神奈川探龍倶楽部

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『龍の遺産』  No.21

第三章 「龍は死なず!!」 風人一人、沼津からバスに揺られ、西伊豆の松崎町に出かけた。青木さんが車を出すと言ったのだが、今回はいつもの調査の他に、何かが起こりそうな気がして、遠慮してもらって一人旅となった。此処を訪ねるのは3回目になる。この町、松崎町が幕末前、表舞台では目立つことはなかった静かな港町だったはずだ。しかし、突如、造船所、見晴所が出来、多くの役人が来て陣屋が設けられて、外国船の脅威に備えることとなった。この時、時代の変化に敏感に反応したのが石田半兵衛の長男馬次郎

    • 『龍の遺産』  No.20

      第三章 「龍は死なず!!」 神奈川中央新聞の社内では、デスクと青木が顔を近づけて周りを気にしながら小声で話し合ってる。デスクが話を早く聞きたくて立て続けに青木に質問を投げかける。 「西伊豆に出掛けた神宮寺先生と風人さんから連絡があったか? 圓●さんたちはどうだ? お前の方は何か収穫はあったのか?」 「デスク、昨日の今日ではそんなに早く状況は変化しませんよ。静かに待ちましょうよ」 デスクが手を頭の後ろに回しため息まじりに天を仰いで 「一回見てみたいな。1万両でもいいから。今回

      • 『龍の遺産』  No.19

        第三章 「龍は死なず!!」 人見と伊庭は箱根から千葉に戻り、暫くしてから人見の家で二人「飛龍の滝」を調べる段取りを話し合った。 やはり二人だけでの調査はかなり無理があることが分かった。伊庭が「飛龍の滝」を上から見た写真を撮ってきたので、その写真を見ながらの話し合いをした。写真を指差しながら・・・・・・ 「ここからしか降りられないし滝の淵には近づけない。一人づつロープを使って降りる。多分二人しか降りられない。しっかり足場を確保しながらの作業になる。それと上に支えるために2~3

        • 『龍の遺産』   No.18

          第三章 『龍は死なず!!』 松崎の町役場を熊野権現の吉野が一人訪ねていた。 入り口を入るとほとんど全員が顔見知りなので 「ご無沙汰してます」と全員に向かって挨拶をした。  奥の方で作業をしていた職員の一人が吉野の方に顔を上げた。 「これは吉野さん、今日は何の用事? 例祭の話はまだ早いですよね?」 「いやいや今日は、個人的な興味で調べていることがあって、役場に資料はないかなと思ってお邪魔しました。うちの神社の彫り物を作った石田半兵衛さんの資料は役場にはありませんか? まだ調べ

        『龍の遺産』  No.21

          『龍の遺産』  No.17

          第三章 『龍は死なず!!』 ある昼下がり、一人の若者?青年が箱根湯本駅に降り立った。初めてなのか珍しいのか左右をきょろきょろ見渡しながら、時々手元の地図に眼を落し何かを探している。手がかりを見つけたらしく駅に沿って戻るように静かに目的を持って三枚橋に向かって歩き始めた。箱根湯本駅の川沿いの三枚橋を右に渡り、旧東海道を歩き、その青年は畑宿を目指した。物見遊山の一般の観光客とは違い、しっかりとした 目的を持った足取りだった。旧東海道の箱根の道はこの先から急になる。その若者は一歩

          『龍の遺産』  No.17

          『龍の遺産』  No.16

          第三章 『龍は死なず!!』 「先生、小田原まで来ると旅をしてる感じがしますね。空気と周りがそうだからでしょうか?」 風人と神宮寺は小田急線の小田原駅の改札を出た所だ。温泉に出かける人、山へ登る人、海へ向かう人など、週末でもないのに旅行へ出かける人々で改札付近は賑わっている。 圓●たちと一緒にでかけた久しぶりの想い出の地での稽古後、二週間経った。神宮寺と一緒に計画を立てていた湯河原への調査に出かけた。 神宮寺は改札付近の混雑を見ながら 「箱根は近いし、ここが日常と非日常の分岐

          『龍の遺産』  No.16

          『龍の遺産』  No.15

          第三章 『龍は死なず!!』『葛飾北斎と伊豆の名工:石田半兵衛一族』 最初に、この物語を語る上に、その時代の背景とその時の出来事を説明しなくてはなりません。 歴史の表舞台に華々しく登場し、書かれている史実とは別に、誰にも知られずに埋もれて行く小さな陰の出来事があります。 幕末時の掛川藩(現在の静岡県掛川市)の場所は当時、遠江(とうとうみ)と呼ばれていた。江戸に幕府が置かれてから長い間、目まぐるしく藩主が 交代し、1746年、藩主が太田資俊(すけとし)になってから、藩政が

          『龍の遺産』  No.15

          『龍の遺産』  No.14

          第二章 「『龍が覚醒(めざめ)る』 車から四人が飛び出してきた。原田が正面の階段を駆け上る風人を見上げる。ここは愛川町の中津川沿いにある修験者の山「ハ菅山」にあるハ菅神社。仲間の一人が声をかけている。 「追い詰めそうだぞ。ちょうどいい、人の来ない神社に追い込んだぞ」 目の前には「おみ坂」と言われる300ある階段があり、途中から女坂、男坂に分かれているほどの急こう配だ。風人にとってはこの程度の階段は毎日の日課の裏山への道より楽だ。しかし、原田たちにとっては、日々の生活で怠けて

