「新しいNISA」に関する法令をおさらい

本稿のねらい


金融庁「新しいNISA概要

もはや大変馴染みのある図表であり、親の顔よりも多く見るべき図表には違いないが、他方で、この図表は「新しいNISA」(※)に関する法令を正確には伝えていない(図表の内容自体は正確だが、法令に即した文言等にはなっていないという趣旨)。

本稿は、せっかく金融庁がわかりやすい文言等にしているものを、あえて法令に即したわかりづらい文言等に直してみるという試みである。

※「新NISA」と「新しいNISA」は、法制度上は延長線上にあるという意味で同一ではあるが、思想・発想はまったくの別物である(月とスッポンほどに異なる)。前者の「新NISA」は2023年で時限が切れる「一般NISA」の後釜として令和2年度税制改正において登場し世間を悪い意味で騒がせた例のアレである。制度を構想した担当者の頭の中を覗いてみたくなるほど意味不明なアレである。

日本証券業協会「令和2年度税制改正大綱について

新しいNISAの思想


何らかの制度が法令に落とし込むためには、その制度をどういう方向に持って行きたいのか、その思想が不可欠である。基本的には、何らかの課題が存在し、それを合理的かつ効率的に解決するための制度であるべきであるから、制度の思想は、課題と解決方法に分解できる。

制度の思想を理解することで、租税特別措置法のような読みづらい法令を読んだ際にも、なんとなく雰囲気がわかることも少なくないため、一応まとめておく。

新しいNISAは、2022年11月28日に決定された「資産所得倍増プラン」の7本柱の第1に挙げられた取組みであり、従前のNISA制度の「抜本的拡充や恒久化」を図るものである。(恒久化は抜本的拡充の一部である)

従前のNISAの抜本的拡充として、次のようなものが提案されていた。

金融庁「令和5年度 税制改正要望項目

(1) NISA制度の恒久化(投資可能期間の恒久化)

┃ 課題(資産所得倍増プラン4頁)

  • NISA制度が時限的な措置として設けられている限り、制度の終了が意識されることで長期的な投資が行いにくいという指摘が個人投資家等からなされている

  • 中間層を中心とする層に対して安定的な資産形成を促す観点からは、将来にわたって安定的な制度としてNISAを措置することで、NISAを活用した金融資産形成についての予見を可能とすることが必要である

  • それにより、継続的な投資を促すことが可能となる

┃ 解決方法(資産所得倍増プラン5頁)

NISA制度における投資可能期間の恒久化

なお、一般NISA・つみたてNISAいずれにも重要な意義があることから、いずれの制度においても投資可能期間を恒久化する。

(2) NISAの非課税保有期間の無期限化

┃ 課題(資産所得倍増プラン5頁)

  • 投資は短期的には収益に振れが生じるものであるが、長期的に平均すれば資産形成に大きな効果があるにもかかわらず、非課税期間に期限が存在することで、短期的に含み損益が生じた場合に長期で価格が上昇するのを待つのではなく、短期的に損益を確定させてしまい、長期で保有を継続するというインセンティブが生じにくい制度となってしまっている

  • 20歳代や30歳代からつみたてNISAでの投資を開始した場合、40歳代や50歳代という未だに資産形成の段階にある時期に、20年間の非課税保有期間の期限が到来し、資産を活用する時期を迎える前に金融資産を取り崩すインセンティブが生じることとなる

┃ 解決方法(資産所得倍増プラン5頁)

NISAの口座において購入した金融商品について、金融商品から得た利益(配当金、譲渡益等)が非課税となる期間の無期限化

ただし、NISAの投資に関する適切な生涯の上限枠を設けることを前提とする。

(3) 投資上限額の増加

┃ 課題(資産所得倍増プラン5-6頁)

  • 一般NISAの年間投資上限額まで投資を行う投資家が多く存在する

  • 預貯金の過半を保有する高齢者の投資を促し、高齢者にとって望ましい資産ポートフォリオ・資産配分実現のためにも一般NISAの投資上限を拡大することが必要

  • フリーランスのような多様な働き方を支援するためには、資金に余裕のあるときに集中的に投資を行うことができる環境を整備することが望ましく、一般NISAの拡充の必要性が高い

