2024/03/26

二階堂奥歯のことを考えている。
ずっと考えている。

彼女が「八本脚の蝶」をインターネットに残してくれたおかげで、私は救われている。
苦しいとき、ブラウザをひらけばいつでも彼女の言葉にアクセスできる。

彼女から学んだことは、
好きな言葉を集めて広げて見せること。

言葉について考えている。
出会いについて考えている。

最初に純少女と呼ばれなくなった時のことを私の恋人はよく覚えていない。美貌や優秀な頭脳が生まれつき備わっていることを自覚する私の恋人は、ありのままの感情を向けることで、茫漠とした世界にささやかな慈しみの種を振り蒔くことができると思っていた。いや、自分にはそれくらいしかできない。そして自分の人生は、そんな微細だが美しいことが継続するためにくべられる小さな薪のようなものなのだ。長らくそう信じていたはずが、いつの間にかそんな風に思わなくなっていることに気づく。「そうかしら?」と、私の恋人は首を傾げる。

上田岳弘「私の恋人」

謎に出会う。私はそれを他者に投げる。そうして相対化する。
それが私のやり方だった。そしてこれからの人生のほとんどの場合、外部に頼って相対化し、取り組んでいくだろう。

でも例外もあるのかもしれない、と思う。
ときには、ひとりでうんと考えて、ひとりよがりになってもいいのかもしれない。
これだけは私のものだ、と思えるなにかが到来することだってある、と知った。

ただしそれはきっと長く続かないと思う。
必ずどこかのタイミングで、外部に触れ、「そうかしら?」となるのもわかっている。

「今は」と思う。今だけは、この思考や感情に浸かっておきたい。

死なない程度に。

二階堂奥歯は死んでしまったのだから。

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