ボードゲーマーに贈る「モンスターイーター」の源流


ボードゲーム「ダンジョンイーター」とは

 アークライトより発売されているボードゲーム「モンスターイーター ~ダンジョン飯ボードゲーム~」は、2024年1月からアニメも放送されているファンタジー漫画「ダンジョン飯」を原案に、任意のキャラクターでパーティーを組み魔物料理を食べつつ迷宮を踏破するカードゲームです。

 実はこのゲームには「原案」がもうひとつあり、それが翔企画より発売され1980年代後半から1990年代にかけて国産カードゲームの代表となった「モンスターメーカー」です。

 なお2018年にアークライトより新版が発売されており、こちらは2024年1月現在でも比較的容易に入手可能と思われます。

 今回はゲームの「原案」となった二つのコンテンツについて見ていきたいと思います。

ダンジョン飯:剣と魔法の正統派王道ファンタジー

 念のため「ダンジョン飯」について簡単に説明すると、いわゆる古き良き剣と魔法のファンタジー世界で、迷宮探索を生業とする冒険者ライオスとその一行が、迷宮深層に取り残されたライオスの妹を一刻も早く救出すべく、食料を現地調達しながら迷宮を踏破していく……と言う話です。一見すると一風変わったファンタジーグルメ漫画のようですが、妹が迷宮深層に取り残される原因となったレッドドラゴン(炎龍)との再戦後から、単なるグルメ漫画ではない緻密で骨太な話が展開します。原作者・九井諒子先生の本領発揮はそこからです。
 原作漫画は全14巻で既に完結しており、アニメ放送の半月ほど前、2023年12月に最終2巻(13巻と14巻)が同時発売されたので、アニメ放送も注目を集めましたが、原作未読の方はネタバレを喰らう可能性も高いので注意してください。原作者によるスケッチ本「デイドリーム・アワー」も発売され、副読本「冒険者バイブル完全版」も発売予定(2024年2月)で、これらの内容にもネタバレありますが、原作漫画を全巻買った方には「こいつらも買っとけ!」と強くお勧めしておきます。

 そんな「ダンジョン飯」ですが、コンピュータRPG「Wizardry#1 PROVING GROUNDS OF THE MAD OVERLORD(日本語訳は「ウィザードリィ#1 狂王の試練場」でしたっけ?)」を知っていると、より楽しめる作品となっています。
 ダンジョン飯をWizardry二次創作と思って見ると「コレはWizardryのアレか!」と思える設定は実際、いくつも散見できます。記事執筆時点(2024年1月)ではアニメのネタバレになってしまうのであまり詳しくは書きませんが、例えば迷宮の途中にあんな大きなアレがあるところとか、後々登場する彼と侍従たちの職業とか、迷宮の深層部に登場する一見愛らしいあのモンスターとか、深層部でライオスがアレを出来るようになるとか、そもそも冒頭の、黄金の国の国王から「狂乱の魔術師を倒せ」と言われるのも、「狂王の試練場」で狂王トレボーから「迷宮の最下層にいる魔術師ワードナを倒せ」と命じられる設定にそっくりです。
 また、私自身はプレイしていないので良く知らないんですが、「ダンジョンマスター」と言うコンピュータRPGではダンジョン内で食料調達する必要性があるそうで、アニメ化に際しこちらとの類似点を指摘された方も多くいらっしゃいます。こちらもWizardry型の3Dダンジョン探索型RPGらしいので、そういう意味でも似ているのかもしれません。

 「Wizardry」シリーズはコンピュータRPG黎明期に誕生した作品で、シリーズ最初の作品である「狂王の試練場」はコンピュータRPG全体のほぼ最古作です。オリジナル版は米国で1981年に発売され、1985年には日本で8ビット/16ビットPC版も発売されました。この日本語版をほぼリアルタイムで遊びましたが、マニュアルとソフト入りメディア以外にもクレジットカードや会員証を模したプラ製のカードや、マッピング用紙が同梱されていて、こう言う小道具にワクワクしたものです(マッピング用紙が勿体なくて普通の方眼紙にマッピングしてましたが)。ワードナも倒しましたよ一応。続けて発売された#2、#3、#4も買いましたけど、どれも途中で挫折した記憶……