  • つみたてNISAについても、現在の年間40万円の上限では不十分な場合も想定され、一般NISAと同様につみたてNISAの投資限度額を拡大する意義は大きい

  • 現在の年間40万円の上限額では毎月の投資上限額が3万3,333円と12カ月で均等に割り切れる額ではないことから、毎月均等額で積立投資が可能となる金額とすることも必要

┃ 解決方法(資産所得倍増プラン6頁)

NISAの投資上限額の増加

令和5年度税制改正


NISA制度に関して通常の国民にとって重要な令和5年度税制改正の内容は2点である。

つまり、第1につみたてNISAの「口座開設可能期間」と「勘定設定期間」が2023年12月31日までとされた点、第2に「新NISA」を「新しいNISA」に改組し、第1のつみたてNISAと統合することでNISA制度を一本化する点である。

1点目は、つみたてNISAの廃止であり特段説明は不要と思われるため省略し、以下では専ら2点目に関して金融庁が「新しいNISAのポイント」と説明している5つの項目(金融庁ウェブサイト)について説明することとする。

  1. 非課税保有期間の無期限化

  2. 口座開設期間の恒久化

  3. つみたて投資枠と、成長投資枠の併用が可能

  4. 年間投資枠の拡大(つみたて投資枠:年間120万円、成長投資枠:年間240万円、合計最大年間360万円まで投資が可能。)

  5. 非課税保有限度額は、全体で1,800万円。(成長投資枠は、1,200万円。また、枠の再利用が可能。)

なお、いわゆるジュニアNISAについても、従前は口座ホルダーが「非課税管理勘定」から「継続管理勘定」への移管を希望する場合は、その依頼を証券会社等に行う必要があったところ、令和5年度税制改正により、オプトアウト方式に改正された。つまり、口座ホルダーは特段の手続をせずに証券会社等により非課税管理勘定から継続管理勘定へ自動的に移管されるようになる一方、仮に口座ホルダーがその移管を希望しない場合には、その依頼を証券会社等に行うことが必要となった(租税特別措置法第37条の14の2第5項第2号チ同法施行令第25条の13の8第12項第2号・3号)。

令和5年度税制改正にかかる新旧対照表
※第2号がデフォルトで第3号がオプトアウト

(0) まとめ

金融庁「新しいNISA概要

これが ⇓ こうなる

2023年10月8日筆者作成
※項目は上記金融庁「新しいNISA概要」と合わせた

(1) 非課税保有期間の無期限化

上記金融庁のわかりやすい資料においては、「非課税保有期間」が「無期限化」されると記載されているが、これは次の2つのことを意味する。なお、「無期限化」というのはやや語弊があるが、その点も明らかにする。

  • 配当所得の非課税措置の「無期限化」

  • 譲渡所得の非課税措置の「無期限化」

それぞれにつき、特定累積投資勘定に係る非課税口座内上場株式等の配当等(つみたて投資枠に係る配当等)と特定非課税管理勘定に係る非課税口座内上場株式等の配当等(成長投資枠に係る配当等)が含まれる。

2023年10月8日筆者作成

上図のとおり、ここでいう「無期限化」とは、単に期限を定めていないことを意味しており、「恒久化」とは意味が異なると思われる。

つまり、悪名高い「新NISA」やそもそもの一般NISA、あるいはつみたてNISAについては、配当所得や譲渡所得等の非課税措置に一定の期限が設けられていたのに対し、今般の「新しいNISA」に関する配当所得や譲渡所得等の非課税措置には何ら期限が設けられていない。

  • 「新NISA」/一般NISA:(特定)非課税管理勘定開設から5年間

  • つみたてNISA:累積投資勘定開設から20年間

  • 「新しいNISA」:今のところ期限の定めなし

期限の定めが無い、つまり「無期限」という意味である。
この非課税措置が「恒久化」しているとはいいづらい。
(無期懲役と終身刑くらいの違いがある)