          『龍の遺産』  No.14

          『龍の遺産』  No.13

          第二章 『龍が覚醒(めざめ)る』 神宮寺たちは、茅ヶ崎、平塚、寒川地区の調査は圓●たちにお願いし、自分たちは先日、まわりきれなかった津久井湖、相模湖エリアとその周辺の調査を始めようと検討し始めた。 まずはこの周辺に半原大工が携わった寺社の調査だ。相模原市緑区日連の青(せい)蓮寺(れんじ)、長竹の来迎寺(らいこうじ)、太井の小網(こあみ)諏訪(すわ)神社(じんじゃ)などを調査する予定だ。 まだまだ分からないことばかりだ。それなのに勝手に周りが騒がしくなってきた。 これから調査

          『龍の遺産』  No.13

          『龍の遺産』  No.12

          第二章 『龍が覚醒(めざめ)る』 週5回のバイト、一日、昼と夜のバイトをかけもちし、自宅戻りはいつも 8時過ぎだ。週二回の休みには、溜まった家事を済ませからの読書と勉強が日課。しかし、風人は普段の日でも、夜1時間、明け方1時間の別の日課がある。夜は住んでいるアパートの裏山に入り、独自の修行をしている。 暗闇・・・・・・月の光のみ。馴れた裏山まで続く道を駆け上がり、登り切ったら一呼吸おいてから、ゆっくりと竹林に分け入る。すべてが闇の中。 風人はその中を普通の速度で歩く。 ぶつ

          『龍の遺産』  No.12

          『龍の遺産』  No.11

          第二章 『龍が覚醒(めざめ)る』 「そんな訳で、爺ちゃん! 何か知っていることない? 全体が見えないと私たち、この人数(圓●を含め3人)では、今後、何もできないよ。昔のようにはいかないよ。今は物事が早く動き、変化していくのも早いし、それから俺たち経験も少ないし・・・・・・」 自宅に戻った圓●、居間に一人居る爺様に、今日の神宮寺先生たちとの話し合いを説明した。 圓●を溺愛している祖父、爺ちゃんが・・・・・ 「そうだな、圓●、かれこれ150年も経っているのを後生大事に守ることは

          『龍の遺産』  No.11

             『龍の遺産』  No.10

          第二章 『龍が覚醒(めざめ)る』         江戸幕府と宮ケ瀬 半原宮大工(はんばらみやだいく)     【登場人物】 神宮寺先生(宮彫り研究家) 「探龍倶楽部)代表。退職後、宮彫り調査研究のため、寺社を歩いて訪ねている。 以前は神奈川県を中心に調査していたが、現在は、千葉・東京・静岡など、関東一円まで足を伸ばして調査している。 特に現在は、彫り師の系図や龍の作品を探すことに没頭している。 皆から親しみを込めて「龍の先生」と呼ばれている。 風人(ふうと):本名は「

             『龍の遺産』  No.10

          『龍の遺産』   No.9

          第一章 『龍を探せ!!』 春というには少し早い1月下旬、まだ冬が居座っているが、確実にすぐそばまで春が来ている。正月の騒がしさも落ち着き、寺社も静かな時期だ。梅と雛祭りが来るまでの束の間の休息だ。コンクリートの路面を冷たい風に追い立てられるように、カサカサと落ち葉があわてて逃げていき、逃げ場が無くなり、道路の片隅に積み重なっている。冷たい風が下の方から這い上がってくる東名高速道路のパーキングエリアの駐車場の片隅。街頭の灯りがあまり届かない場所。二人の男がその落ち葉を踏みしめ

          『龍の遺産』   No.9

          『龍の遺産』   No.8

          第一章 『龍を探せ!!』 かくしてそれから二週間後、神奈川中央新聞の土曜日の朝刊に第一弾が掲載された。 ――『謎多き天才絵師:葛飾北斎と龍の宮彫り師たち』―― 海外のゴッホ、エドガー・ドガなどの多くの画家のほかに多大なる影響を与えた葛飾北斎。その北斎に多大なる影響を与えたとされる安房の国の宮彫り師:初代武志伊八郎信由。同じく宮彫り師「龍の利兵衛」と呼ばれた初代後藤利兵衛橘義光との関係・・・・・・ これらの史実を積み重ねると新しい解釈の歴史が見えてくる・・・・・・ 初回は

          『龍の遺産』   No.8

           『龍の遺産』    No.7     

          第一章 『龍を探せ!!』 四■は、時間が出来た時、なるべく「東の防人」龍一の事務所を見張ることにしていた。圓●は例の連中(神宮寺先生のグループ)の望月さんから情報を得ようとしてるし、菱◆は新聞記者に貼りついている。俺は、あの助手の若者を調べているだけだ。しかし今日は昼から龍一の事務所脇の道に車を止め、監視体制に入った。車の中でコンビニの弁当を食べていた時、事務所から男が出てきた。こっちに向かってくる。 運転席側の窓を叩いた。今、気付いたように、あわてて窓のガラスを下げる。

           『龍の遺産』    No.7     

          『龍の遺産』   No.6

          第一章 『龍を探せ!!』 ホテルに無理を言って、各自の部屋とは別に小さな部屋を借りた。夕食前に一回整理の意味で集まった。 神宮寺からの一言で始まった。 「お疲れ様でした。まずは私から、今日はいろいろ発見があったし、資料も集まりました。これに関しては事務所に戻って整理してから、もう一度、皆さんにお話しします。私たちが当初は半信半疑で初めた今回の件の調査、信ぴょう性が高まってきました。それは推理や証拠が固まった訳ではなく、私たちの調査に関心をもつ人たちが現れたからです。風人くん

          『龍の遺産』   No.6