるとかそういったことについては、検討、考慮すべき点ということになるかもしれないとは思っています。

資産運用TF第1回会議議事録(大槻委員発言)

「クレカ積立」が余剰資金ではないとする理由が謎であり、クレジットカードの支払(決済)は常に生活資金から捻出されていると思っているのだろうか。また、おそらく「クレカ積立」を行いたいとする個人投資家の動機(多くの場合はポイントである)をあまり理解していないのかもしれない。

[以下2024/1/11追記]

第1回のタスクフォースにおいて発言しましたとおり、規制趣旨との関係で、クレジットカード決済の金額に上限を設けることの必要性には疑問を感じるところがございます。ただ、その後この制度について改めて考えている中で、決済に要する費用を誰が負担すべきなのかという点や、それから、いわゆるポイントを獲得する目的で有価証券取引におかしなインセンティブが働かないようにすべきである点等、考慮しなければならない変数の多い課題であるとも思い至りました。将来的にはそういったクレジットカード固有の論点にも踏み込んだ制度設計を期待したいと思うところでございますけれども、当座の対応としてはバランスのよい上限額を模索するということで進めていただくべきなのかなと考えております。

資産運用TF第3回会議議事録(有吉委員発言)

興味深い問題提起である。つまり、決済に要するポイント等の費用は一般的には加盟店が一次的に負担し、それが商品や役務の対価である価格に反映され、最終的には消費者やユーザーが負担することになる(したがってクレジットカード等で決済しない"現金派"は間接的に"クレカ派"が受益したポイントや利便性に関して間接的に負担していることになる)。

他方で、投資信託の販売の文脈において、加盟店は投資信託の運用会社(アセットマネジメント会社)であると思われるが、一般に証券会社等の販売会社が決済代行を担っており、クレジットカード決済の構造が不透明である。

つまり、決済に要するポイント等の費用を販売会社が負担しているのか、運用会社が負担しているのかよくわからない。

一般に、クレジットカード決済にかかる加盟店手数料は3%程度であるところ、投資信託(とりわけ新しいNISAの対象となっているファンド)の運用会社や販売会社の取り分はその100分の1程度であり(例えば、eMAXIS Slim米国株式(S&P500)の運用会社・販売会社へ充てられる信託報酬はそれぞれ0.036%、0.037%)、運用会社や販売会社が負担するには大きすぎる気もする。他方で、加盟店手数料はワンショットであるが、信託報酬は投資家が当該投資信託を保有し続ける限り受領可能であり、採算は取れるとの判断かもしれない。

あるいは、投資信託の購入に利用できるクレジットカードは保有継続性が高いため、イシュアが一定程度の負担をしているのかもしれない。(現在投資信託の購入に利用可能なクレジットカードのイシュアの多くが販売会社と同グループであるのはそのためか)

既に有吉委員や大槻委員からも、投資家保護および利便性向上の両面からバランスの取れた制度を模索してほしいという御意見があったと思います。その中で、先ほどもありましたけれども、本件は利便性向上による「貯蓄から資産形成」を進めるという観点で引上げを検討するということであり、資料にも、新NISA制度がスタートし、つみたて投資枠については月10万円に引き上げられるとございますが、今回の新NISA制度の重要なポイントは、つみたて投資枠と成長投資枠の併用が可能ということです。したがって、上限額は少なくとも30万ということも1つの選択肢と思っております。
投資家保護の観点では、ここにも書いてありますが、①翌月一括払いであること、②累積投資契約であること、③クレジットカード会社による信用供与に係る規制が存在すること、といったかたちで投資家の取引に対する弊害防止措置がすでに存在しているという観点も踏まえて、バランスの取れた設計をお願いできればと思います。

資産運用TF第3回会議議事録(全銀協発言)

要望内容自体は極めて正しい。なお、「今回の新NISA制度の重要なポイントは、つみたて投資枠と成長投資枠の併用が可能」という点については以前の記事を参照。

【参考】拡大反対意見

累積投資契約のクレジットカード決済上限額の引上げについても、投資家がクレジットカードの支払いに窮することがないような、慎重な検討が必要だと思います。

資産運用TF第1回会議議事録(片山委員発言)

趣旨不明。(不勉強なだけでは?)

クレジットカードで一般的に購入可能な消費財と異なり、いやしくも金融商品であり、かつ新NISA対応の投資信託は一定の要件(租税特別措置法第37条の14第5項第4号、同施行令第25条の13第15項参照)を満たす投資信託である。基本的には売買も容易であり、値動きはやむを得ないものの、一定の値が付くものであって、当然、必要に応じて売却も可能である。

そのため、仮に支払に窮すれば、もちろん新NISAの趣旨には反するかもしれないが、一定の損益の下でクレジットカードにより購入した投資信託を売却することで支払いに充てることができる。

[以下2024/1/11追記]

クレジットカードで投資信託を購入できるようになっていることを、私は知らなかったものですから、正直なところ、驚きました。と言いますのも、消費者教育の現場では、クレジットは借金ですと教えておりまして、違和感というか驚いたのが事実でございました。規制緩和がすでにここまでされているということで、5万円が10万円になるのがいいのか、20万円になるのがいいのかということについて、私としては意見を持ち得ておりませんけれども、素朴な疑問、懸念が2点ございますので、この部分を推進されている業界団体の方にご回答をお願いしたいと思います。

一つ目は、クレジットカードはポイントがつきますけれども、ポイントが消費者の合理的な行動をゆがめたりしませんかという質問でございます。

2点目は、クレジットカードの場合、残高がないと決済できません。銀行の引き落としであれば、買付ができませんでしたで済みますが、クレジットカードの場合、決済できないと、その事実が延滞情報に記録されたりしませんか。延滞情報が残っておりますと、将来的に、住宅ローンを組んだりするとき等に、不利益になったりするようなことが起き得ませんか。いつもそうだとは限りませんし、こうした問題についても、銀行協会様として十分に検討されたことと思いますが、この2つの点について少々疑問に思ったり、懸念を抱きましたので、消費者を代表してというわけではないんですけれども、御見解を伺っておきたいと思います。

資産運用TF第4回会議議事録(永沢委員発言)

総論として、不勉強な感が否めない。投資信託の購入にクレジットカードが利用できるようになったのはここ数年のことではない。また、簡単に調べられることは自分で調べてくるべきである。

…なんともいえない質問に対する全銀協の回答は次のとおり。

まず、ポイントが合理的な行動につながっているのかどうかという観点です。ポイントがつくとしてもせいぜい1%程度であり、投資を適切に促す程度の呼び水にはなっているだろうと理解しております。

2つ目、残高がないと延滞となるという点について、もともとクレジットカードの加入に当たっては枠の審査もされているということと、既に10万円という上限額があるところ、決済サイクルの関係で2か月分の信用供与が行われることになるので、それを踏まえて現在は投資上限額5万円ということで自主的に規制しており、そういった適切な範囲の中で利用していると理解しております。

資産運用TF第4回会議議事録(全銀協発言)

【参考】CICの信用情報について

以上

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