根拠条文は以下のとおりである。本題と関係ないと思料する部分は省略しているため、興味関心があれば原文を参照のこと(以下同じ)。

(非課税口座内の少額上場株式等に係る配当所得の非課税)
第9条の8 金融商品取引業者等の営業所に第37条の14第5項第1号に規定する非課税口座を開設している居住者が支払を受けるべき第37条の14第1項に規定する非課税口座内上場株式等の所得税法第24条第1項に規定する配当等で次に掲げるもの(「非課税口座内上場株式等の配当等」)については、所得税を課さない。
一、二 (略)
 当該非課税口座に設けられた第37条の14第5項第7号に規定する特定累積投資勘定に係る非課税口座内上場株式等の前号イ又はロに掲げる配当等で、当該特定累積投資勘定を設けた日以後に支払を受けるべきもの
 当該非課税口座に設けられた第37条の14第5項第8号に規定する特定非課税管理勘定に係る非課税口座内上場株式等の第1号イからハまでに掲げる配当等で、当該特定非課税管理勘定を設けた日以後に支払を受けるべきもの

租税特別措置法第9条の8

非課税口座内の少額上場株式等に係る譲渡所得等の非課税)
第37条の14 金融商品取引業者等の営業所に非課税口座を開設している居住者が、非課税上場株式等管理契約に基づき当該非課税口座に保管の委託がされている第3号に掲げる第1号に規定する上場株式等若しくは第4号に掲げる第1号に規定する上場株式等(「非課税口座内上場株式等」)のそれぞれ次の各号に定める譲渡をした場合には、当該譲渡による事業所得、譲渡所得及び雑所得については、所得税を課さない。
一、二 (略)
 当該非課税口座に設けられた特定累積投資勘定に係る上場株式等で前号イ又はロに掲げるもの 当該特定累積投資勘定を設けた日以後に行う当該特定非課税累積投資契約に基づく譲渡
 当該非課税口座に設けられた特定非課税管理勘定に係る上場株式等で第1号イからハまでに掲げるもの 当該特定非課税管理勘定を設けた日以後に行う当該特定非課税累積投資契約に基づく譲渡

租税特別措置法第37条の14

(2) 口座開設期間の恒久化

他方で、口座開設期間については、上記金融庁のわかりやすい資料においても「恒久化」と記載されている。

しかし、令和5年度税制改正大綱の概要においては、次のような「恒久的な措置」という言葉が見えるが、令和5年度税制改正大綱においてはそのような言葉は使われていない。また、令和5年度税制改正大綱の概要においても、「恒久的な措置」となるのはNISA制度それ自体であり、口座開設期間に限らないようにも思われる。

非課税保有期間を無期限化するとともに、口座開設可能期間については期限を設けず、NISA制度を恒久的な措置とする。

令和5年度税制改正大綱の概要

この口座開設期間についても、「新NISA」や一般NISA、あるいはつみたてNISAとの対比で、期限を定めないという意味での「無期限化」というのが正確ではないかと思われる。

恒久化や恒久的な措置とするかどうかはまさに政策(主観)の問題であって客観的な指標・基準とはならないものと思われる。あくまで金融庁としては恒久化したいという意向や願望にとどまる。

根拠条文は以下のとおりである。

(非課税口座内の少額上場株式等に係る譲渡所得等の非課税)
第37条の14

 この条において、次の各号に掲げる用語の意義は、当該各号に定めるところによる。
 非課税口座 居住者(その年1月1日において18歳以上である者に限る。)が、第9条の8及び前各項の規定の適用を受けるため、その口座を開設しようとする金融商品取引業者等の営業所の長に、政令で定めるところにより、非課税口座開設届出書の提出をして、当該金融商品取引業者等との間で締結した次に掲げる契約に基づきそれぞれ次に定める期間内に開設された上場株式等の振替口座簿への記載若しくは記録又は保管の委託に係る口座をいう。
 非課税上場株式等管理契約 平成26年1月1日から令和5年12月31日までの期間
 非課税累積投資契約 平成30年1月1日から令和5年12月31日までの期間(※)
 特定非課税累積投資契約 令和6年1月1日以後の期間(※)

租税特別措置法第37条の14

※ 令和2年度税制改正により、つみたてNISA(非課税累積投資契約に係る非課税措置)の口座開設期間は令和24年12月31日までと延長され、また「新NISA」(特定非課税累積投資契約に係る非課税措置)の口座開設期間は令和10年12月31日までと設定され事実上一般NISAの5年延長とされていたが、令和5年度税制改正によりつみたてNISAの口座開設期間は2023年12月31日で終了し、「新しいNISA」に改組された特定非課税累積投資契約は令和6(2024)年1月1日以後であれば、現時点では期限が定められず、いつでも口座開設可能とされた。