 遊んでいた当時は知らなかったのですが、WizardryはTRPG「Dungeons&Dragons(以下D&D)」をコンピュータで遊べる形にしたもので、その名残は「アーマークラス」と呼ばれる防御値などで見ることが出来ます(通常は防御値が高いほど強くなりますが、D&Dでは防御値が低いほど強くなり、Wizardryもそれを踏襲しています)。
 D&Dは世界で最初のTRPGであり、「この世に存在する全てのRPGの源流」と言えるゲームです。そして、D&Dに魅了された人々がコンピュータゲームとしてWizardryを産み、「コンピュータRPGの源流」となった訳です。
 そして「ダンジョン飯」の作者である九井諒子先生はヘビーゲーマーでもあるそうで、最近では「よりD&Dに忠実な」コンピュータRPGである「バルダーズゲート」シリーズを熱心にプレイされているとか。

 更に言えば、D&Dは「指輪物語(ロード・オブ・ザ・リング)」に魅了された人々が産んだゲームで、そのため最初期には「ホビット」の種族名が使われていたそうです(作者J.R.R.トールキンによる造語だったため、著作権に配慮したのか現在では「ハーフリング」になっています)。そう言えばWizardryにもいましたね、HOBBIT。

 つまり「ダンジョン飯」は、指輪物語(ロード・オブ・ザ・リング)からD&D、Wizardryと続く正統派の王道ファンタジーの間違いなく子孫と言える作品なのです(本当か?)。
 結末を知ったうえで物語を俯瞰すると、作中でも指摘されていますが、大筋ではそれはもう見事な神話伝説の英雄譚ですね。細かいところを見ていくと「やっぱり深く考えるの止めましょう」となりますが……

 個人的な印象ですが、九井先生はファンタジー世界設定の考察厨ではないかと考えています。設定厨ではなく考察厨。
 分かりやすいところでは、ダンジョン飯1話に登場したスライムの構造でしょうか。スライムと言う架空生物は、現実の古代神話には見られず、アメーバや変形菌が知られるようになった近現代に創作されたものとされています。その源流はH.P.ラヴクラフトの創作したクトゥルフ神話群に登場する不定形生物「ショゴス」にあると言うのが定説なようで、作品によって単細胞生物であったり群生成物であったり、「魔導物語」や「ドラゴンクエスト」のように形状が定まっていたりと、設定にもあまり統一性がありません。
 ダンジョン飯のスライムの場合、かつて存在した「玩具のスライム」を彷彿とさせる古典的な外見と、その外見にはそぐわない脳や内臓を持ち胃液が体を覆った高等生物と言う設定であり、他の作品ではなかなか見られない設定です。私自身は類例をあまり知らないのですが、脳や内臓を持つ不定形の高等生物と言ってパッと思いつくのは、ガープス・ルナルに登場する銀の月の水の種族〈姿なきグルグドゥ〉くらいですね。
 何か参考になった作品があるのか、独自に思いついた設定かは分かりませんが、読者の誰もが知っているモンスターながら誰もが「なるほど知らんかった」と唸る設定の妙は、九井先生が既存のモンスターの生態について深く「考察」した結果だと思います。
 そう言えば九井先生はWeb漫画「胎界主」に関する設定をまとめた胎界主wikiの初代管理人でもあったそうで、wikiに掲載されている恐ろしく綿密な人物相関図も九井先生の自作らしいとのこと。他の方の漫画の複雑な人物関係を図に起こそうなんて、単なる設定厨ではなかなかやらないことだと思うのです。カブルーか!

モンスターメーカー:早すぎた国産カードゲーム

 こちらは御存知ない方も多いでしょう。1988年に翔企画から発売された、独特の形状の箱にカードが二山に分かれて入っている、トレーディングではないカードゲームです。2021年に亡くなられたアナログゲーム界の雄、鈴木銀一郎先生がデザインし、九月姫先生の可愛らしいイラストもあって、当時の日本のアナログゲーム界に国産カードゲームブームを巻き起こしました。
 ゲーム内容は、キャラクターカードの中から好きなキャラクターでパーティーを組み、宝物を見つけたりモンスターと戦ったりしながら迷宮を踏破すると言ったもの。作品のシンボリックキャラクターとも言える美少女斧戦士ディアーネや、大きなつばあり帽に長い三つ編みおさげの見習い魔術師ルフィーア、大きな宝石付きのカチューシャ状のティアラを付けた金髪エルフ・ロリエーンのイラストなら、見たことある人もいらっしゃるかも知れません。
 ちなみに当時、シリーズ作品であるモンスターメーカー5を店頭で見たことあるんですが、私はあまりファンタジー作品には興味がなく、追従作品であるWizardry世界で野球をプレイするカードゲーム「ウィズボール」と、冒険企画局から発売された「レムリカ三部作」と呼ばれるカードゲーム(これもファンタジーですが当時愛読していた雑誌企画の関連作品だったため)のシリーズ三作だけ買って、モンスターメーカーのシリーズは買わなかったんですよね。まー単純に好みじゃなかったって話です。
 でもモンスターメーカーは後に小説や漫画、TRPGやボードゲーム、トレーディングカードゲームも発売され、前述の通り30年後に新版も発売されるなど、息の長い展開が続いています(なおレムリカのシリーズは前述の雑誌が休刊した頃に展開終了しました)。

