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ゆうきちゃんのぼんやり日記(2023.01.06)

 2023年が始まってしまった。私たちの学年は2000年と2001年生まれで構成されているので、こうも順調に月日が経ち年が明けてしまうと自身の加齢もありありと感じてしまい、心が何だかやるせない。
 親世代は「昭和53年生まれです」とか言って年齢をごまかせるからいい。昭和~年生まれです、ああじゃあ私の2つ下だね、と暗号が巧妙に駆使された談話をこれまでどれだけ見たことか。それでも、平成が31年まで数えられていたことすら、もうみんなは忘れちゃったんだろうな。コロナが流行る前の生活が思い出せないのと同様に。

 小川洋子『猫を抱いて象と泳ぐ』(2009年単行本刊行)を、年の暮れから3が日にかけて読んだ。正しくは、雑事の隙間を縫って意地で読み切ったと言ってもいい。

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 この本を知ったきっかけは、出版社志望で就職活動をしていた際に何度か目にする機会があったからだった。よくある新卒向け社員紹介ページの、仕事内容や実績、1日のスケジュールとかいった項目をさらに下へスクロールしていくと大抵現れる「私の人生ベスト一冊」という欄で、おそらく2、3度ほどこの本と出会った。そのたびに「いったいどんな本なんだ」と気になって仕方なく、心のなかの積読の山に一度放り込まれたくせにずいずい前へ踊り出てきたといえる。

 女性作家の文芸作品はかなり好きだ。どろどろしていて、かなりしつこいと有難い。ただ、そのしつこさが行き過ぎるとクドいとも思っているので、「よかったな」と思うこともあれば、「これはもう2度と読むことはないな」とすぐ売りに行ったり、読了感ははっきり白黒つけにいくタイプの読書家である。また、しつこいのが女性作家だけだとは思っていない。入間人間と米澤穂信も好き。ただ、2000年代から2010年代前半にかけての小説がドンピシャで世代なものだから、その時期の女性作家の作品もなんとなく好きなんだろうなとハタチを過ぎた今なんとなく考えたりする。

 著名な作家の代表作はとりあえず押さえておきたいものだと日ごろから思ってこの10年ほどは生きてきているので、小川洋子先生の作品は『博士の愛した数式』と『薬指の標本』を読んだことがあった。どちらも15歳くらいの時に読んだはずだが、読んでいる最中に頭のなかで当時浮かべた情景を今でもすぐ蘇らせることができる、数少ない作品の一つたちである。また、国語の教科書で「愛されすぎた白鳥」と「巨人の接待」という短編を読んだことがあった。後者の方が好きだった。一方で、どの作品も男性は魅力的もしくは往年は魅力的だっただろうと表現されることが多いことが、なんとなく女性的な作品群だと私には印象付けられた。

 話が長い。入間人間的に切り替えるなら、閑話休題。
つまりこういうことだ。小川洋子先生の作品はしっかり押さえ切ったと思い、特に注意を払うことなく最近は「あの本読まなきゃ」「この本読まなきゃ」と積読を増やしに増やして満足していた私は、「今あえて小川洋子……読んじゃう?」と逆張りで読み始めたということを言いたかった。私大正解過ぎる。褒めちぎりたい。

 久々に「読書」をしたような気がする。桜庭一樹に夢中になって、『傷跡』や『製鉄少女』を読んだときのように。貴志祐介の『新世界より』を読み怖くなって震えたときのように。また、恩田陸の『上と外』を中学卒業後の春休みに読んだときのような。もっと思い返せば、赤川次郎の「砂のお城の王女たち」が入った短編集を読んだときのような、いや、宮部みゆきの『ソロモンの偽証』を読んだときのような……。とにかく、私の元来持つ頑固な集中力というものが活字の羅列に吸収されていって、私の意識すべてがとにかく作品の世界観へ持っていかれるという感覚は久しぶりだった。閑暇を潰すための片手間の読書では到底及ばない地平だった。10代の私はこの行為が好きで好きでたまらなかったんだろうなあと思う。

 あらすじや、物語のどこがどう良かったとか、それを語るのは野暮な気がして何も語ることが出来ない。一つ言えるのは、行き過ぎてクドいと思うことのない、しかし濃密すぎる世界観の構成と、その絶妙なバランスが優れているということ。もう一度読みたいと今は思わない。読むとすごく疲れるから。でも必ずもう一度いつか読みたいなと思う。
 そして、この作品は、近年見かけることの増えた、パッケージ化された娯楽小説や社会問題へ警鐘を鳴らす社会派小説とは一線を画しているといいたい。文芸とはこうあるべきだろう。何も声高に語る必要はないし、かといって語ることを放棄して軽薄に振舞うことは愚かだと思う。ただその世界が目の前に広がればいい。

 そして、その世界をまだ味わうことが出来てよかった。まだ私が読書できると知れてよかった。
 私に、この先大事な人ができたとして、その人にそっとお薦めしたい一冊である。

今日の日記はこれくらいにしたい。

本当に話が変わるのだが、1/1に『THE FIRST SLAM DUNK』も観に行った。もちろん原作履修済み。めちゃくちゃよかった。もう一度観に行く予定をしている。みんなも観て。以上でした。

ゆーきちゃん

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