(3) つみたて投資枠と成長投資枠の併用が可能

これは一見よくわからないポイントではあるが、従前、つみたて投資枠に相当するつみたてNISAと成長投資枠に相当する一般NISA(「新NISA」)はいずれか一方しか利用できなかったことから、つみたて投資枠と成長投資枠の併用を1つのポイントとして打ち出しているのだろうと思われる。

これを理解するためには、前提として、租税特別措置法における「非課税口座」、「非課税上場株式等管理契約」、「非課税管理勘定」、「非課税累積投資契約」、「累積投資勘定」、「特定非課税累積投資契約」、「特定累積投資契約」、「特定非課税管理勘定」の意味や関係について理解することが必要となる。

これらを大まかに図示すると下図のとおりとなる。

2023年10月8日筆者作成

従前のNISA制度においては、非課税口座と非課税管理勘定や累積投資勘定がそれぞれ一対一で対応しており、「口座」=「勘定」であったが、新しいNISA制度においては、非課税口座の中に特定非課税管理勘定と特定累積投資勘定の2つが併存し得る。この点を捉えて、つみたて投資枠と成長投資枠が併用できるとされているものと思われる。

なお、新しいNISA制度においては、「特定非課税累積投資契約」とされていることからもわかるように、つみたて投資枠が原則であることが窺える。

┃ つみたてNISAと一般NISA(「新NISA」)が併用できなかった根拠

NISA制度については配当所得や譲渡所得等が一定の範囲で非課税となることが重要であり、その関係で「非課税口座」内の上場株式等の動きであることが重要なポイントとなる。

「非課税口座」とは、非課税措置を受けるために非課税口座開設届出書を提出して、証券会社等との間で次の3つのいずれかの契約を締結し開設された口座を意味する(租税特別措置法第37条の14第5項第1号)。

  • 非課税上場株式等管理契約(一般NISA)

  • 非課税累積投資契約(つみたてNISA)

  • 特定非課税累積投資契約(「新NISA」/「新しいNISA」)

そして、「非課税上場株式等管理契約」とは、証券会社等との契約のうち、上場株式等の振替口座簿への記載・記録等は「非課税管理勘定」において行うことなど法定の要件を満たす契約をいう(租税特別措置法第37条の14第5項第2号、同法施行令第25条の13第9項)。この契約で受け入れられる上場株式等の取得対価の額は120万円までである(同法第37条の14第5項第2号イ)。

「非課税管理勘定」とは、非課税上場株式等管理契約に基づく振替口座簿への記載・記録等を他の取引の記録と区別するための勘定を意味し、「累積投資勘定」が設けられた年には開設が認められない租税特別措置法第37条の14第5項第3号)。

また、「非課税累積投資契約」とは、証券会社等との累積投資契約のうち、個人の財産形成促進に資するとされる累積投資上場株式等を定期的に継続して購入等することを約する契約で、それにより取得した上場株式等の振替口座簿への記載・記録等は「累積投資勘定」において行うことなど法定の要件を満たす契約をいう(租税特別措置法第37条の14第5項第4号、同法施行令第25条の13第21項)。この契約で受け入れられる累積投資上場株式等の取得対価の額は40万円までである(同法第37条の14第5項第4号イ)。

「累積投資勘定」とは、非課税累積投資契約に基づく振替口座簿への記録・記載等を他の取引の記録特別するための勘定を意味し、「非課税管理勘定」が設けられた年には開設が認められない租税特別措置法第37条の14第5項第5号)。

このように、「非課税管理勘定」と「累積投資勘定」の併用は認められず、一方を開設した年には他方を開設することはできない制度となっていた。

他方で、「特定非課税累積投資契約」における「特定累積投資勘定」と「特定非課税管理勘定」は併用が認められ、むしろ「特定非課税管理勘定」は「特定累積投資勘定」と同時に設けられることになる(租税特別措置法第37条の14第5項第8号)。

(4) 年間投資枠の拡大

年間投資枠、つまり「非課税上場株式等管理契約」、「非課税累積投資契約」や「特定非課税累積投資契約」において証券会社等が「非課税管理勘定」、「累積投資勘定」、「特定累積投資勘定」や「特定非課税管理勘定」において受け入れられる上場株式等の取得対価の額の上限については、次のとおりであり、たしかに拡大されたといえる。