 カードゲームと言えば、今日ではトレーディングカードゲームを思い浮かべる方も多いと思うのですが、トレーディングカードゲームの元祖「Magic: the Gathering(以下M:tG)」の発売は1993年。翌94年にリバイズド(第3版)が日本でも輸入販売されるようになり、95年には最初の正式な日本語版として第4版が翻訳発売され、爆発的な人気を得ました。
 この影響でD&Dやソードワールド等をプレイしていた当時のTRPG愛好家の大半がM:tGを始めとするトレーディングカードゲームへ流れ、私もその一人でした。この頃の、他のアナログゲームについてはあまり詳しい状況を知らないのですが、元々ボードゲーム系のアナログゲーム販売店でしか見られなかったモンスターメーカーやその他の国産カードゲームも、恐らくは市場縮小し終息してしまったものと思われます。
 モンスターメーカーを発売していた翔企画や、その他の国産カードゲームのメーカーはいずれも中小企業であり、ブームを引き起こしたと言っても根本的にマイナーなゲームで元々の市場規模が小さかったのです。世界規模で爆発的ブームを巻き起こし、大手企業が手綱を握ったトレーディングカードゲームに太刀打ちできるはずもなかったでしょう。

 モンスターメーカーも後にトレーディングカードゲームになりましたが、その発売は2001年と、当時のトレーディングカードゲームとしては後発組と言えます。老舗玩具メーカーとして知られるエポック社から発売されたそうですが、これは原作者の鈴木銀一郎先生が、元々エポック社のウォー・シミュレーションゲームのデザインをやっていた縁によるのではないでしょうか。しかし売り上げは芳しくなかったようで、2005年にわずか3版で展開終了したようです。
 内容は、トレーディングでない方のモンスターメーカーを踏襲した、好きなキャラクターでパーティーを組んで迷宮を踏破するタイプのゲームだったようですが、やはり主流のトレーディングカードゲームとは遊び方が違うのが難点だったのかも知れません。
 なお、他の国産トレーディングカードゲームは「ポケモンカードゲーム」と「スーパーロボット大戦 スクランブルギャザー」が1996年に、「遊戯王OCG」は少し遅れて1999年に発売されています。遊戯王は後発組とは言え、天下の週刊少年ジャンプ連載作品が原作で、M:tGをヒントに作中に登場した架空のカードゲームを実際に遊べるようにしたと言う事情もあるため、単純な比較はできませんが、1997年発売の「モンスターコレクションTCG」や1999年発売の「アクエリアンエイジ」、2002年発売の「デュエルマスターズ」と言った当時発売された多くのトレーディングカードゲームの中にあって、モンスターメーカーTCGも埋もれてしまったのでしょう。
 発売のタイミング次第ではもっと知名度を得られたであろうポテンシャルを持っているだけに、モンスターメーカーと言うシリーズそのものが現在でもマイナーであることは残念でなりません。

 しかし近年ではモンスターコレクションTCGが2018年に「モンコレデックビルディング:エレメンタル・ストーム」、M:tGが2022年に「ゲームナイト:フリー・フォー・オール」と言った「ボードゲームとして遊べる形式」のセットを発売しています。トレーディングカードゲームのブームも落ち着いた2024年現在、トレーディングカードゲームであれば無条件で売れる訳でもなくなったので、メーカー側が新しいアプローチ方法を模索しているのかも知れませんね。
 更に2019年以降の新型コロナ禍の影響で、屋内で電源を使わず遊べるアナログゲームに注目が集まるようになっていますので、その流れが現在のモンスターメーカーにも影響……すると良いなぁ……

 ダンジョン飯のアニメ化に伴い、モンスターイーターも再販されているようなので、そこからモンスターメーカーに、更にアナログゲームにちょっとでも興味を持ってもらえると、愛好家としては嬉しいのです。
 なので「磯野ー、モンスターメーカー遊ぼうぜー」と中島くんが呼びに来る日が来るのを楽しみにしています(来ない)。モンスターメーカーは無理でも、せめてカタンならワンチャン……(ない)。


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