  • 非課税管理勘定(一般NISA):120万円(同法第37条の14第5項第2号イ)

  • 累積投資勘定(つみたてNISA):40万円(同法第37条の14第5項第4号イ)

  • 特定累積投資勘定(つみたて投資枠):120万円(同法第37条の14第5項第6号イ)(※)

  • 特定非課税管理勘定(成長投資枠):240万円(同号ハ)(※)

※ ただし、つみたて投資枠については、つみたて投資枠と成長投資枠の取得対価の額の合計額が1800万円を超える場合は、年間120万円未満であっても受け入れ不可であり(同法第37条の14第5項第6号イ)、成長投資枠については、上記1800万円の枠に加え成長投資枠の取得対価の合計額が1200万円を超える場合は、年間240万円未満であっても受け入れ不可となる(同号ハ(1)(2))。

(5) 非課税保有限度額(枠の再利用が可能) 

新しいNISAの特筆すべきポイントの1つとして、一定の条件付きではあるが「枠の再利用が可能」という点が挙げられるだろう。これがなければ到底ISAsに近づいたなどとは口が裂けてもいえまい。

従前のNISA制度においては、「枠の復活」はないとされていたためである。

この「枠の復活」がないというのは次のような根拠による。

一般NISAでもつみたてNISAでも、上記(4)の年間投資枠の拡大にて説明したとおり、それぞれの契約や勘定において受け入れられる金額の上限は、上場株式等又は累積投資上場株式等の取得対価の額でカウントされることになる。

次に掲げる上場株式等で、当該口座に非課税管理勘定が設けられた日から同日の属する年の12月31日までの間に受け入れた上場株式等の取得対価の額の合計額が120万円を超えないもの

租税特別措置法第37条の14第5項第2号イから一部抜粋

当該口座に累積投資勘定が設けられた日から同日の属する年の12月31日までの期間内に当該金融商品取引業者等への買付けの委託により取得をした累積投資上場株式等、当該金融商品取引業者等から取得をした累積投資上場株式等又は当該金融商品取引業者等が行う累積投資上場株式等の募集により取得をした累積投資上場株式等のうち、その取得後直ちに当該口座に受け入れられるもので当該受入期間内に受け入れた累積投資上場株式等の取得対価の額の合計額が40万円を超えないもの

租税特別措置法第37条の14第5項第4号イから一部抜粋

つまり、ある年において120万円又は40万円で上場株式等又は累積投資上場株式等を取得した場合、仮に同年において上場株式等又は累積投資上場株式等を全部又は一部売却したとしても、取得対価の額としては既に120万円又は40万円分がカウントされているため、売却した上場株式等又は累積投資上場株式等の取得対価の額につき改めてその年に一般NISAやつみたてNISAの勘定で受け入れ可能になるということはない。

売却により取得対価の額に影響が生じるような定めではない。

他方で、新しいNISAについては、前年末までの行動次第で「枠」が復活することになる。

2023年10月8日筆者作成
2023年10月8日筆者作成

上図からもわかるように、「枠が復活」するという文脈における「枠」とはいわゆる非課税保有限度額(総枠)のことである。

つまり、年の途中で120万円のつみたて投資枠や240万円の成長投資枠が復活するわけではない。

前年末までに特定累積投資勘定や特定非課税管理勘定内の特定累積投資上場株式等又は上場株式等を処分することにより、「特定累積投資勘定基準額」(租税特別措置法第37条の14第5項第6号イ、同法施行令第25条の13第26項)や「特定非課税管理勘定基準額」(同法第37条の14第5項第6号ハ、同法施行令第25条の13第30項)を調整し、非課税保有限度額(総枠)を復活させることが可能となる。

この調整により復活できる非課税保有限度額(総枠)は、特定累積投資上場株式等の購入の代価の額や上場株式等の購入の代価の額、つまり簿価の合計額である。

やや注意が必要と思われるのは、つみたて投資枠で購入可能な特定累積投資上場株式等は成長投資枠においても購入可能であり(後者の「上場株式等」は前者の「特定累積投資上場株式等」を包括する概念)、したがって、同一銘柄であっても、つみたて投資枠と成長投資枠いずれにもまたがって保有され得る点である。

このケースでも、特定累積投資上場株式等や上場株式等の評価はそれぞれの勘定ごとに別の銘柄であるとして行う必要がある(租税特別措置法施行令第25条の13第28項第1号)。

ISAsとの違い!?


本場UKのISAsについてはUK政府のウェブサイトに詳しい。

┃ ISAsの種類

ISAsには次の4つの種類があるとされている(UK政府ウェブサイト)。

There are 4 types of Individual Savings Accounts (ISA):

  • cash ISA

  • stocks and shares ISA

  • innovative finance ISA

  • Lifetime ISA

"Cash ISA"では銀行や住宅貯蓄貸付組合("Building Society")の預金や、国民貯蓄銀行("National Saving and Investments")の商品が対象となる。

"Stocks and Shares ISA"では株式("Shares in companies")、投資信託("Unit trust and investment funds")、社債("Corporate bonds")や国債("Government bonds")が対象となる。

"Innovative finance ISA"ではP2Pの貸金("Loans that you give to other poeple or businesses without using a bank")や「クラウドファンディング・ディベンチャー」("crowdfunding debentures")と呼ばれる債務証書の購入(債権譲受け?)が対象となる。

"Lifetime ISA"では現金("Cash")や株式等("Stock and shares")が対象となる。

この4つのISAsの種類のうち、"Stock and Shares ISA"が我が国のNISA制度に近いものと思われるが、そこでは社債や国債といった債券にも投資が可能となる点で大きく異なると思われる(債券投資に非課税措置が必要なほどにUKの金利は高いのか…)。

特色あるのは"Innovative finance ISA"であり、我が国ではソーシャルレンディングや貸付型クラウドファンディングとして行われているようなスキームを対象とするのではないかと思われる。

"Lifetime ISA"は18歳から40歳までが口座開設可能であり、50歳になるまで投資等を行うことが可能とされており、その目的は最初の家を購入したり老後に備えるためとされている。最初はiDeCoのようなものを想像したが、これは我が国でいえば財形貯蓄制度である。

┃ 年間投資枠

ISAsでは上記4つの種類を使い分けることが可能であり、年間£20,000(本稿執筆時点では182円/£であるから円ベースでは概ね年間360万円程度)をそれぞれに割り振って投資等("save up")することができるとされている。
ただし、"Lifetime ISA"については年間£4,000までとされている。

Example
You could save £15,000 in a cash ISA, £2,000 in a stocks and shares ISA and £3,000 in an innovative finance ISA in one tax year.

Example
You could save £11,000 in a cash ISA, £2,000 in a stocks and shares ISA, £3,000 in an innovative finance ISA and £4,000 in a Lifetime ISA in one tax year.

UK政府ウェブサイト

年間投資枠については、新しいNISAではつみたて投資枠120万円・成長投資枠240万円で合計360万円となっており、ISAsと同水準となった。

他方で、我が国ではいわゆるジュニアNISA(未成年口座管理契約に係る非課税措置)が2023年12月31日で終了し、代替となる制度も用意されないことになっているが、UKではジュニアISA("Junior ISAs")も別立てで存在しており、年間投資枠も£9,000あることから、実質的には新しいNISAとISAsとでは大きく異なる(憤)。

┃ 引出し可能性("Withdrawing your money")

基本的には、いつでもISAsの口座から引き出すことが可能であるが、それにより当年中の年間投資枠が復活するかどうかは、その人のISAsのアカウントが"Flexible"かどうかにより異なるとされている。

つまり、"Flexible"なアカウントであれば、株式等を売却して現金を引き出したとしても、その金額に相当する額の年間投資枠が復活する。
他方で、"Flexible"なアカウントではないならば、引き出した金額に相当する額の年間投資枠は復活しない。

Example
Your allowance is £20,000 and you put £10,000 into an ISA during the 2023 to 2024 tax year. You then take out £3,000.

The amount you can now put in during the same tax year is:
・£13,000 if your ISA is flexible (the remaining allowance of £10,000 plus the £3,000 you took out)
・£10,000 if your ISA is not flexible (just the remaining allowance)

UK政府ウェブサイト

我が国の新しいNISAでは、特段の要件等はなく、翌年になれば非課税保有限度額(総枠)が簿価ベースで復活するというISAsにはない制度を設けたことになるが、どちらが好ましいかは微妙なところである。

以上

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?